
アイティーエル株式会社では、一人でも多くの方が美術館や博物館を訪れるきっかけとなるべく、2020年7月より【ミュージアム・レポート】を開始いたしました。
困難な状況下においても美術館・博物館ではさまざまな企画や対策をおこなっていることから、全てのアートシーンに対してこれからも変わらず応援していくべく、アイティーエルも継続して情報を発信していきたいと思います。
今回は、上野の森美術館にて開催中の「五大浮世絵師展ー歌麿 写楽 北斎 広重 国芳」展をご紹介します。
本展覧会について

本展覧会は、江戸時代の浮世絵芸術を代表する5人の巨匠による約140点もの作品を一堂に集め、テーマごとに深く掘り下げ、多彩な魅力と創造力を堪能できる、とても贅沢な展覧会です。
歌麿の情緒から写楽の迫力、北斎の描写力、広重の風景美、国芳のユーモアと反骨精神まで、江戸後期のビジュアル文化の頂点を形成した5人の巨匠による5色の世界が一堂に会し、その違いや個性を明快に伝える優れた構成となっています。
会場では、各絵師に焦点を当てた5章構成で展開され、浮世絵を知るうえで欠かせない巨匠たちの多彩な表現と技法、そしてその背景にある時代精神に深く触れられる、希少な機会と言えるでしょう。
① 喜多川歌麿 ― 物思う女性たち(第1章)

展覧会の序章を飾る歌麿の美人画は、「理想の女性像」を追い求めた情感あふれる作品が並びます。遊女や芸者だけでなく、日常の一瞬を切り取った作品にも注目。特に《教訓親の目鑑 俗二云 ばくれん》(享和2年頃)はスカウト役・蔦屋重三郎との出会いを感じさせる一枚で、酒を豪快に飲む女性を描く粋なタッチが印象的です。また、市井の娘や母親の微笑む表情、山姥と金太郎を描いた《山姥と金太郎》(寛政末~享和期)など、ストーリー性豊かな構成も魅力です。
② 東洲斎写楽 ― 役者絵の衝撃(第2章)

活動期間わずか10ヶ月ながら145点ほどの作品を遺した写楽は、役者の顔を大胆にクローズアップした「大首絵」で知られます。その表情の誇張や緊張感は、まるで芝居の舞台そのもの。特に女形や相撲絵など、人物一人ひとりの個性が際立ちます。力士の肉体をダイナミックに描く三枚続の浮世絵も見逃せない逸品で、劇場の熱気が伝わってくる迫力です 。
③ 葛飾北斎 ― 怒涛のブルー(第3章)

北斎の展示は館内で2つの部屋に分けられており、初期から後期までの作品約40点が並びます 。代表作《冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏》はもちろん、六歌仙をテーマにした「文字絵六歌仙」(業平・小町など)は、絵柄に文字を組み込んだ緻密なデザインが目を惹く傑作です さらに、「東海道五十三次」から六点の風景画や、風や橋、美人、妖怪など多彩な図案の展示も展開。北斎の変幻自在な筆致に触れることで、浮世絵の枠を超えた彼の独自の世界観が感じられます 。
④ 歌川広重 ― 雨・月・雪の江戸(第4章)

広重の章には、「東海道五十三次」や「名所江戸百景」など風景画の代表作が揃います。特に「庄野 白雨」「大はしあたけの夕立」などは、雨や夕立を生々しく描く様が印象的 。また、広重によるリアルな美人画群も並び、心理的描写に寄りすぎないバランス感覚の良さと生活感ある描写が同時に楽しめます。
⑤ 歌川国芳 ― ヒーローとスペクタクル(第5章)

国芳は武者絵や妖怪絵、ユーモラスな作品で知られる存在感抜群の絵師です。代表作《相馬の古内裏》に登場する骸骨モチーフや、源頼光四天王と妖怪の囲碁シーンを描いた《酒田公時 碓井貞光 源次綱と妖怪》など、洒落と皮肉が効いた作品は必見 。天保の改革で描画が制限された時期にも独自のひねりを利かせて権力へ皮肉を込めた表現は、反骨精神と庶民文化へのリスペクトが同居した高度な芸術性を示しています 。
最後に

本展の最大の魅力は「五大」と冠するにふさわしい、5人の巨匠を章立てで明確に分けつつも、時代背景やジャンルの違いを自然に比較できる流れとともに、それぞれの絵師の個性がくっきりと浮かび上がるところです。
「あなたの推しをさがせ!」というキャッチコピーが示すように、自分だけの“推し浮世絵師”を見つけられる展示構成となっており、浮世絵初心者から研究者まで、「見比べる楽しさ」や「自分の好みを見つける面白さ」が味わえます。
浮世絵を知るうえで欠かせない巨匠たちの多彩な表現と技法、そしてその背景にある時代精神に深く触れられる、希少な機会をぜひ会場で味わってみてはいかがでしょうか?
情報
「五大浮世絵師展ー歌麿 写楽 北斎 広重 国芳」
会期:5月27日〜7月6日(無休)
会場:上野の森美術館(台東区上野公園1-2)
開館時間:10:00〜17:00(入館は閉館30分前まで)
入館料:大人2,000円/高校・大学・専門学生1,500円/小・中学生800円/未就学児無料ホームページ:https://www.5ukiyoeshi.jp/