自身の表現で羽ばたいた女性たちにフォーカスする
2020年、猛威を振るった新型コロナウイルス感染症により、美術館、博物館、ギャラリーなどの文化施設に、なかなか訪れられない日々が続きました。
しかし、新しい生活様式のもと事前予約をはじめ、検温や消毒など徹底した感染症対策を行い、運営に努める施設関係者の思いに応えられるように、一人でも多くの方が美術館を訪れるきっかけとなるべく、展覧会の模様を伝える【ミュージアム・レポート】をスタートしました。
そのような経緯から渋谷・Bunkamura ザ・ミュージアムにて開催している、『マリー・ローランサンとモード』展をご紹介したいと思います。
女性的な美をひたすら追求したマリー・ローランサンと男性服の素材やスポーツウェアを女性服に取り入れたココ・シャネル。
マリー・ローランサンとココ・シャネルの生誕140年を記念する本展覧会では、美術とファッションの境界を交差するように生きた2人の活躍を軸に、時代を彩った人々との関係にも触れながら、2つの世界大戦間にありながらもモダンとクラシックが絶妙に融合するパリの芸術界を俯瞰します。
展示は、第1章「狂騒の時代のパリ」、第2章「越境するアート」、第3章「モダンガールの変遷」、エピローグ「ローランサンの色彩」で構成。ローランサンの絵画はもとより、シャネルの軌跡や1910〜1930年代のファッションを、オランジュリー美術館やマリー・ローランサン美術館※など、国内外のコレクション約90点にてご紹介。
ともに時代を切り開こうとした、ローランサンとシャネルの2人の女性の創作の真価が明らかとなります。
マリー・ローランサン(1883年-1956年))は20世紀前半にフランスで活動し、死ぬまで女性性(フェミニン)をテーマに作品制作を探求した、女性前衛芸術家です。
初期の作風は、特にパブロ・ピカソやジョルジュ・ブラックに大きな影響を受け、キュビストとしてパリ前衛芸術シーンの重要な画家として評価されました。
その後、パステル調の色彩や曲線的な形態の女性的な芸術を追求していくうちに、独特な抽象絵画をともなった女性ポートレイトや女性グループの注文絵画を描くようになり、エコール・ド・パリの画家として活躍していきました。
1918年の第一次大戦終結の後、1920年から1929年までパリはさまざまな人々が集まり、戦争の混沌と惨禍を忘れるように、芸術と文化が花開いた「狂騒の20年代」を形成しました。
歴史という観点から見れば短い時代でしたが、その影響力と創造力は永遠に色褪せることはありません。
この時代、美術、音楽、文学、そしてファッションなど、別々の発展を遂げてきた表現が、新たな総合芸術を生み出すために、垣根を超えて手を取り合いました。
画家として、女性として、時代に煌めいたカリスマにしてパイオニアでもあり、人気を博したマリー・ローランサンもそのひとりです。
彼女は「女性性」を引き出す独特な色彩の作品を描いただけでなく、室内装飾として調和する作品を生み出すほか、フランスを中心に人気があったバレエの舞台美術や衣装なども手がけています。
1920年代の空気感を味わえる会場では装飾性を感じられる《鳩と花》、そしてバレエのパンフレットやポスター、《牝鹿と二人の女》などが鑑賞できます。
また、マリー・ローランさんの作品だけでなく、ココ・シャネルの軌跡と1910-1930年代のファッションの潮流もご覧になれるのも本展覧会の見どころのひとつです。
第一次世界大戦が契機となった女性の社会進出、大衆文化・消費文化を背景にして、1920年代に新しい女性たち“モダンガール”が登場します。そんなモダンガールの象徴とも言える身体の解放や装飾の簡略化は、世紀末やアール・ヌーヴォー期からスタートしていました。
会場では、1910年代ポール・ポワレがコルセットから解放したエキゾチックなスタイルから、1920年代ココ・シャネルが生み出したユニフォームのようなニュートラルのドレス「リトル・ブラック・ドレス」、そして1930年代マドレーヌ・ヴィオネがバイアスカットを駆使したドレスなど、その年代を象徴するファッションスタイルが展示されています。
時代とともにありながら、時代を超えた存在となった、マリー・ローランサンとココ・シャネル。
ふたりの生誕140年を記念するこの展覧会では、新しい時代を象徴する女性の姿を通して、女性が持つ独特なエネルギーに触れられるとともに、女性性(フェミニズム)やその表現、創作の今日的な意味とその真価について、改めて考えさせられることでしょう。
オランジュリー美術館やマリー・ローランサン美術館など国内外のコレクションから、約90点の素晴らしいラインナップでおくる本展覧会に、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。
※マリー・ローランサンの世界で唯一の専門美術館。コレクションは現在非公開。
取材・撮影・文:新麻記子
【情報】
『マリー・ローランサンとモード』展
会期:2月14日(火)~4月9日(日)
会場:Bunkamura ザ・ミュージアム
時間:10:00~18:00(入館は17:30まで)
毎週金・土曜日は21:00まで(入館は20:30まで)
休館:3月7日(火)
HP:https://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/23_laurencin/