コミカルに描かれた動物たちの姿に癒される
まだまだ新型コロナウイルス感染症により、美術館、博物館、ギャラリーなどの文化施設に、気軽に訪れられない日々が続いています。
しかし、そんな状況下に負けじとオンラインチケットで密を防ぎ、検温や消毒など徹底した感染症対策を行いながら、運営に努める施設関係者の思いに応えられるように、一人でも多くの方が美術館を訪れるきっかけとなるべく、展覧会の模様を伝える【ミュージアム・レポート】をスタートしました。
そのような経緯から、今回は東京国立博物館 平和館にて開催している特別展『国宝 鳥獣戯画のすべて』をご紹介します。
現在、国立東京博物館 平成館にて開催中の特別展『国宝鳥獣戯画のすべて』では、擬人化した動物たちが繰り広げる営みを墨一色で躍動的に描いた絵巻「鳥獣戯画」をはじめ、普段拝観のかなわない重要文化財「明恵上人坐像」により、明恵上人の魅力に迫るとともに、高山寺選りすぐりの名宝をご紹介しています。
動物や人間が個性豊かに描かれており、そのユーモラスな表現は人気が高く、作品から抜け出した兎や蛙といった動物たちが、最近ではフィギュアになったり、LINEスタンプになったりと、一度は目にした方もいらっしゃるはず!
お馴染みの兎や蛙が登場する甲巻、この他に動物図鑑のような乙巻、人物戯画・動物戯画から成る丙巻、人物主体の丁巻の全4巻からなる、日本絵画史上有名な作品の一つである「鳥獣戯画」。
平安時代終わり頃から鎌倉時代の初め頃にかけて描かれたとされ、4巻それぞれに墨の線に特徴があり、その違いを見比べられる大変貴重な機会です!
最初の第1章『国宝 鳥獣戯画のすべて』では、甲・乙・丙・丁巻の全4巻からなる「鳥獣戯画」が展示。
愛らしい兎や蛙が登場する甲巻では、動物や人々の姿を墨の線だけで、生き生きと躍動的に描かれており、前半と後半で線描や動物たちの表情も異なっていることから、別人物によって描かれたということが推測されています。
動物図鑑のような乙巻では、前半には牛、鷹、犬など日本でも見られる動物、後半には虎や象など日本に生息しない動物、そして霊亀、麒麟、獅子、青龍といった空想上の動物が登場。
人物戯画・動物戯画から成る丙巻では、囲碁や双六といった勝負事が多く描かれている人物戯画と、再び擬人化された動物戯画で構成されています。後世に加筆された、濃墨の線に隠れたオリジナルの線描に注目してみると、迷いのない滑らかで繊細な筆致で、的確に描写していることが見て取れるでしょう。
人物主体の丁巻では、人間のみで構成され、勝負事に挑む姿が描かれ、軽妙な筆運びが特徴的です。甲巻や丙巻に描かれたモティーフを踏まえた表現が随所に現れているだけでなく、おおらかな筆致に見えながら速いスピードで筆を走らせたであろう、作者の技量の高さが伺えることでしょう。
全長44mを超える長大な画面を一挙にご覧になれる会場では、国宝を楽しくリラックスした気分で鑑賞してもらおうと、甲巻の前にはゆっくりと動く歩道も設置されており、身を任せながら絵巻を眺めることができます。
つづく第2章『鳥獣戯画の断簡と模本ー失われた場面の復原』では、時代を経るうちに本来の巻物から分かれ、一場面ごとの掛軸になった5点の断簡と、過去の絵巻を写した模本がご覧になれます。
失われたシーンが写されているもの、元の絵を推測するようなものなど、断簡や模本を手がかりにしながら、謎解きを楽しむように、新たなストーリーを思い描きながら、『鳥獣戯画』のすべてを思う存分堪能してみてください。
最後の第3章『明恵上人と高山寺』では、『鳥獣戯画』が伝わった高山寺の高僧・明恵上人ゆかりの名宝が展示。
高僧・明恵上人は、学問に打ち込み、その人柄を慕って多くの人びとが身近に集ったとされ、夢の記録を生涯にわたって残し、多くの和歌を詠むなど、人間味あふれるエピソードで知られています。
そんな明恵上人の姿を生き写したかのような重要文化財「明恵上人坐像」をはじめ、本章では明恵上人ゆかりの名宝をご覧になれます。
甲・乙・丙・丁巻の全4巻からなる国宝鳥獣戯画をはじめとし、深く読み解くために必要な断簡や模本だけでなく、鳥獣戯画が伝わった高山寺の明恵上人の名宝から、そのコミカルな面白さだけでなく、現存することの尊さにも触れられた本展覧会。
全貌がご覧になれる大変貴重な機会ですので、特別展『鳥獣戯画のすべて』をお見逃しなく!
取材・執筆:新 麻記子、撮影:齋藤 久嗣
特別展「国宝 鳥獣戯画のすべて」
会期:2021年4月13日~5月30日
会場:東京国立博物館 平成館
住所:東京都台東区上野公園13-9
問合せ:050-5541-8600
休館日:月(ただし5月3日は開館)
料金:一般 2000円 / 大学生 1200円 / 高校生 900円 / 中学生以下無料 ※事前予約制(日時指定券)
HP :https://chojugiga2020.exhibit.jp/highlight.html