【国立西洋美術館】『ここは未来のアーティストたちが眠る部屋となりえてきたか?——国立西洋美術館65年目の自問|現代美術家たちへの問いかけ』

展示風景_弓指寛治の作品群

アイティーエル株式会社では、一人でも多くの方が美術館や博物館を訪れるきっかけとなるべく、2020年7月より【ミュージアム・レポート】を開始いたしました。

困難な状況下においても美術館・博物館ではさまざまな企画や対策をおこなっていることから、全てのアートシーンに対してこれからも変わらず応援していくべく、アイティーエルも継続して情報を発信していきたいと思います。

今回は、国立西洋美術館で初めての試みである国立西洋美術館にて開催中の『ここは未来のアーティストたちが眠る部屋となりえてきたか?——国立西洋美術館65年目の自問|現代美術家たちへの問いかけ』をご紹介します。

国立西洋美術館が現代美術を展示する初の試み

展示風景_ミヤギフトシ

『ここは未来のアーティストたちが眠る部屋となりえてきたか?——国立西洋美術館65年目の自問|現代美術家たちへの問いかけ』では、開館65年の歴史で初めての試みである現代美術作品を展示します。

中世から20世紀前半までの西洋美術のみを収蔵/保存/展示している国立西洋美術館は、「現代美術」は存在しなく、すでに死者となって久しい遠き異邦の芸術家らが残した産物が集っている空間です。

しかし本展覧会では、過去の産物を主軸としてきた国立西洋美術館に、日本に生きる実験的な活動をしているさまざまなアーティストたちの作品群 ( 故人のものも含む) をはじめて大々的に招き入れて展示します。

会場では、国立西洋美術館のコレクションに新たな光を当てるとともに、絵画、映像、インスタレーションなど多様な表現の21組のアーティストによる作品をご覧になることができます。

国立西洋美術館の成り立ちと本展覧会開催に至ったストーリー

「0.アーティストのために建った美術館?」より資料

1959(昭和34)年に開館した国立西洋美術館の母体となった松方コレクションを築いた松方幸次郎は、自らが西洋において集めた絵画作品などが、未来の芸術家の制作活動に資することを望んでいたといえます。

また、戦後に国立西洋美術館の創設に協力した、当時の美術家連盟会長である安井曾太郎のような画家も、松方コレクションの「恩恵を受ける」のは誰よりもアーティストであるとの想いを表明していました。

これらの記憶を紐解くなら、国立西洋美術館はじつのところ、未知なる未来を切り拓くアーティストたちに刺戟を与えるという可能性を託されながら、設立されたと考えることができます。

しかし、この美術館がそうした場たりえてきたのかどうかは未だに問われていません。

18世紀ドイツの作家ノヴァーリスによる「展示室は未来の世界が眠る場所である」という言葉のように、本展覧会では国立西洋美術館やそのコレクションが生きているアーティストをいかに触発しうるか、また未来の世界と出会える場所になっているのかを検証します。

過去に生み出された作品と、現代に制作された作品の対話

展示風景_鷹野隆大の作品群と国立西洋美術館の所蔵作品

本展覧会は、館創立の原点を見つめ直し、美術館の未来を思い描く中で、生まれた挑戦的な企画です。

2019年、国際博物館会議で「『文化をつなぐミュージアム』理念の徹底」が採択され、2022年には博物館法が約70年ぶりに改正されるなど、美術館の役割は大きく見直され、コロナ禍を経て世界各地で戦争といった問題にも直面する今だからこそ、美術館が自身とそのコレクションを見つめ直し、新しい可能性を見出す必要があり、本展覧会は、美術館だからこそできる方法で、アートの力、美術館の力を問い直します。

会場では、国内外で活躍する現代日本のアートシーンを代表する21組のアーティストが本企画の主旨に賛同し、国立西洋美術館所蔵の作品にインスピレーションを得た新作や、美術館という場所の意義を問い直す作品が展示されています。

