【森美術館】「マシン・ラブ:ビデオゲーム、AI と現代アート」

ビープル《ヒューマン・ワン》2021年-2024年

アイティーエル株式会社では、一人でも多くの方が美術館や博物館を訪れるきっかけとなるべく、2020年7月より【ミュージアム・レポート】を開始いたしました。

困難な状況下においても美術館・博物館ではさまざまな企画や対策をおこなっていることから、全てのアートシーンに対してこれからも変わらず応援していくべく、アイティーエルも継続して情報を発信していきたいと思います。

今回は、現代アートに限らず、デザイン、ゲーム、AI研究などの領域で高く評価されるアーティスト、クリエイター12組の作品が一堂に会す、森美術館にて開催中の「マシン・ラブ:ビデオゲーム、AI と現代アート」(会期:2月13日(木)~ 6月8日(日))をご紹介します。

本展覧会について

画像:佐藤瞭太郎《ダミー・ライフ #11》

現代社会では仮想空間と現実世界が接続し、人工知能(AI)が飛躍的に発展するなか、新しいテクノロジーは私たちの日常生活に急速に浸透しました。とりわけコロナ禍は仮想空間における活動を加速させたといえるでしょう。

顧みればテクノロジーとアートは、コンピューター・アート、ビデオ・アートなどの歴史のなかで常に併走してきました。近年のビデオゲームやAIの発展がアーティストの創造活動に新しい可能性をもたらす一方で、生成AIの登場は人類の創造力にとっての脅威ともなっています。

本展では、ゲームエンジン、AI、仮想現実(VR)、さらには人間の創造性を超え得る生成AIなどのテクノロジーを採用した現代アートを紹介します。

藤倉麻子《インパクト・トラッカー》2025年 3チャンネル・ビデオ 13分38秒

会場では、現代アートに限らず、デザイン、ゲーム、AI研究などの領域で高く評価されるアーティスト、クリエイター12組が、生物学、地質学、哲学、音楽、ダンス、プログラミングなどの領域とのコラボレーションを通して制作した作品が一堂に会します。

そこではデジタル空間上のさまざまなデータが素材となった全く新しい美学やイメージメイキング(図像や画像を作ること)の手法、アバターやキャラクターなどジェンダーや人種という現実社会のアイデンティティからの解放、超現実的な風景の可視化といった特性が見られます。

これら新しい方法を採用しながら、アーティストの表現の根幹では普遍的な死生観や生命、倫理の問題、現代世界が抱える環境問題、歴史解釈、多様性といった課題が掘り下げられています。

本展の見どころ

さまざまな領域の専門性が集結し、新しい世界を表現

画像:アドリアン・ビシャル・ロハス 「タイムエンジン」ソフトウェアによって生成された環境シミュレーション 2022年 「Courtesy:kurimanzutto」「※参考図版」

会場では、現代アートに限らず、デザイン、ゲーム、AI研究などの領域で高く評価されるアーティスト、クリエイター12組が、生物学、地質学、哲学、音楽、ダンス、プログラミングなどの領域とのコラボレーションを通して制作した作品が一堂に会します。

最新のテクノロジーと現代アートの関係性を、多様なフィールドが融合した展覧会というプラットフォームで体験できます。

アートやメディア・アートのプライズの受賞者多数

思いがけないアイデアとの出会いに焦点を当て、世界の状況について読む、聴く、考えるための新たな形を生み出すべく、スペキュレイティブ・ストーリーテリング(思弁的物語)の手法を作品に取り入れているキム・アヨン。

キム・アヨンは《デリバリー・ダンサーズ・スフィア》(2022年)で、メディア・アート界の世界的な賞である、アルス・エレクトロニカ賞のニュー・アニメーション・アート部門で2023年にゴールデン・ニカ賞(グランプリ)を受賞、2024年には韓国国立アジア文化センター(ACC)の第1回フューチャー・プライズを受賞しました。

