【横浜美術館】第8回横浜トリエンナーレ『野草:いま、ここで生きてる』

第8回横浜トリエンナーレ展示風景_セレン・オーゴード<<プレッパーズ・ラボ>>2021/2024

アイティーエル株式会社では、一人でも多くの方が美術館や博物館を訪れるきっかけとなるべく、2020年7月より【ミュージアム・レポート】を開始いたしました。

困難な状況下においても美術館・博物館ではさまざまな企画や対策をおこなっていることから、全てのアートシーンに対してこれからも変わらず応援していくべく、アイティーエルも継続して情報を発信していきたいと思います。

今回は、横浜美術館を中心に旧第一銀行横浜支店やBankART KAIKO等のほか5会場にて開催している、第8回横浜トリエンナーレ『野草:いま、ここで生きてる』をご紹介します。

横浜トリエンナーレとは?

第8回横浜トリエンナーレ展示風景_作家集合写真

3年に一度開催される現代アートの祭典である「横浜トリエンナーレは、2001年にスタートしてから200を数える国内の芸術祭の中でも長い歴史を誇ります。国際的に活躍するアーティスティック・ディレクター(以下AD)を毎回招き、世界のアーティストたちがいま何を考え、どんな作品をつくっているかを広くご紹介するのが特徴です。

今回、横浜の歴史が育んだ特有の「国際性」を大切にしながら、近年の芸術祭の特徴とも言える話題性ではなく、次の10年にトリエンナーレがどうあるべきかを考え、当初から掲げる「現代アートの良質の入門編になる」という目標に、今一度丁寧に立ち返って企画されました。

また、3年の工事休館を経てリニューアルオープンを迎えたメイン会場の横浜美術館は、新しいエレベーターや多機能トイレ、授乳室を完備しています。あちこち移動しなくてもたくさんの作品を見ることができ、初めて訪れて戸惑う方をはじめ、小さなお子さんと一緒の方、体調が不安な方などのために、美術館会場は力を発揮します。

『野草:いま、ここで生きてる』に込められた意味とは?

第8回横浜トリエンナーレ展示風景_魯迅『野草』

『野草:いま、ここで生きてる』というテーマは、中国の⼩説家である魯迅(1881〜1936年)が中国史の激動期にあたる1924年から1926年にかけて執筆した詩集『野草』(1927年刊⾏)に由来します。この詩集の内容は魯迅が中国で直面した個人と社会の現実が描かれています。

本展覧会は、その「野草」に記されている個⼈の⽣命の抑えがたい⼒が、あらゆるシステム、規則や規制、⽀配や権力を超え、尊厳ある存在へと⾼められ、それは⾃由で主体的な意思をもった表現のモデルだという魯迅の世界観と人生に対する哲学に共感するものです。

20世紀の出来事を遡る展示

第8回横浜トリエンナーレ展示風景

第8回横浜トリエンナーレでは、20世紀初頭にさかのぼり、いくつかの歴史的な瞬間、出来事、⼈物、思想の動向などに注⽬します。

1930年代初頭に共鳴し合った⽇本と中国の⽊版画運動、戦後、東アジア地域が⽂化的な復興を遂げるなかで⽣まれた作家たちの想像⼒、1960年代後半に広がった政治運動とそれを経て⾏われた近代への省察、1980年代に本格化したポストモダニズムにあらわれる批評精神と⾃由を希求するエネルギーなど。

そのうえで、歴史の終焉が提唱された後に⽣まれたアナーキズムの実践や思想を糧に、個⼈と既存のルールや制度との対話の可能性を探ります。

7つのセクションで紹介

第8回横浜トリエンナーレ展示風景

第8回横浜トリエンナーレ『野草:いま、ここで生きてる』は、横浜美術館、旧第一銀行横浜支店、BankART KAIKO等のほか、まちなかの会場でも展開します。

主会場の1つである横浜美術館の展示は、普段は見えにくい、しかしわたしたちの暮らしに深くかかわる非日常を届けてくれる「いま、ここで生きてる(Our Lives)」から始まります。その後、制約の多い制度の中で個人の領域を最大限に広げようとする主体的な想像力、働きかけ、行動に注目する「わたしの解放(My Liberation)」と「すべての河(All the Rivers)」の章へと進みます。

そして、若さや自己の目覚め、生の亀裂などによって立ち現れる生命の力に注目し、引き続き個人の領域の拡張について考える、「流れと岩(Streams and Rocks)」、「鏡との対話(Dialogue with the Mirror)」、「密林の火(Fires in the Woods)」の章へと続き、最後となる「苦悶の象徴(Symbol of Depression)の章は、「いま、ここで生きてる(Our Lives)」に呼応する形で、近代に対する深い批評をあらわしています。

最後に

第8回横浜トリエンナーレ展示風景

本展覧会の多種多様の展示作品を通じ、戦争、不寛容、気候変動、経済格差などとともに、20世紀の政治や社会の制度設計に限界があることを露呈させ、私たちの暮らしを支えていた価値が今改めて大きく揺らいでいることが伝わってきます。

見る人それぞれの解釈を許す現代アートの作品は、見知らぬ誰かとその不安を分かち合い、共に明日への希望を見出すためのよき仲立ちとなることでしょう。

すべてがわかったわけじゃないけれど、新しい扉を少しだけ開けた気がする。会場を訪れた方たちにそんな感覚を持ち返っていただきたくて、横浜トリエンナーレは次の10年への一歩を踏み出します。

取材・撮影・文:新麻記子

第8回横浜トリエンナーレ『野草:いま、ここで生きてる
会期:2024年3月15日(金)~6月9日(日)
会場:横浜美術館、旧第一銀行横浜支店、BankART KAIKO、クイーンズスクエア横浜、元町・中華街駅連絡通路
時間:午前10時~午後6時(入場は閉場の30分前まで)
休場日:毎週木曜日(4/4、5/2、6/6を除く)
ホームページ:https://www.yokohamatriennale.jp/