【廣澤美術館】『中川一政 所蔵品展』

樹木と巨石が一体となる隈研吾設計の廣澤美術館

まだまだ新型コロナウイルス感染症により、美術館、博物館、ギャラリーなどの文化施設に、気軽に訪れられない日々が続いています。

しかし、そんな状況下に負けじとオンラインチケットで密を防ぎ、検温や消毒など徹底した感染症対策を行いながら、運営に努める施設関係者の思いに応えられるように、一人でも多くの方が美術館を訪れるきっかけとなるべく、展覧会の模様を伝える【ミュージアム・レポート】をスタートしました。

そのような経緯から茨城県・廣澤美術館にて開催している『中川一政 所蔵品展』をご紹介します。

車や電車で都心から1時間ほどで足を運べる茨城県・廣澤美術館は、自然豊かな場所でゴルフや収穫体験などのさまざまなアクティビティが楽しめ、100万㎡という広大な敷地面積を誇るザ・ヒロサワ・シティ内にあります。

そんな美術館の見どころは、世界的に活躍されている建築家・隈研吾氏の設計のもと、作庭家の斉藤忠一氏による美しい枯山水の日本庭園、ランドスケープアーキテクトの宮城俊作氏による二つの庭、左官技能士挟土秀平氏が手掛けた門です。

敷地を含めて一つの芸術作品のようですが、その中でも特に注目してほしいのは、全国から集めた大小様々な自然石(約6,000トン)が建物を覆い、あえて外観が見えないようにしている本館の設計です。

来訪者にあたたかくありながらも、緊張感を与えてくれるそのデザインは、木材と石材を使用することで、樹木と巨石が一体となるような、「時間とともに成熟する美術館」と言えるでしょう。

また、企画展が開催されている本館だけでなく、本格的な日本庭園をはじめとし、開放的な芝生の庭や竹の庭などのほかにも、「石の美術館」や「つくは野館」など、5つ建物と屋外展示が楽しめます。

そして、本館にて開催中の『中川一政 所蔵品展』は、その展覧会タイトル通り日本洋画壇を代表する画家のひとりであり、最長老で文化勲章受章者の中川一政に焦点を当てた展覧会です。

中川一政は、少年期に文芸誌や新聞などに詩歌や散文を発表・入選を果たすなど、文学方面で才能を発揮しました。

その後、愛読していた文芸誌『白樺』にてゴッホやセザンヌの作品が紹介され、彼らに影響を受けて自身でも筆を取るようになったそうです。

1914(大正3)年に中川氏が描いた、処女作《酒倉》、第2作目《霜のとける道》が相次いで、当時の新人画家の登竜門だった巽画会展に入選を果たし、二等賞を獲得したことから、画家として生きていくことを決意しました。

展示室では、生命力に満ち溢れている薔薇や向日葵などの作品群は、ダイナミックな筆遣いとともに、華やで豊かな色彩に包まれ、大きな画面構成といった画風で、鑑賞者を釘付けにすることでしょう。

その一方で、若い頃から文化的な才能に恵まれた中川は、文筆活動や書の分野にも積極的に取り組んでいることや、それだけには留まらず挿絵、装丁、陶芸にも手を染めていることから、多彩で自由な制作活動に触れることができます。

ぜひ時間の許す限り様々な作品に触れながら、独自の作風を追求して97歳の天寿を全うした、現代の文人画家・中川氏に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。

中川一政《薔薇》 作品一部より

今回の取材を通して、廣澤美術館において名だたる著名な方々が手掛けていることや、3,000点にも及ぶ地域ゆかりのコレクションを保有している理由をお伺いしたところ…

教育やレジャーなど幅広く手掛ける広沢グループの創立者・廣澤清氏が、過疎化が進行する茨城県の関係人口を増やすことを目的に、『ザ・ヒロサワ・シティ』を事業展開してきたのだそう。

「自然・健康・文化」を施設全体のテーマとして大きく掲げており、その文化を担うエリアの入り口として本館をオープンさせました。今後は廣澤美術館に次いでクラシックバイク・ミュージアムやクラシックカー・ミュージアムも開館していくそうです。

一度では施設を巡りきれない、何度でも発見を持ち帰ることができる、『ザ・ヒロサワ・シティ』に足を運んでみてはいかがでしょうか。

取材・執筆・写真:新麻記子

【情報】
「中川一政所蔵品展」
会期::4月25日(日)~7月27日(火)
会場:廣澤美術館
休館日:水曜日
開館時間:10時~17時00分(入館は16時30分まで)
観覧料:一般1,000円、大学・高校生700円、中学生500円、小学生以下無料
ホープページ:http://www.shimodate.jp/hirosawa-museum_of_art.html