科学から宗教、心理学、医学、ゲーム、ポップカルチャーといった幅広い分野から着想を得た映像作品を制作するルー・ヤンは、2022年のドイツ銀行グループアーティスト・オブ・ザ・イヤーを受賞。

ルー・ヤン(陸揚)《独生独死—自我》2022年 「音楽:liiii」

アジアの歴史をテーマとしながら個人の物語に寄り添う作品を制作してきたシュウ・ジャウェイは、2024年のアイ・アート&フィルム・プライズ(アムステルダムのアイ・フィルム・ミュージアム)を受賞。

そして、AI研究の第一人者であるケイト・クロフォードと情報通信技術(ICT)研究者でアーティストのヴラダン・ヨレルは《帝国の計算:テクノロジーと権力の系譜 1500-2025年》(2023年)で、アルス・エレクトロニカ賞の中でもメディア・アートに革新をもたらしたアーティストを表彰するS+T+ARTSのグランプリを受賞しています。

デジタル+リアルの世界を往復!インタラクティブな作品に観客が参加できる!

画像:AIキャラクターとの対話に挑戦できるディムートの《エル・トゥルコ/リビングシアター》(2024年)

会場では、最新のデジタル映像作品だけでなく、平面作品、立体作品、インスタレーションなど、リアルに実在する作品も多く展示され、展覧会はデジタル空間と現実空間を往来する体験となります。

また来場者は、先述の章で紹介したキム・アヨンの《デリバリー・ダンサーズ・スフィア》ゲーム版や、AIキャラクターとの対話に挑戦できるディムートの《エル・トゥルコ/リビングシアター》(2024年)などインタラクティブな作品に参加できます。

また、インディー・ゲーム(※1)・コーナーでは、メディア・アーティストであり、本展アドバイザーである谷口暁彦が「私と他者」の二者の関係性をテーマにゲームをセレクトし、初心者でも楽しめるゲームを来場者同士で実際にプレイすることができます。

AIやテクノロジーに対して取っ付きにくいと思っている人にこそ、ぜひ作品の体験を通して自分の身近に感じてほしいと思います。

※1 インディー・ゲーム(indie game)個人または少人数の開発者が作った、メジャーなゲームにはない実験志向の強いゲーム。

最後に

ケイト・クロフォード、ヴラダン・ヨレル《帝国の計算:テクノロジーと権力の系譜 1500-2025年》2023年

本展では21世紀に広く浸透したコンピューターやインターネットに深く関わる新しい「マシン」(※1)時代のアートに注目します。

「マシン」とアーティストが協働する作品や没入型の空間体験は、ラブ、共感、高揚感、恐れ、不安など私たちの感情を大いに揺さぶることでしょう。

今回は1つのテーマをもとに13組みのアーティストによるさまざまな作品をキュレーションしたものなので好みは別れるとは思いますが、AIやテクノロジーをテーマとしながらも、無機質なディストピア的な世界観を描いたものはなく、どこか血が通ったようなあたたかみを感じることができました。

AIやテクノロジーがない世界は考えられない昨今において、体験し、没入し、現実と仮想空間が重なりあう本展は、人類とテクノロジーの関係を考えるプラットフォームとして、不確実な未来をより良く生きる方法を想像する良き機会となることでしょう。

※1 ここで言う「マシン」は従来の重工業的な「機械」のイメージではなく、
コンピューターおよびハードウェアの総称としての「マシン」を主に意味します。

【情報】
「マシン・ラブ:ビデオゲーム、AI と現代アート」
会期:2月13日(木)~ 6月8日(日)
会場:森美術館
時間:10:00~22:00
   ※火曜日のみ17:00まで
   ※ただし2025.4.29(火)、5.6(火)は22:00まで
   ※最終入館は閉館時間の30分前まで
ホームページ:https://www.mori.art.museum/jp/exhibitions/machine_love/index.html