アイティーエル株式会社では、一人でも多くの方が美術館や博物館を訪れるきっかけとなるべく、2020年7月より【ミュージアム・レポート】を開始いたしました。
困難な状況下においても美術館・博物館ではさまざまな企画や対策をおこなっていることから、全てのアートシーンに対してこれからも変わらず応援していくべく、アイティーエルも継続して情報を発信していきたいと思います。
今回は、東京都庭園美術館にて「生誕140年 YUMEJI展 大正浪漫と新しい世界」をご紹介します。
竹久夢二(たけひさ・ゆめじ)とは?
竹久夢二(たけひさ・ゆめじ)は、美人画で一世を風靡した画家にとどまらず、今でいうイラストレーター、グラフィックデザイナー、あるいはアートディレクターの先駆者といえるでしょう。
1884 (明治17)年に岡山県で生まれた夢二は、正規の美術教育を受けることなく独学で自身の画風を確立し、「夢二式」と称される叙情的な美人画によって人気を博しました。
また、グラフィックデザイナーの草分けとしても活躍し、本や雑誌の装丁にはじまり、衣服や雑貨などのデザインを手がけ、 暮らしの中の美を追い求め、自らが企画・デザインした着物や小物などの雑貨類は若い女性を中心に人気となり、日々の暮らしを彩りました。
旅を重ね、漂泊の人生を歩み、独自の芸術世界を形成して、大正ロマンを象徴する存在として高く評価されている夢二の作品は、今尚多くの人々を魅了し続けています。
本展について
大正ロマンを象徴する画家・竹久夢二の生誕140年と没後90年を記念し、開催する本展は、彼の生涯をたどりながら新発見の作品と新しい研究に基づく新たな視点から、時代を越えて愛される竹久夢二に迫ります。
今回、発見された大正中期の名画《アマリリス》、滞米中に描かれた貴重な油彩画《西海岸の裸婦》、そして夢二を看取った友人に遺したスケッチ帖など、初公開資料を含む約180点の作品を夢二郷土美術館コレクションを中心にご紹介します。
世の中のさまざまな価値観が劇的に変化しつつあった20世紀前半、時代の立役者となった竹久夢二の魅力を堪能できます。
油彩画家としての夢に迫る!幻の名画《アマリリス》を見逃さないで!
夢二の油彩画は現存するだけでも約30点と少ない中、本展ではそんな貴重な油彩画を多数展示されており、これまであまり紹介されてこなかった油彩画家としての夢二の一面に迫ります。
その中でも、すでに名声を確立していた大正中期に描かれ、長年行方不明であった幻の油彩画《アマリリス》。
鉢植えのアマリリスの花と共に描かれた着物姿の女性は、後に夢二の恋人となった職業モデルのお葉であると考えられます。
この作品は1919(大正8)年福島県での展覧会に出品された後、夢二をはじめ坂口安吾や谷崎潤一郎ら文人たちに愛された、東京・本郷の「菊富士ホテル」の応接間を飾っていたそうです。
1944(昭和19)年のホテル閉館後は所在不明となっていましたが、近年の調査により発見され、昨年、 岡山県・夢二郷土美術館に収蔵されました。
本展は発見後初めて東京で公開・展示される機会となり、本作はその来歴も含めて大変貴重な作例といえます。
初公開のスケッチブックで晩年の夢二に迫る!
夢二は、晩年の1931(昭和6)年から約2年間、アメリカをはじめ、ドイツ、チェコ、オーストリア、フランス、スイスなど欧米各地を巡る旅に出かけます。1930年代前半の欧米は、モダンな芸術と都市文化が急速に発展する一方で、ナチズムが勃興する不穏な時代でもありました。
夢二は滞在中の出来事を多数のスケッチ帖に描き、その一部は友人であった正木不如丘(まさき・ふじょきゅう)の手元に残されました。正木は、夢二が1934(昭和9)年9月に亡くなるまで、半年以上にわたって献身的に治療と看病にあたりました。
本展では長らく世に出されていませんでした正木旧蔵資料であるスケッチ帖を初めて公開します。
晩年における夢二のアメリカやヨーロッパなどの足跡をたどりながら、新しい表現を求めて模索した様子に思いを馳せながら、ご覧になってみてください。
邸宅空間で、夢二の作品世界を味わう
夢二の仕事は画家にとどまらず、詩や童謡の創作、封筒や絵葉書などのデザイン、本の装丁や楽譜の表紙絵など、多彩な芸術活動を展開しました。
さらには、「あらゆる図案、文案、美術装飾」 を請け負う「どんたく図案社」の企画や、生活と美術を結ぶことを理念とした「榛名山美術研究所」 の建設など、生涯を通じて人々の暮らしを彩ることに関心を向けました。
本展の会場となる東京都庭園美術館の本館は、1933(昭和8)年に朝香宮家の自邸として建設された場所であり、実際の生活空間に施された多彩な装飾が見所となっています。また、まさしく夢二が活躍した時代とも重なります。
本展は、夢二と時代の空気を共有し、暮らしの中の美を体現する邸宅空間の中で、夢二の作品世界をご覧いただく貴重な機会となることでしょう。
夢二の「かわいい」デザイン―時代を超える普遍性
1914(大正3)年に開店した「港屋絵草紙店」には、夢二が企画し、自らデザインした封筒や千代紙などの小間物類が並び、若い女性客を中心にして人気を集めました。
夢二は、雑貨だけでなく、帯や半襟、浴衣などの身に着けるもののほか、おしゃれな本の挿絵や装丁も多数手がけました。草花や風景、物語などの身近なモチーフを題材に、明るくやさしい色彩を用いた図案は、日常生活に自然と馴染み、今もなお新鮮な印象を感じさせるものです。
時代を超えて愛される、夢二の「かわいい」デザインの世界を存分に堪能してみてください。
最後に
見る人誰にも夢二らしさを感じさせる独特のデザインはもちろん、今回は多数展示されている貴重な油彩画から、時代性を捉えながらも新しい表現を模索する姿勢が感じられました。きっとそんな彼だからこそ没後90年を経た今でも私たちを魅了し続けることができるのでしょう。
会期中は、講演会やさまざまなプログラムが開催されるほか、ミュージアムショップでは夢二が描いたデザインを施したショコラ「千代ちょこ-竹久夢二」などのグッズや、ミュージアムカフェでは絵画作品のオマージュやレトロでノスタルジックな趣の懐かしい喫茶メニューなどが展開されています。
ぜひこの夏、夢二の作品から大正浪漫と新しい世界を体験してみてはいかがでしょうか?
取材・撮影・文:新麻記子
【情報】
生誕140年 YUMEJI展 大正浪漫と新しい世界
会期:2024年6月1日(土)~8月25日(日)
会場:東京都庭園美術館
時間:10:00~18:00(入館は閉館の30分前まで)
7月19日〜8月23日までの毎週金曜日は21:00まで開館
休館日:毎週月曜日、7月16日(火)、8月13日(火)
※ただし7月15日(月・祝)、8月12日(月・祝)は開館
https://www.teien-art-museum.ne.jp/exhibition/240601-0825_yumeji/【巡回展】
<岡山> 夢二郷土美術館 会期:2024年9月7日(土)~12月8日(日)
<大阪> あべのハルカス美術館 会期:2025年1月18日(土)~3月16日(日)
そのほか富山など全国5~6館を巡回予定です。