
アイティーエル株式会社では、一人でも多くの方が美術館や博物館を訪れるきっかけとなるべく、2020年7月より【ミュージアム・レポート】を開始いたしました。
今回は、21_21 DESIGN SIGHTにて開催している、スープを入り口に衣食住の根源をあらためて見つめ直す企画展「スープはいのち」をご紹介します。
本展覧会について

本展覧会は、衣服や住まいという身体の外側の環境と、食という内側の環境を「身体を包む行為」として捉えてきた、デザイナー・遠山夏未をディレクターに迎え、スープを入り口に衣食住の根源をあらためて見つめ直します。
「スープ」という言葉からあなたは何を思い浮かべますか? 水と食材を火にかけるという最小の行為から生まれるスープは、素材に宿る力や熱の移ろい、土地の歴史、身体の感覚、器や食空間の静かな佇まいといった、多様な層が同時に息づいています。
外側の世界と内側の世界がひとつに溶け合い、小さな器のなかに”生きる環境そのもの”が立ち上がる構造を、衣食住を支える「包まれる身体」という共通の原理を、もっとも素直にあらわすものと遠山はとらえます。
現代の暮らしは便利さが進む一方で、その背景にある仕組みや環境は複雑さを増し、抽象的な構造としての衣食住と人間的な身体に残る野生的な感覚が遠ざかりつつあります。スープを入り口にして五感を通して衣食住の根源に触れてみてはいかがでしょうか。
五感で衣食住の根源に触れられる展示内容

衣食住は、身体を外側と内側から包み、生命を守り育む基本的な営みです。
その原型は胎内環境にも見られ、母体は「住」、胎衣は「衣」、羊水は「食」に相当します。最小限の衣食住があれば暮らしは成立し、そこから生まれる柔軟な創造性は、時代を超えて人の生を支えてきました。
会場では、衣食住にまつわる布・音・映像によるインスタレーション、香りの作品、スープにまつわる資料とともに、展示に対応するスープのレシピカードを通じて、五感で衣食住の根源に触れられる内容です。
展示の読み解くポイント
空間を作る「12の動詞」
包む、味わう、満たすなど、動詞を軸にしたゾーンを順にめぐり、はじまりへの回帰から再生、分かち合いへと至る、いのちの循環を体験します。動詞が示す行為の変化がそのまま空間の変化となり、鑑賞者の身体感覚が自然にシフトしていく展示構成です。
レシピカードを集めながら鑑賞する

展示入口には、会場の地図が記された封筒が用意され、来場者はそれを手に取り作品を巡ります。本展覧会に参加する料理家等が拵えた、展示作品に対応するスープのレシピカードを、手紙のように封筒に収め持ち帰ることで、鑑賞後も「つくる」や「味わう」へとスープをめぐる物語が続いていきます。
インスタレーション「はじまりのスープ」

ギャラリー1に出現する作品「はじまりのスープ」では、空間の中心に羊水と同じ0.9%の塩分濃度を再現した水を湛えた器を据え、そこに蚕が吐き出す生命を守る繭の最初の線である「緒糸」を垂らします。
母体の鼓動に包まれたように岡篤郎の設計による音響と共鳴しながら、かつて「はじまりのスープ」(羊水)に包まれていた記憶を身体で思い起こすことのできる没入感のあるインスタレーションです。
土紙の屋根」が包む空間

会場内には、和紙に土を混ぜ込んだ「土紙」でつくられた屋根が出現し空間を大きく包み込みます。この屋根の下では、太古から火とともに営まれてきた「煮炊き」の原風景や台所で「遊ぶ」作品など、時代を超えた衣食住の営みを感じることができます。
スープからひろがる創造

岡本憲昭によるスープが生まれる根源的な光景を追う映像、林響太朗による野菜がスープやテキスタイルへと姿を変える過程を可視化した作品、岡篤郎による生命が必要とする重湯を捉えた映像といった、3名の作家による映像インスタレーションを中心に、スープと私たちの関係を見つめ直します。
その他、絵本作家・美術家の田島征三が本展覧会のために描き下ろしたドローイングの原画展示や、会場を構成する上で遠山が大切にしてきた、料理研究家・辰巳芳子による文章や、これまで収集してきたスープにまつわる切手やポストカード、広告などの資料も紹介されています。
最後に

本展覧会では、水や塩、野菜などの素材などの素材が放つ物質としての気配、熱とともに変化するさま、器や空間との呼応、匙に託された“食べる”という所作の繊細な動き、さらには記憶や香りといった目には見えにくい層を手がかりに、生活をかたちづくる環境を“包む”という視点から捉え直します。
抽象的な構造としての衣食住と人間的な身体に残る野生的な感覚。そのあいだに潜むデザインの働きを静かに浮かび上がらせていきます。こうした眼差しは21_21 DESIGN SIGHTが大切にしてきた「日常の中からデザインを考える」という姿勢とも深く通じています。
スープという最小の食をきっかけとして、身体や環境、記憶や時代が折り重なるなかで、五感を通じて新しい視点や気づきを見出し、衣食住の根源に触れてみてはいかがでしょうか。
【情報】
企画展「スープはいのち」
会期:2026年3月27日(金)- 8月9日(日)
会場:21_21 DESIGN SIGHTギャラリー1&2
休館:火曜日(5月5日は開館)
時間:10:00 – 19:00(入場は18:30まで)
ホームページ:https://www.2121designsight.jp/program/soup/