【東京国立近代美術館】「TRIO パリ・東京・大阪 モダンアート・コレクション」

会場入口

アイティーエル株式会社では、一人でも多くの方が美術館や博物館を訪れるきっかけとなるべく、2020年7月より【ミュージアム・レポート】を開始いたしました。

困難な状況下においても美術館・博物館ではさまざまな企画や対策をおこなっていることから、全てのアートシーンに対してこれからも変わらず応援していくべく、アイティーエルも継続して情報を発信していきたいと思います。

今回は、東京国立近代美術館にて開催中の「TRIO パリ・東京・大阪 モダンアート・コレクション」をご紹介します。

本展覧会について

トリオ、テーマ《軽やかな彫刻》

パリ、東京、大阪-それぞれ独自の文化を育んできた3都市。

セーヌ川のほとりに建つパリ市立近代美術館、皇居にほど近い東京国立近代美術館、大阪市中心部に位置する大阪中之島美術館は、大都市の美術館として豊かなモダンアートのコレクションを築いてきました。

本展覧会は、そんな3館のコレクションから、時代や流派、東西を越え、主題やモチーフ、色や形、素材、作品が生まれた背景など、自由な発想で共通点のある作品でトリオを組み、構成するユニークな展示です。

会場では、総勢110名の作家による、絵画、彫刻、版画、素描、写真、デザイン、映像など150点あまりの作品で34のトリオを組み、それをテーマやコンセプトに応じて7つの章に分けてご紹介しています。

展示の幕開けに相応しい3作品

トリオ、テーマ《コレクションのはじまり》

展示の幕開けであるプロローグでは3館のコレクションから“椅子に座る人物像”を紹介しています。

パリからは20世紀前半の抽象絵画の先駆者の一人として知られ、ダイナミックな色彩と幾何学的模様が特徴であるフランス画家のロベール・ドローネーによる裸婦は、彩度や明度が異なる色彩が共鳴しています。

東京からは日本近代を代表する洋画家の安井曽太郎による肖像画は、さまざまな角度から中国人モデルをスケッチし、それらを組み合わせたことで、安定しつつも動きのある人物表現を実現しています。

大阪からは大阪出身の佐伯祐三による代表作は、パリの自宅に郵便を届けにきた白髪の郵便配達員に惹かれてモデルを頼み、勢いのある斜めの線と絶妙な配色で、その姿をダイナミックに描いています。

このように3点の作品を一つのトリオにして比較してみると、同じ主題を描いていたもの出会ったり、共通した造形上の関心に基づいていたり、もしくは歴史的な文脈に位置付けられていたり、それぞれの場所や時代を越えて共鳴する共通点や相違点を楽しみながら鑑賞することで、西洋と東洋での交流や親和的関係、暗黙の協働が生じていることが明らかになってきます。

パリ、東京、大阪の都市の姿を描く

トリオ、テーマ《都市のスナップショット》中央右上:奈良原一高《「Tokyo, the ’50s」より Yoyogiuehara1950年代(2001年プリント)、東京国立近代美術館 ©NARAHARA IKKO ARCHIVES ※前期

19世紀半ば以降に著しい近代化を遂げ、今尚発展しつづけている3都市(パリ、東京、大阪)。

Ⅰ、Ⅱでは、絵画、版画、写真といった表現媒体で、どのように20世紀の芸術家が3都市を表現してきたかに迫ります。見たことがない画角で切り取られた街や見過ごされてきたスポット、あるいはかつてあったものの失われてしまった風景や風俗など、きっと鑑賞者の目に新たに映し出されることでしょう。

トリオ、テーマ《広告とモダンガール》

その中でも「Ⅱー6:広告とモダンガール」の展示では、内部が空洞になっているユニークなパリの狂乱の時代を象徴するキキの彫刻と、広告宣伝のためのポスター芸術が花開き、自らを美しく華やかに彩りながら、時代を謳歌する女性の姿が印象的なポスターが展示されていました。

都市の機械化・産業化が進むにつれ、製品の大量生産・大量消費となり、新たな娯楽やレジャーを生み出し、人々のライフスタイルに変化をもたらしたと同時に、人間の心の虚無感や喪失感が垣間見えます。

逃避するように夢と無意識の世界へ

左:トリオ、テーマ《戦争の影》、トリオ、テーマ《空想の庭》

そして、20世紀は化学技術の進歩が社会や都市の発展を促した一方、産業化が加速する中でさまざまな弊害が生じ、人間の存在を脅かすような戦争がおこりました。

ですが、芸術面ではそれまでのどの時代にも増して、夢や無意識といった領域へと目が向けられた時期でもあり、20世紀最大の芸術潮流の一つでもある「シュルレアリスム」を生み出しました。

