アイティーエル株式会社では、一人でも多くの方が美術館や博物館を訪れるきっかけとなるべく、2020年7月より【ミュージアム・レポート】を開始いたしました。
困難な状況下においても美術館・博物館ではさまざまな企画や対策をおこなっていることから、全てのアートシーンに対してこれからも変わらず応援していくべく、アイティーエルも継続して情報を発信していきたいと思います。
今回は、国立西洋美術館にて開催中のモネの晩年の制作に焦点を当て、長年にわたって追求した「睡蓮」を紹介「モネ展 睡蓮のとき」(会期:2024年10月5日[土]-2025年2月11日[火・祝])をご紹介します。
本展覧会について
印象派を代表する画家のひとりであり、「光の画家」と異名を持つ、クロード・モネ(1840-1926年)。
1890年、50歳になったモネは、ノルマンディーの小村ジヴェルニーの土地と家を買い取り、これを終の棲家としました。そして、数年後には隣の敷地も購入し、太鼓橋や睡蓮の「水の庭」を造成しました。この睡蓮の池こそ画家の心を占め、連日睡蓮を描き続けるほどの最大の創造の源にほかなりません。
本展覧会では、モネの晩年期の芸術に焦点をあてて〈睡蓮〉の連作を中心に紹介するものです。
会場では、パリのマルモッタン・モネ美術館の全面協力のもと、日本初公開作品7点を含む、厳選されたおよそ50点に加え、国立西洋美術館をはじめとした国内美術館にコレクションされる作品を加え、計64点のモネの絵画を展覧しながら、“印象派を超えた”モネ芸術の足跡をたどります。
画家がその長い道のりの果てにたどり着いた境地をぜひ堪能してください。
クロード・モネ、その晩年について
印象派を代表する画家のひとりであり、「光の画家」の異名を持つ、クロード・モネ(1840-1926年)。
彼の晩年は、妻・アリスや長男・ジャンの死、絵具の色も判別できない白内障、第一次世界大戦といった多くの困難に直面した時代でもありました。
1911年5月には妻アリスが亡くなり、1914年2月には長男ジャンが亡くなり、さらには印象派の同志たちも次々世を去っていくという不幸に見舞われました。
1912年には自身が白内障と診断されました。 以降、モネの視力は衰えつづけ、10年後には左目の視力は0.1、右目はわずかに光と動きを感知するだけになってしまいます。 光と色の微妙な移ろいを描くことに執着した画家にとって、視力を失うことは恐怖そのものであり絶望そのものだったことでしょう。
しかし、そんな中でも彼は友人や長男の妻の支えもあり、気力を取り戻して祈るような気持ちで、睡蓮の池の水面を描いた巨大なカンヴァスにより部屋の壁面を覆う「大装飾画」の構想と制作に取り掛かります。
本展覧会の見どころポイント
オランジュリー美術館のような贅沢な空間に酔いしれる
本展で大注目なのは、階段を降りたところに広がるオランジュリー美術館のような楕円形の地下展示室「第3章大装飾画への道」(撮影可能エリア)です。
こちらでは、長辺が2メートルにも及ぶ〈睡蓮〉の大画面に囲まれ、たゆたう水と一体になるかのような展示空間となっており、本物の没入体験が味わえることでしょう。
また、モネの驚くべきエネルギーを持って、刻々と変化する自然の移ろいを捉え、水面に映し出される木や雲の反映をモティーフとするおびただしい数の作品群を生み出した活力にも注目してみてください。
年代とともに表現が変わっていく〈睡蓮〉
1890代頃(初期)は、全体的にジヴェルニーのモネの自宅の壮大な庭にある池を描いていました。日本の影響を受けたとされている太鼓橋や周りの柳などの木々とともに睡蓮の池があり、あくまで風景画の一部として描かれていました。
1900年代(中期)には、池にフォーカスされて背景は描かず、睡蓮の池だけを描くようになりました。水面に反射する空、映り込む木々の緑、そして睡蓮のピンク…それぞれの連作の色合いから、刻々と移りゆく時間の経過が鮮明に感じ取れるようになります。
1910年代(後期)には、睡蓮の池も描かなくなり、睡蓮が咲く水面にのみを描くようになりました。これまでの初期や中期の〈睡蓮〉と比べるとガラッと変わってしまいましたが、これは敢えて背景や池も描かないことで、鑑賞者に池の大きさを想像させる狙いがあったように感じます。
1920年代(最晩年期)には、白内障でほとんど視力を失いながらも、精力的に絵画制作に取り組みました。被写体を描写できなくなったモネは、粗いタッチで描いたことにより色彩が共鳴し、その表現は徐々に抽象化していきました。
最晩年のモネ芸術にも注目!
1918年の終わりごろから最晩年には、死の間際まで続いた大装飾画の制作と並行し、画家の身振りを刻印する激しい筆遣いと鮮烈な色彩が特徴的な複数の独立した小型連作を手掛けました。
モティーフとなったのは、“水の庭”の池に架かる日本風の太鼓橋や枝垂れ柳、“花の庭”のばらのアーチがある小道などです。これらの作品は、不確かな視覚に苛まれるなかにあっても、衰えることのない画家の制作衝動と、経験から培われた色彩感覚に基づく実験精神を今日に伝えています。
モネの晩年には、フォーヴィスム、キュビスムなど、次々と新しい芸術表現が生まれており、当時『睡蓮』に注目する人はあまりいませんでした。しかし、1950年代になると、ジャクソン・ポロックなど抽象表現主義の画家・批評家が、モネ晩年の芸術を引き合いに出すようになり、モネ晩年の芸術の再評価を促すことになり、改めて注目を浴びるようになりました。
モネの《睡蓮》が残した光と時間の表現手法は、近代の印象主義や抽象表現主義の画家のみならず、さらには現代の美術界にも大きな影響を与えています。
最後に
本展覧会は日本においては過去最大の規模で、モネの〈睡蓮〉が一堂に会する貴重な機会です。
モネが晩年に精力的に追求した「睡蓮」に焦点を当て、その構想や制作などさまざまな角度からとらえ、モネの芸術的進化を辿っていく本展をぜひ会場で堪能してみてはいかがでしょうか。
本展で大注目の「第3章大装飾画への道」では撮影も可能となっているので、ぜひ訪れた際にはお気に入りの一枚と一緒に撮影してみてくださいね。
【情報】
モネ 睡蓮のとき
会期:2024年10月5日~2025年2月11日
会場:国立西洋美術館
住所:東京都台東区上野公園7-7
電話番号:050-5541-8600(ハローダイヤル)
開館時間:09:30~17:30(金土~21:00)※入館は閉館の30分前まで
休館日:月(ただし、11月4日、2025年1月13日、2月10日、2月11日は開館)、11月5日、12月28日〜1月1日、1月14日
ホームページ:https://www.ntv.co.jp/monet2024/