
アイティーエル株式会社では、一人でも多くの方が美術館や博物館を訪れるきっかけとなるべく、2020年7月より【ミュージアム・レポート】を開始いたしました。
困難な状況下においても美術館・博物館ではさまざまな企画や対策をおこなっていることから、全てのアートシーンに対してこれからも変わらず応援していくべく、アイティーエルも継続して情報を発信していきたいと思います。
今回は、渋谷ヒカリエホールで開催中のレオ・レオーニの創作の背景や技法をじっくりと味わえる「レオ・レオーニの絵本づくり展」をご紹介します。
本展覧会について

小さな魚の物語『スイミー』や野ねずみのフレデリックと仲間たちを描いた『フレデリック』他、『あおくんときいろちゃん』等多数の名作を世に送りだした絵本界の巨匠、レオ・レオーニ(1910-1999)。
オランダで生まれた彼は、幼いころから欧米の各国を転々とし、20世紀のイタリアやアメリカで絵画制作だけでなく、グラフィックデザインやアートディレクションまで多岐に渡って活躍しました。
本展覧会では、レオーニが晩年になって手がけた絵本づくりに焦点を当てながら、アートディレクターとして培った豊富な経験やセンスに基づく、紙を重ねたコラージュや直接絵を描いて紙に転写する版画技法モノタイムなど、レオーニならではのさまざまなテクニック(技法)を丁寧に紐いていきます。
構成は、絵本制作の技法、原画から読み解くメッセージ、映像コンテンツを軸にした全3章。
板橋区立美術館からスタートし各地を巡回する「レオ・レオーニと仲間たち」展の絵本セクションを中心に再構成し、絵本原画の展示に加えて、渋谷のヒカリエホール会場限定で展開されるインタラクティブな映像コンテンツを通してレオーニの世界観を体感することで、レオーニが紡ぐものがたりに込められたメッセージと向き合い、彼の作品が今なお世界中の幅広い世代に愛され続けるその魅力に迫ります。
第1章:手法と素材に込められた工夫

最初のエリアでは、レオーニの絵本に用いられるさまざまな技法に注目します。
多くの作品に用いられているコラージュ以外にも、水彩、油彩、鉛筆、色鉛筆、クレヨンなど、あらゆる画材を使用し、同じ画材でもバリエーション豊かな使い方をしています。
これらの技術がレオニ独特の絵本表現を支えていることが説得力と説示力を持って伝えられています。そんな原画に使用された技術についての解説パネルが充実しています。
例えば、切り貼りされた紙片が織りなすコラージュでは、「ハサミで切ったり手でちぎったり…」といったプロセスも見せ、原画との比較から技術の温かみが伝わります。その他にも作品例を用いながら、さまざまな手法について、詳細に解説してくれているのでキャプションを読んでみてください!
第2章:物語とメッセージの読み解き

次のエリアでは、レオーニ作品の中心的メッセージを探るコーナーになっており、『6わのからす』はほぼ全ページ原画が展示されています。まるで一冊を通読するように、詩人・谷川俊太郎氏による訳のテキストも併記されているので、来場者は絵本の物語世界に浸れることでしょう。また『フレデリック』や『マシューのゆめ』などは作者が伝えたかった「共感」「勇気」「個性の肯定」などのテーマを、原画の色調や構図から再解釈。キャラクターや背景に込められた寓意を、丁寧に読み取る仕掛け付きで、子どもよりむしろ大人が深く共感できる内容となっています。
第3章:没入型インタラクティブ体験

会場中央の大空間では、「レオレオリウム!」と名づけられた没入型インスタレーションが圧巻。絵本『スイミー』の世界に入り込んだかのような体験ができる映像作品のほか、絵本『はまべにはいしがいっぱい』をイメージした空間では、床に魚のような姿をした石の映像が映し出され、来場者がその上を歩くたびに、面白い仕掛けが楽しめます。場内を巡ると語りが聞こえたり絵が動いたりする音響/映像の演出があります。さらに、360°をぐるりと囲む円形スクリーンに、レオーニの絵本に登場するキャラクターたちが映し出され、中央には物語の知られざるエピソードのジオラマも楽しめる「空想の庭」も必見。
さらに来場者がフロッタージュを楽しめるワークショップスペースがあり、絵柄を自分で作ることができる一方で、スタッフによる説明で技法の背景やレオーニの思考に触れられます。
またフォトスポット(キャラクター等の立体背景)も複数点あり、記念撮影も自由に楽しめます。付設の休憩スペースでは絵本の閲覧コーナーもあり、親子やペアで読書体験が可能です。
最後に

ヒカリエホール全体を使った「レオ・レオーニの絵本づくり展」は、絵本の「原画を見る」展示を超えて、「描き手の思考と手の動き」を伝える体験型美術展として秀逸です。
特に第1章での技法紹介、第3章の体感型インスタレーションでは、ビジュアルだけでなく知覚と感性に訴えかけます。
絵本という親しみやすい対象を入り口に、「作家の手、技術、メッセージ」にまで鑑賞の視線を深める、本格的で楽しさ溢れる展覧会に足を運んでみてはいかがでしょうか。
情報
「レオ・レオーニの絵本づくり展」
開催期間:2025年7月5日(土)〜8月27日(水)
※7月24日(木)は休館。
時間:10:00〜19:00
会場:ヒカリエホール
住所:東京都渋谷区渋谷2-21-1 渋谷ヒカリエ9階
入場料:
※7月5日(土)〜7月31日(木)使用可能。7月24日(木)を除く。
<7月>一般 1,800円、高校・大学生 1,200円、小・中学生 900円
<8月>一般 2,400円、高校・大学生 1,700円、小・中学生 1,300円
※未就学児は入場無料。
※学生券を購入の場合は、学生証の提示必須(小学生は除く)。
※小学生以下のみの入場は不可。保護者の同伴が必要。
※障がい者手帳の提示で、本人と付き添い1名は半額。当日窓口にて購入。
※内容は変更となる場合あり。