Ⅲでは、夢や無意識、空想、幻想、非現実、メタファーを取り入れた作品を紹介しています。

生まれ変わる人物表現、そして人間の新しいと形へ

トリオ、テーマ《モデルたちのパワー》、萬鉄五郎《裸体美人》(重要文化財)は、5/21-7/21、8/9-8/25の期間で展示。

宗教画や歴史画、自画像や風俗画など、人間、あるいは神でさえも人の姿をしています。芸術家がより自由な表現を試みる20世紀においても、そういった型は完全に消えたわけではありません。その背景には長い芸術の歴史において西洋のアカデミスムが、伝統に基づく理想的なプロポーションの人体を追求してきたことが大きく関係しています。

しかし、19世紀後半以降にはやがてそういった表現からの脱去がはじまり、20世紀には理想美の解体と新たな美の創造からなる、多様で個性を放つ作品が次々と生み出されていきました。芸術家たちは人間という普遍的なテーマについて、実験的な手法や思考を試みながら、表現を通じて「人間とは何か」を模索しつづけています。

Ⅳ、Ⅴでは、大胆にくつろぐポーズをとるモデル、心情や立場なども含めた自画像、愛情を込めて描いたこども、「三美体」をテーマにした20世紀の画家たちが描いた女神などの作品がご覧になれます。

共鳴する色と形

トリオ、テーマ《色彩の生命》

絵画や彫刻を構成するもっとも基本的な要素である色と形。20世紀は、人物や背景といった主題を表現する手段ではなく、色と形が作品の主役になっていったのも特徴と言えるでしょう。

一見すると抽象のようにみえるかもしれませんが、よく考えると具像か抽象といった単純なことではなく、何が具像で、何が抽象化かは、作品を作っている本人にしかわかりません。

Ⅵでは、作品の外にある現実を再現するのではなく、作品そのものの内部で、あるコンセプトやルールのもと、色や形、素材と向き合うことで制作された作品をご紹介しています。

越境するアート

トリオ、テーマ《カタストロフと美》

20世紀は、これまで見てきたような絵画や彫刻といったジャンルを越境するような表現が生まれました。

使われている素材も、既製品や日用品、廃材などさまざまで、表現に至っては映像という新たな表現手法も登場し、アーティストたちが主題とするテーマも多岐にわたります。

Ⅶでは、アートは時代を写す鏡であると同時に、社会における既存の価値を問い直し、新たな視点や気づきをもたらしてくれる作品がご覧になれます。

中でも、「Ⅶー34:カタストロフと美」では、2011年の東日本大震災や新型コロナウイルス感染症から生み出された作品が展示されており、悲しみや不安の中に美を宿しながらもその時の出来事を想起させ、改めて原点に立ち返って復興や再生への希望や理想を描き、負を正へと転じながら未来への新しいビジョンを与えてくれます。

最後に

トリオ、テーマ《現実と非現実のあわい》

「見て、比べて、話したくなるー」というコピーが目を引く通り、20世紀初頭から現代までのモダンアートの新たな見方を提案し、その魅力を浮かびあがらせることで、鑑賞者に対話を促している本展覧会。

各館の学芸員が三者三様に多様な視点から厳選した作品から、それぞれ独自の文化を育んできた3都市の空気感を味わいながら、共通点や相違点について語り合ってもいいし、新たな視点により独自の解釈をしてもいいし、時代の流れとともに変化する美術の潮流を汲み取ってもいいし、今までにない余白を与えてくれる鑑賞方法を提案してくれているので、自由にのびのびと作品と向き合うことができます。

近現代のジャンルに対して苦手意識がある人にこそぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか?

取材・撮影・文:新麻記子

【情報】
『TRIO パリ・東京・大阪 モダンアート・コレクション』
会期:5月21日(火)~8月25日(日)
   ※一部作品は展示替えがあります
場所:東京国立近代美術館
開館時間:10:00-17:00(金曜・土曜は10:00-20:00)
     入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日(ただし7月15日、8月12日は開館)、7月16日(火)、8月13日(火)
ホームページ:https://art.nikkei.com/trio/

《巡回展》
大阪中之島美術館 4階展示室 
2024年9月14日(土)~12月8日(日)