そんな現代美術の作品とともに、6000点を超える国立西洋美術館のコレクションからアーティストたちが独自の視点で選んだ作品の数々も見逃せません。モネ、セザンヌ、ポロックなど西洋美術史に名を刻むアーティストたちの作品約70点が、現代とのコラボレーションを通じていつもとは違った魅力を放ちます。

そして、過去に生み出された作品と、現代に制作された作品の対話を通じて、国立西洋美術館の新たな可能性を探るとともに、現代の、また未来のアートシーンを知る上でも必見の展覧会となっています。

0〜7つのセクションでめぐる所蔵作品と現代美術

左:ポール・セザンヌ《葉を落としたジャ・ド・ブッファンの木々》と内藤礼《color beginning》

会場は、0〜7つのセクションに分けて構成されています。

「未来のアーティストたち」の制作活動に資するべく建てられたのではないかということを、松方幸次郎や安井曾太郎の言葉を想起しつつ問いかける、「0.アーティストのために建った美術館?」からスタート。

そして、国立西洋美術館の所蔵作品に触発されたものや、ル・コルビュジエによる設計建築に影響をうけたものが展開されるなか、白人男性アーティストによる作品が多く収集されてきたコレクションについて疑問を提示するものや、松方コレクションの成り立ちを読み解きつつ松方幸次郎が想定した“アーティスト”とは、どういうものかを批判的に問おうとする作品が展示されています。

展示風景_弓指寛治の作品群

中には、地方から上京して、横浜住まいの筆者には、上野エリアに着目した衝撃的な展示がありました。ミュージアムが立ち並ぶ上野のエリアは、路上生活者が棲まう場でもあります。上野公園が整備されてある意味浄化されていった反面、路上生活者の姿は見えにくくなってしまいました。国立西洋美術館がこれまで見つめてこなかった上野公園がはらむ問題を多角的に照らす作品がご覧になれます。

続いて、物質的に緩慢ながら変化する過程や作品が辿ってきた運命に向き合うもの、芸術作品の記憶は繰り返し読み替えられ時代を超えて変容し、そんな過去の記憶を生き直そうとする作品が展示されています。

最後は、国立西洋美術館の所蔵作品と現代美術作家による作品を拮抗させ、国立西洋美術館やそのコレクションが生きているアーティストをいかに触発しうるかの問いをやめ、日本のペインターたちは既知の絵画空間を超える未知なる布置を生んできたのかという問いを投げかけて幕を閉じます。

展示風景_遠藤麻衣の展示室より

最後に

竹村京《修復されたC.M.の1916年の睡蓮》(一部)2023-24年 釡糸、絹オーガンジー 作家蔵

いつの時代にも、その時代にふさわしいテーマが生まれ、新しい美術が生まれてきています。本展覧会では、国立西洋美術館の所蔵作品はもちろん、個性あふれるさまざまな作品と出会えることでしょう。

また、批判的な応答をしてくれるアーティストも含め、本展覧会をとおして国立西洋美術館が抱えるさまざまな問題が炙りだされることを期待していると感じました。

未来のアーティストを目指している方はもちろん、鑑賞者である現代を生きる私たちも足を運び、「ここは未来のアーティストたちが眠る部屋となりえてきたか?」を考えながら会場を巡ってみてはいかがでしょうか。

取材・撮影・文:新麻記子

【情報】
ここは未来のアーティストたちが眠る部屋となりえてきたか?
ー国立西洋美術館65年目の自問|現代美術家たちへの問いかけ
会期:2024年3月12日(火)〜5月12日(日)
会場:国立西洋美術館
時間:9:30~17:30(金・土曜日は9:30~20:00)※入館は閉館の30分前まで
休館:月曜日、5月7日(火)(ただし、428[]429[月・祝]55[日・祝]及び56[月・休
ホームページ:https://www.nmwa.go.jp/jp/exhibitions/2023revisiting.html