アイティーエル株式会社では、一人でも多くの方が美術館や博物館を訪れるきっかけとなるべく、2020年7月より【ミュージアム・レポート】を開始いたしました。
困難な状況下においても美術館・博物館ではさまざまな企画や対策をおこなっていることから、全てのアートシーンに対してこれからも変わらず応援していくべく、アイティーエルも継続して情報を発信していきたいと思います。
今回は、2024年11月23日(土)にリニューアルオープンした東京・丸の内の三菱一号館美術館にて開催中の「再開館記念 『不在』—トゥールーズ=ロートレックとソフィ・カル」(会期:2024年11月23日(土)〜2025年1月26日(日))をご紹介します。
三菱一号館美術館の本展覧会への想い
三菱一号館美術館は2010年4月の開館以降、40本の企画展を開催してきました。
2023年4月からは設備メンテナンスのために長期休館していましたが、2024年11月23日に再開館いたします!これまでの活動を踏まえ、人々が集い、語り合い、新たな発見があるような魅力ある展覧会を継続して開催していきます。
美術館は、時代の変化に応じて、常にその活動を見直す必要があります。そのために、時代を映す鋭敏なアーティストの感性を借りることが、ひとつの最善策であると考え、2020年の開館10周年記念展として企画された「1894 Visions ルドン、ロートレック」の開催に際し、現代フランスを代表するアーティストのソフィ・カル(1953- )氏を招聘する予定でした。
しかし、世界的な新型コロナウイルス感染症の流行により、ソフィ・カル氏は来日を見送らざるをえず、現代アーティストとの協働というプロジェクトは再開館後に持ち越されることになりました。
本展覧会「再開館記念 『不在』—トゥールーズ=ロートレックとソフィ・カル」について
リニューアル・オープン最初の展覧会となる「再開館記念『不在』―トゥールーズ=ロートレックとソフィ・カル」では、19世紀末のパリで活躍したアンリ・ド・トゥールーズ=ロートレックと、フランスを代表する現代美術家ソフィ・カルを紹介します。
同館のコレクションそして展覧会活動の核をなすアンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック(1864-1901)の作品を改めて展示し、そこにソフィ・カル氏を招聘し協働することで、同館の美術館活動に新たな視点を取り込み、今後の発展に繋げていくことを目指します。
トゥールーズ=ロートレック|「不在」と表裏一体の関係にある「存在」
19世紀末フランスを代表するトゥールーズ=ロートレックは、素早い描線と大胆な構図を活かしたポスターなどを手がけたことで知られており、彼の作品は、カフェ、キャバレー、ダンサー、歌手、娼婦といった当時のパリの活気ある文化や社会をテーマにしています。
トゥールーズ=ロートレックは、「不在」と表裏一体の関係にある「存在」について、興味深い言葉を残しています。
「人間だけが存在する。風景は添え物に過ぎないし、それ以上のものではない。」
1897年の旅行中、アンボワーズの風景に感動していた同行者に対して発せられたこの言葉に象徴されるように、生涯にわたって人間を凝視し、その心理にまで踏み込んで、「存在」に迫る作品を描きました。
トゥールーズ=ロートレックも彼が描いた人々も「不在」となり、今ではその作品のみが「存在」しています。
会場では、三菱一号館美術館の所蔵作品を中心とする136点を通して、「時代の記録者」ロートレックの作品を、ソフィ・カル氏から投げかけられた主題である、「不在」とその表裏の関係にある「存在」という視点から見直します。
ソフィ・カル|「不在」という主題
ソフィ・カルは、フランスを代表する現代美術作家のひとりであり、写真家、作家です。
自分自身、もしくは他者とのつながりをモティーフとし、日常生活や人間関係をテーマにした作品で知られており、現実と虚構のはざまを行き交う大胆で奇抜な制作活動は見る者の心に強い印象を残します。
彼女は制作活動を始めた1979年以降、自伝的作品をまとめた《本当の話》(1994年)、自身の失恋体験による痛みとその治癒を主題とした《限局性激痛》(1999年)など、パフォーマンス、インスタレーション、テキスト、写真、映像などを組み合わせた作品を数多く生み出してきました。
今回、本展覧会との協働にあたって「不在」という主題を提案されたそうです。
会場では、カル自身や家族の死にまつわる《自伝》をはじめ、額装写真の前面にテキストを刺繍した布を垂らし、その布をめくると写真が現れる《なぜなら》など、テキストと写真を組み合わせた代表的なシリーズを展示。さらに、三菱一号館美術館が所蔵するオディロン・ルドンのパステル画《グラン・ブーケ(大きな花束)》に着想を得た作品を初公開します。
ソフィ・カルの多くの作品に通底する「不在」をテーマに、美術の根幹に関わる視覚や認識、「喪失」や「不在」について思いを巡らせ、「不在」という主題を通して、改めて当事者が関わることができない「存在」について考える機会が与えられるでしょう。
最後に
トゥールーズ=ロートレックも、ソフィ・カルも、それぞれ異なる時代と分野で活躍しているアーティストですが、どちらもその独自性と大胆な表現で知られており、それぞれ作品は今日でも多くの人々に愛され、美術館や展覧会で広く紹介されています。
ロートレックは19世紀末のパリの社交界や娯楽文化を描写した華やかで喧騒に満ちた世界と、ソフィ・カルは現代社会の人間関係をテーマにした静かな観察と内省の世界は、対照的でありながらも人間性や社会への深い洞察が共通しているといえるでしょう。
不在と存在をテーマにしたそれぞれの作品を通じて、時代や文化を超えた「人間の本質」に迫る視点を感じてみてはいかがでしょうか。
展覧会情報
展覧会「再開館記念 『不在』—トゥールーズ=ロートレックとソフィ・カル」
会期:2024年11月23日(土)〜2025年1月26日(日)
会場:三菱一号館美術館
住所:東京都千代田区丸の内2-6-2
開館時間:10:00〜18:00
※祝日を除く金曜日と会期最終週平日、第2水曜日は20:00閉館
※入館はいずれも閉館30分前まで
休館日:月曜日(トークフリーデー:11月25日(月)および12月30日(月)、1月13日(月・祝)・20日(月)は開館)、12月31日(火)、1月1日(水・祝)
観覧料:一般 2,300円、大学生 1,300円、高校生 1,000円、小・中学生 無料
※障がい者手帳の所持者は半額、付添者1名までは無料
※小展示「坂本繁二郎とフランス」も観覧可
公式サイト:https://mimt.jp/ex/LS2024/