【森美術館】『シアスター・ゲイツ展:アフロ民藝』

アイティーエル株式会社では、一人でも多くの方が美術館や博物館を訪れるきっかけとなるべく、2020年7月より【ミュージアム・レポート】を開始いたしました。

困難な状況下においても美術館・博物館ではさまざまな企画や対策をおこなっていることから、全てのアートシーンに対してこれからも変わらず応援していくべく、アイティーエルも継続して情報を発信していきたいと思います。

今回は、森美術館にて開催中の世界が注目するブラック・アーティストによる待望の日本初個展『シアスター・ゲイツ展:アフロ民藝』をご紹介します。

シアスター・ゲイツとは?

シアスター・ゲイツ(1973年シカゴ生まれ)は、米国シカゴのサウス・サイド地区を拠点とし、彫刻と陶芸作品を中心に、建築、音楽、パフォーマンス、ファッション、デザインなど、メディアやジャンルを横断する活動で国際的に高く評価されています。

彫刻と都市計画の教育を受けたゲイツは、1999年愛知県常滑市で陶芸を学ぶために初来日し、2004年海外の陶芸家が地域の人々やつくり手と交流するプログラム「とこなめ国際やきものホームステイ(IWCAT)」に参加。以来20年以上にわたり、陶芸をはじめとする日本文化の影響を受けてきました。

日本やアジア太平洋地域での印象深い出会いや発見、そして米国ミシシッピとシカゴにルーツを持つアフリカ系アメリカ人として生きてきた経験が、彼の創作の礎となっています。

ブラック・イズ・ビューティフル×民藝運動「アフロ民藝」

展示風景:展示入口に足を踏み入れると、まず目に付く作家の言葉

彼にとって陶芸は、自分の手と想像力だけで世界を新しく形づくる表現であり、その考え方は他の活動にも通底します。

近年、その制作に取り組んでいる「アフロ民藝」は、シアスター・ゲイツがハイブリッドな文化の未来構想として描いている、アメリカの公民権運動(1954-1968年)の一翼を担ったスローガン「ブラック・イズ・ビューティフル」と日本の「民藝運動」の哲学とを融合させようとする試みです。

両運動は、ともに文化的な独自性が、近代化と欧米化という外的かつ支配的な圧力によって脅かされていた時代に、大衆への訴求、学術的な討論やプロパガンダを手段として活発になりました。

黒人文化と日本文化という二つの異なる文化的次元を実験的に融合させ、アーティストとして文化的ハイブリディティ(混合性)を探求しています。

本展覧会について

世界が注目するブラック・アーティストによる待望の日本初個展では、シアスター・ゲイツの過去の代表作のみならず、本展のための新作までを一堂に体験できる、大変貴重な機会です。

展示は、「神聖な空間」「ブラック・ライブラリー&ブラック・スペース」「ブラックネス」「年表」「アフロ民藝」の5つのセクションで構成されています。

常滑市で制作された陶芸と彫刻が融合した大型インスタレーション、歴史的資料のアーカイブ、タールを素材とした絵画、音響作品、映像作品など、充実した作品群が展示されています。

黒人史がもたらした現代文化への影響を紹介

教会を思わせるオルガンを用いた作品 シアスター・ゲイツ《へブンリー・コード》2022年

近年のブラック・ライブズ・マター(BLM)運動を含む、黒人差別や迫害に抗ってきた歴史において、大きな役割を担ってきた黒人の工芸、アート、音楽、ファッションなどは、これまでになく高い注目を集めています。

そこには、何世紀にもわたる人種的暴力と植民地主義に対し、アクティブかつクリエイティブに抗ってきた一つの文化が反映されています。

本展は、ゲイツの領域を横断する多彩な作品群を通して、黒人文化の今日的な重要性や意義を示します。

「空間実践」の代表的プロジェクトを紹介

ゲイツは、シカゴ市サウスサイド地区で地域の建築家、住宅局、不動産会社と協力し、地域活性化に貢献したプロジェクトで高く評価されています。

会場では、世界的に知られている建築プロジェクトから、2009年に設立した財団「リビルド・ファウンデーション」の活動を資料で紹介します。

恣意的に隔離され、土地の所有や投資などの平等な権利を与えられなかった黒人が多数を占めるシカゴのサウス・サイド。ゲイツは、この地区の廃墟となった40軒以上の建物を、誰もがアートや文化活動に参加できる空間に作り変えてきました。

「リビルド・ファウンデーション」の活動には、黒人の歴史と文化を記録する重要なコレクションの管理、保存、展示が含まれており、地域住民へ公開することで活動への参加を呼びかけています。

日本と関わりの深い新作・プロジェクト

西陣織のHOSOOとのコラボ作品

会場の「神聖な空間」に一度足を踏み入れてみれば、日本の寺社仏閣を思わせる禅のような雰囲気を味わえます。

その他、常滑で制作された黒い陶器や、江戸後期の歌人であり陶芸家でもある大田垣蓮月に影響を受けた作品など、黒人文化と日本文化を組み合わせた作品を展示します。

さらに、長野で古材の利活用をしている山翠舎、京都の香老舗である松栄堂、宇治茶堀井七茗園、西陣織のHOSOOなど、ゲイツが日本各地の作り手たちとコラボレーションしたさまざまなプロジェクトが展開されます。

最後に

ブラック・ライブラリーより

会期中は、展示室の壁を本棚で埋め尽くす「ブラック・ライブラリー」が登場し、ブラック・アート、歴史、文化に関する数千冊もの書籍を自由に閲覧することができたり、会場内で音楽パフォーマンスやDJイベントなど、幅広い活動を紹介するさまざまなイベントが予定されていたり、ゲイツの幅広い活動に触れることができます。

その他、アーティスト・トークだけでなく、「いま、なぜ民藝なのか?」というシンポジウム、さらにアートキャンプなどのプログラムも開催されます。これを機会に、黒人社会の知識や歴史を深めてみてはいかがでしょうか。

取材・撮影・文:新麻記子

【情報】
アスター・ゲイツ展:アフロ民藝
会期:2024.4.24(水)ー 9.1(日)会期中無休
会場:森美術館
開館時間:10:00~22:00
※火曜日のみ17:00まで
※ただし2024.4.30(火)、8.13(火)は22:00まで
※最終入館は閉館時間の30分前まで
展覧会公式ウェブサイト:https://www.mori.art.museum/jp/exhibitions/theastergates/index.html