【世田谷文学館】「石黒亜矢子展 ばけものぞろぞろ ばけねこぞろぞろ」

あやかしの世界へと誘ってくれる石黒亜矢子作品

展示風景©Ayako Ishiguro

2020年、猛威を振るった新型コロナウイルス感染症により、美術館、博物館、ギャラリーなどの文化施設に、なかなか訪れられない日々が続きました。

しかし、新しい生活様式のもと事前予約をはじめ、検温や消毒など徹底した感染症対策を行い、運営に努める施設関係者の思いに応えられるように、一人でも多くの方が美術館を訪れるきっかけとなるべく、展覧会の模様を伝える【ミュージアム・レポート】をスタートしました。

そのような経緯から世田谷文学館にて開催している「石黒亜矢子展 ばけものぞろぞろ ばけねこぞろぞろ」をご紹介します。

展示風景©Ayako Ishiguro

世田谷文学館は、1995年に東京23区では初の近代総合文学館として、東京都世田谷区南烏山に開館しました。

多くの作家が居を構えて物語の舞台としてもたびたび描かれる文学の街、世田谷。徳冨蘆花、萩原朔太郎、宇野千代、横溝正史など、区にゆかりのある作家の原稿・初版本、書簡・遺品等が展示される展覧会が開催されてきました。

ジャンルの枠にとらわれない多彩なテーマに迫るの企画展や関連イベント、子ども向けワークショップなどさまざまな催しのほかにも、文学サロンでは講演会、コンサート、朗読会、映画上映を行うなど、生きた文学を体験できる場となっています。

展示風景©Ayako Ishiguro 右:雅太郎玩具店による『いもうとかいぎ』モチーフの新作

展示風景©Ayako Ishiguro

石黒亜矢子さんは、妖怪、化け猫、想像上の生き物を主題とし、日本画を想起させる流麗な筆致で描きだす絵描きとして、国内外で個展を開催するなど精力的に活動しています。

『ばけねこぞろぞろ』(あかね書房)、『いもうとかいぎ』(ビリケン出版)、『えとえとがっせん』(WAVE出版)などの絵本や、『豆腐小僧双六道中ふりだし』京極夏彦/著(講談社)、『現代版 絵本御伽草子付喪神』町田康/著(講談社)などの挿絵・装画、その他企業とのコラボレーション作品も手がけるなど活動は多岐に渡ります。

彼女が描く生き物たちは、色彩豊かに美しく愛らしく、クスッと笑えるユーモアたっぷりで、ときにちょっぴり不気味な表情をたたえ、瞬く間に私たちを異世界へと誘ってくれます。

展示風景©Ayako Ishiguro

初の大規模個展となる本展では、画業の最初期の妖怪絵をはじめ、『いもうとかいぎ』『えとえとがっせん』『ねこまたごよみ』などの絵本原画を中心に、描きおろしの新作約20点を含む500点あまりの作品が展示されます。

両脇に化け猫の絵が鎮座している提灯のぶら下がるやぐらを抜け、入口から突き当りにあるのはタイトルとメインビジュアルにも使用されている《地獄十王図》。

本作品は猫の閻魔大王など10の王が描かれており、地獄に落ちた猫を苦しめる鬼など、キャラクターが細かく設定されており、大きな画面の隅から隅まで飽きずに眺めることができます。

取材時において石黒亜矢子さんは「私は描いていくうちに描き足していき、同時にお話(設定)も湧き上がってくるんです。ですので、私が描くものにはすべてお話(設定)があるんです」と語っていました。

展示風景©Ayako Ishiguro

新作≪地獄十王図≫2022年©Ayako Ishiguro

その他にも、「百鬼夜行」や「UMA」のコーナーでは、私たちが知っている妖怪やUMAが名を連ね、どれも色鮮やかでユーモラスでもありながら、時には不気味さも醸し出しています。

また、最後はタイトルにもある「ばけものぞろぞろ ばけねこぞろぞろ」のコーナーでは、石黒さんの描く魑魅魍魎(ちみもうりょう)が跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)するあやかしの世界が展開されています。

妖怪やUMA、多彩な化け猫など、その創作の原点には、石黒亜矢子自身が影響を受けたと語っていた、奇才のアーティストたちによる作品集や資料集が、アトリエからお借りしてきた私物展示のなかにありました。

展示風景©Ayako Ishiguro

妖怪、化け猫、想像上の生き物をテーマに、色彩豊かに美しく愛らしく、クスッと笑えるユーモアたっぷりで、ときにちょっぴり不気味な表情をたた、瞬く間に私たちを異世界へと誘ってくれる本展覧会。

会期中、文学館の1階に「どっせい!ねこまたずもう」をモチーフにしたメディアアート作品が出現する「どっせい!ねこまたずもう~夏場所~」の関連展示をはじめ、都市伝説系YouTuber「都市ボーイズ」がオカルトのジャンルを問わず、不思議体験・不思議現象について深く語っていく都市ボーイズ・ライブ「怪奇オカルトトークショー」やシンガー・ソングライターのおおはた雄一さんと、ミュージシャンの坂本美雨さんによるおお雨・ライブ「化け猫ロック」など関連イベントが開催されます。(チケットは既に完売のものもあるのでチェックしてください。)

ぜひゆっくりと堪能する時間を設けて、会場に足を運んでみてください。

取材・撮影・文:新麻記子

【情報】
「石黒亜矢子展 ばけものぞろぞろ ばけねこぞろぞろ」
会期:2023年4月29日(土・祝)~9月3日(日)
会場:世田谷文学館(東京都世田谷区南烏山1‐10‐10)
開館時間:10:00~18:00(入場は17:30まで)
休館日:月曜日(月曜が祝日の場合は開館し、翌平日休館)
ホームページ:​https://www.setabun.or.jp/​