【21_21 DESIGN SIGHT】「トランスレーションズ展 −『わかりあえなさ』をわかりあおう」

他者の気持ちや異文化の魅力に気づける

新型コロナウイルス感染症により美術館・博物館・ギャラリーなどに気軽に足を運べなくなってしまいました。

そんな状況下に負けじと感染症対策をきちんと行いながら、運営に努める施設関係者への思いに応えられるように、一人でも多くの方が美術館を訪れるきっかけになることを考え、美術館・博物館・ギャラリーの様子を伝える【ミュージアム・レポート】をスタートすることとなりました。

そのような経緯から、今回は21_21 DESIGN SIGHTにて開催している「トランスレーションズ展 −『わかりあえなさ』をわかりあおう」をご紹介します。

21_21 DESIGN SIGHTは、デザインを通じてさまざまなできごとやものごとについて考え、デザインについての理解と関心を育てていくことを目指し、「日常」をテーマにした展覧会を中心に、トークやワークショップのプログラムを通じ、訪れる人がデザインの楽しさに触れ、新鮮な驚きに満ちた体験をすることができます。

現在、21_21 DESIGN SIGHTにて開催中の「トランスレーションズ展 −『わかりあえなさ』をわかりあう」は、「翻訳=トランスレーション」と呼ばれる行為をある種の「コミュニケーションのデザイン」とみなし、普段から何気なく使っている言葉の不思議さ、そしてそこから生まれる「解釈」や「誤解」の面白さを実感できる空間をつくり、互いの「わかりあえなさ」を受け容れあう可能性を提示していきます。

ある言語を異なる言語に変換すること、そのプロセスから意思疎通を図る「翻訳」は、古くから異文化を理解するための手段として行われ、現在も私たちの日常のなかでつづいています。日々進化するテクノロジーのおかげで翻訳機能が発展し、言語の垣根を越えて「いつ」「どこ」にでも繋がることが可能となり、かつては未知の世界であったものさえも身近に感じられるほど、コミュニケーションの在り方は大きく変化しています。

「翻訳」を介したコミュニケーションは文字だけではなく、視覚、聴覚などの感覚や身体表現などを用いて、送り手と受け手をつなぐ「架け橋」の役割を担っています。そして、その過程で生まれる解釈、変換、表現は、デザインやアートにも共通しています。

本展では、国籍を超えて様々な表現媒体に携わる情報学研究者ドミニク・チェンを迎え、「翻訳はコミュニケーションのデザインである」という考えから、「翻訳」を「互いに異なる背景をもつ『わかりあえない』もの同士が意思疎通を図るためのプロセス」と捉え、その可能性を多角的に拓いていきます。

AIによる自動翻訳を用いた体験型の展示や、複数の言語を母国語とするクレオール話者による映像、手話やジェスチャーといった豊かな身体表現、さらには人と動物そして微生物とのコミュニケーションに至るまで、さまざまな「翻訳」のあり方を提示する作品を紹介しています。

特に面白いと感じた作品は「文化がまざる」のコーナーより、料理から翻訳を考える永田康祐さんによる「Translation Zone」という映像作品。

手際の良い料理動画を背景にナレーションが流れる映像作品は、料理のレシピを説明する際は化学式でも説明できることや、インドネシアのチャーハン「ナシゴレン」とチャーハンとの違いを歴史的背景から読み解くなど、そっと耳を傾けているだけで翻訳の可能性が広がり、その面白さが伝わってくることでしょう。

その中でも極め付けは翻訳された言葉の意味が違っても、多数派がその誤りを正さなければその意味が標準となり、本来意味する言葉を失ってしまうことを唱えたシーン。これまで歴史や情勢に左右されて、消失してしまった言葉と淘汰された言葉を想像しながら、この世の無常に触れることができました。

社会には数々の分断がありますが、相互理解を深める手立てとして、翻訳の大切さが身に染みたと同時に、翻訳というコミュニケーションを介して、他者の思いや異文化の魅力に気づき、その先に広がる新しい世界を発見する喜びを感じることができました。

またショップでは、展覧会ディレクターのドミニク・チェンによる著書や、『翻訳できない世界の言葉』の絵本など、関連書籍が多数販売されていました。展覧会をより考察する助けになると思うので、お手に取ってみてはいかがでしょうか。

取材・執筆・撮影:新 麻記子

【情報】
トランスレーションズ展 ―
「わかりあえなさ」をわかりあおう
会期:2020年10月16日〜2021年6月13日(会期延長)
会場:21_21 DESIGN SIGHT ギャラリー1&2
住所:東京都港区赤坂9-7-6
電話番号:03-3475-2121
開館時間:11:00〜17:30 (※入場は閉館の30分前まで)
※緊急事態宣言の発出に伴い、2021年1月8日より当面の間 11:00〜17:30 で運営中。
休館日:火(ただし、2月23日、5月4日は開館)
料金:一般 1200 / 大学生 800円 / 高校生 500円 / 中学生以下無料
※事前予約不要
HP:http://www.2121designsight.jp/program/translations/