【21_21 DESIGN SIGHT】企画展「そのとき、どうする?展 –防災のこれからを見渡す–」


アイティーエル株式会社では、一人でも多くの方が美術館や博物館を訪れるきっかけとなるべく、2020年7月より【ミュージアム・レポート】を開始いたしました。

困難な状況下においても美術館・博物館ではさまざまな企画や対策をおこなっていることから、全てのアートシーンに対してこれからも変わらず応援していくべく、アイティーエルも継続して情報を発信していきたいと思います。

今回は、21_21 DESIGN SIGHTにて開催中の企画展「そのとき、どうする?展 –防災のこれからを見渡す–」をご紹介します。

本展覧会について

本展覧会は、そもそも災害とはなにかという視点から、これまでの地震や水害のデータビジュアライゼーションをはじめとしたリアルな状況把握や、防災に関するプロダクト、災害をきっかけに生まれたプロジェクトなど、人々が直面してきた自然災害を広く見つめ直します。

会場には、いくつかの「問い」が散りばめられており、状況によって答えは一つではありません。人によって正解も変わるかもしれません。しかしあらかじめ想像し、近くの人の答えを見聞きして、その瞬間を予想外としなければ、未来は少し変えられるかもしれません。

展示は大きく次の4つのセクションに分かれており、それぞれが防災というテーマに対する理解を深める役割を担っています。また各地に残る災害に関する言い伝えや今後の可能性に目を向けた研究など、過去から現代、そして未来にいたるまでの災害への向き合い方も紐解きます。

展覧会のディレクションは、ビジュアルデザインスタジオWOWが担当し、震災をはじめとする災害への向き合い方を、体験と問いを通じて問い直す試みとなっています。

セクション1:災害を“知る”──データとビジュアライゼーション

本展覧会の冒頭は、科学的データに基づいた災害の実態可視化セクションです。日本経済新聞社による『地震列島』、越村俊一らの津波シミュレーション、そしてヤマップ社による《YAMAP流域地図》などの展示は、地震、豪雨、水害の実態をリアルに伝えてくれるものです。
日本各地の地形、河川流域、ハザード情報が交互に表示される《YAMAP流域地図》では、地図上で「自分の住む地域をどうなのか」を問いながら閲覧できます。こうした視覚化により、災害が他人事ではない感覚を打ち破り、自らと災害の距離感を縮めていくのが目的です。

セクション2:問いと対話──10の問いを介して考える

会場の柱の壁面には、「そのとき、どうする?」「そのときはいつ?」といった10本の問いが掲げられており、それに対してのヒントや一つの“答え”が添えられています。
例えば「『安全な場所』ってどこ?」や「十分な備えってどのくらい?」など、日常生活の文脈で再定義されており、標準的な防災知識を超えて、自分事として考えるための土台を築いています。
さらに来場者は自身のスマホを通じて自分自身の“答え”を送信でき、その回答群は後半の映像インスタレーション「みんなは、どうする?」に人々の声として反映されます。

セクション3:体感するインスタレーション──作品に触れる

積み木を載せたテーブルに、「そのとき、」という言葉とともに徐々に広がる円が投影され、やがてくる揺れとともに積み木が崩れる《そのとき、そのとき、》(siro+石川将也)。それを見守る体験は、災害が「いつ来るかわからない」「しかしやってくる」ことを一瞬にして実感させます。
「緩衝材」といったキーワードを通じて、備えの形やそれがもたらす安心感を色のグラデーションで表現する集団参加型の作品《防災グラデーション》(柴田大平)。参加者それぞれの備えの幅や価値観を多様かつ視覚的に示します 。
可視化による“事実”と体験型インスタレーションによる“実感”の両立により、情報が単なる知識で終わらず、心と行動に響く構成です。

セクション4:デザインによる実装例──プロダクト & プロジェクト

会場後半では、防災をテーマにしたプロダクトやプロジェクトが多数展示され、アイデアと実装を実感できる構成で、いずれも課題設定→設計→現場実装というプロセスが活きており、防災を「考える」から「行動へと落とし込む」試みとして説得力があります。
プロダクト展示は理屈ではなく、地域・コミュニティでの実装事例を提示し、「デザイン=社会の問題解決手段」として提示しています。

おまけ:参加型のフィードバック:記憶に残る仕掛け

上記のセクション2で紹介した、問いに対する答えをスマホで送信し、その集合が作品として可視化されるインスタレーション「みんなは、どうする?」。さらに、気になった他者の答えはその場でシール化され、自分の手に持ち帰ることができる実装があり、それが「ちょっとしたお土産」になるという工夫もされました。この手触りのある記録が、後の思考や備えへの再帰を促すアクティビティとなっています。

終わりに:未来の“防災”へ向けて

本展覧会は、いわゆる「防災展」ではなく、「問い」からはじまり、実感と設計的思考を織り交ぜつつ、最終的には「自分ならどうするか?」という個別のプロジェクトへとつながる構成となっています。
デザイン思想と相まって、防災を“日常事象”として、自分ごと化していくアプローチが秀逸です。

防災を形而上的に捉えるのではなく、実践への橋渡しとして捉えたい方、伝え手としてのデザインに興味がある方、そして日常と逡巡なく向き合う新たな視点を求めるすべての人に、ぜひ訪問をおすすめします。

21_21 DESIGN SIGHT の展覧会を通して気付かされる、自分自身の災害への向き合い方や、新しい防災のかたち。あなたは“そのとき”、どうしますか?

【情報】

企画展「そのとき、どうする?展 –防災のこれからを見渡す–」
会期:2025年7月4日(金)〜11月3日(月・祝)
会場:21_21 DESIGN SIGHT ギャラリー1&2
休館日:火曜日(9月23日は開館)
開館時間:10:00 – 19:00(入場は18:30まで)
     六本木アートナイト特別開館時間:9月26日(金)、27日(土)10:00 – 22:00(入場は21:30まで)
ホームページ:https://www.2121designsight.jp/