【国立東京近代美術館】展覧会「アンチ・アクション 彼女たち、それぞれの応答と挑戦」

アイティーエル株式会社では、一人でも多くの方が美術館や博物館を訪れるきっかけとなるべく、2020年7月より【ミュージアム・レポート】を開始いたしました。
今回は、国立東京近代美術館にて開催中の展覧会「アンチ・アクション 彼女たち、それぞれの応答と挑戦」をご紹介します。

本展覧会について

展示風景(東京国立近代美術館)

「アンチ・アクション」とは、美術史の専門家・中嶋泉(なかじまいずみ)(本展学術協力者、大阪大学大学院人文学研究科准教授)氏が提唱した概念です。1950〜60年代の日本の女性アーティストたちが、当時の男性中心の「アクション・ペインティング」や「アクション=力強さ・躍動性」という価値観に対して、異なる表現や制作のあり方で応答した活動の総称です。
戦後の抽象絵画や前衛美術では、ジャクソン・ポロックのようにキャンバスに激しく絵具を投げつける「アクション・ペインティング」や、身体の動きを前面に出す表現が評価されがちでした。しかし「アンチ・アクション」は、そうした力強さや激しさだけを尊重する考え方に異議を唱えた創作傾向を指します。
当時の美術批評は男性中心で、「動き・勢い・力強さ」こそが前衛美術の価値だとされる傾向が強く、そのため女性作家の制作は評価されにくかった背景がありました。本展覧会は、そうした偏った評価軸を問い直し、彼女たちの表現を正当に検証しようというものでもあります。

会場構成と展示の流れ

1. 戦後の空気 — 前衛芸術の誕生と女性たち

展示風景(東京国立近代美術館)

会場では、戦後の日本が大きな変化を迎えた時代背景からはじまります。戦争が終わり、社会全体が自由や新しい表現を模索していた1950年代、美術界でも大きなうねりがありました。
国外からは抽象芸術の潮流が流入し、それによって「アンフォルメル」など新しい概念が紹介されます。
この時期、女性作家たちも独自の表現を模索し、注目を集めましたが、すぐに評価の中心から外されてゆくという歴史がありました。そうした背景と女性アーティストたちの最初の挑戦が紹介されています。 

2. 表現そのものの意味を問い直す — 多様な「アンチ・アクション」

展示風景(東京国立近代美術館)

ここでは、14人の作家による作品がテーマ別・作家別に展示されています。特に気になった3名を紹介します。

  • 草間彌生:世界的に知られる前衛芸術家。初期から独自の視点で形やパターンを探求しており、他の作家にない明確な表現意志を感じさせます。
    草間彌生の出品作では、後の彼女の象徴となる水玉や反復モチーフが見える原点的な作品です。パターンや繰り返しのドローイングは、一見すると静かな印象ですが、内側には強い意志と個人的なリズム感が宿っています。
  • 田中敦子:色や形の概念を徹底的に追求した作品は「動き=力」ではなく、色彩や面の関係性そのものが表現となることを示しています。田中敦子の代表作として紹介されることの多いこの作品は、色面と空間の関係を徹底的に探求したもので、「アクション」の派手さとは無縁です。観る者は、色と空間の微細なバランスに引き込まれていきます。
  • 福島秀子:素材感や制作プロセスにこだわり、線や色ではなく素材の奥行きや存在感そのものを見せる作品が特徴的です。初期作品では人間の顔や身体、植物といった具象的モチーフを抽象化する作品を描き出しますが、その関心は次第により純化された抽象性へと向かっていきます。

これらの作品は、一見すると従来の「アクション」表現とは異なり、「静けさ」や「深さ」が際立っています。でも、それは弱さではなく、別の豊かな表現性を持った行為そのものなのだと気付かされることでしょう。

戦後日本の美術史をジェンダー研究の視点から読み直す

展示風景(東京国立近代美術館)

戦後日本の美術史をジェンダー研究の視点から読み直す重要な企画です。これまで語られにくかった女性作家たちの存在と創作活動を、歴史の中心へと再び引き戻そうとする試みでもあります。
「アンチ・アクション」は単なる過去の振り返りではなく、“美術史の中でなぜ一部の表現が正当に評価されずに埋もれていったのか?”という問いを含んでいます。
女性アーティストたちの制作が、その時代の価値観や批評の枠組みにより、どのように扱われてきたのかを問い直すことは、現代の価値観そのものを問い直すことにもつながっていると言えるでしょう。
つまり本展覧会は、「作品が良い/悪い」ということだけでなく、評価の仕方そのものを問い直す視点を私たちに与えてくれる貴重な機会でもあると捉えられます。

最後に

左:白髪富士子《作品No.1》 1961 高松市美術館、《白い板》1955/1985 兵庫県美術館(山村コレクション)

「アンチ・アクション 彼女たち、それぞれの応答と挑戦」は、戦後日本美術を再評価する上でとても重要な展覧会です。
美術を「派手な動き」や「力強さ」だけで語るのではなく、静かな強さ、素材そのものへの問いかけ、制作の内面的な深さもまた、芸術表現の核心となり得ることを教えてくれます。
これは単に過去を振り返るだけでなく、いま自分自身が美術をどう捉えているかを問い直すきっかけにもなるでしょう。
草間彌生や田中敦子といった名前はすでに知っている人も多いかもしれませんが、この展覧会でそれらの作品を「歴史的・社会的背景とともに見ることの価値」は、アート初心者にとっても大きな体験となるはずです。

情報

「アンチ・アクション 彼女たち、それぞれの応答と挑戦」展
会場:国立東京近代美術館
会期:2025年12月16日~2026年2月8日
時間:10:00〜17:00(金土〜20:00)※入館は閉館の30分前まで
閉館:月曜日
ホームページ:https://www.momat.go.jp/exhibitions/566