
アイティーエル株式会社では、一人でも多くの方が美術館や博物館を訪れるきっかけとなるべく、2020年7月より【ミュージアム・レポート】を開始いたしました。
今回は、東京国立博物館にて開催中の特別展 内山晋コレクション受贈記念「歌川広重 江戸のベストアングル」をご紹介します。
本展覧会について

内山晋氏(1893~1980)は、国立東京博物館に旧蔵の浮世絵1,025点を受贈しました。
内山氏は、歌川広重を中心とする質の高い浮世絵コレクションを築き、出版物や展覧会を通してその魅力を広く紹介するなど、浮世絵の研究と普及に大きな足跡を残した人物です。
本展覧会は、この貴重なコレクションの収蔵を記念し、広重の代表作である「東海道五拾三次」(1期)、「木曽海道六拾九次」(2期)、「名所江戸百景」(3期)の三大シリーズを中心に、風景画、花鳥画の名作を三期に分けて紹介され、これらシリーズ全点を一度に公開する国内外でも例を見ない大変貴重な機会となります。
また会場には、超高精細映像を大型モニターで楽しめるコーナーも設けられており、近くでは細かな線や色彩の重なりに注目し、少し離れてから画面全体の構図を確認できるといった、木版画の繊細な表現も鑑賞できます。
風景画に革命を起こした浮世絵師、歌川広重

江戸時代後期に活躍した歌川広重(1797~1858)は、四季の移ろいを感じさせる風景画や、色鮮やかな花鳥画で一時代を築き、モネやゴッホなど西洋絵画作家にも影響を与えた浮世絵師です。
とくに代名詞ともいえる風景画では、日本各地を題材に天候や時刻の変化、そこに生きる人びとの姿を巧みにとらえ、卓越した画面構成力によって風景の魅力を描き出し、風景画でありながらも人間の存在を感じさせる、親しみやすくも新鮮味あふれるその作風は、江戸の人びとの心をつかみました。
作品を前にすると構図の美しさや色彩の鮮やかさに目が向きやすいですが、シリーズ全体を眺めてみるといかに多様な表現を試みており、独自の芸術として発展させていったのかがわかることでしょう。
風景の正確な記録だけではなく、そこに漂う空気や季節、時間の流れまで表現し、同じ街道の風景であっても、晴れた日の明るさ、雨の冷たさ、雪の静けさ、夕暮れの寂しさにより、見る者が受け取る印象は大きく異なり、広重はそうした微妙な違いを限られた色数と大胆な構図によって描き分けています。
第1期「東海道五拾三次」――江戸から京都へ、版画で旅する日本

現在開催されている第1期の中心となるのが、1830年代に刊行されたこのシリーズである、広重の名を一躍高めた代表作として知られている「東海道五拾三次」(保永堂版)です。
東海道は江戸の日本橋から京都へとつづく、江戸時代の主要な街道の一つでした。その道中には53の宿場が設けられており、広重は各宿場の風景を中心に、日本橋と京都を加えた全55図で表現しました。
本展では、第1期の会場全体を使い、東海道を旅するように作品を巡る構成になっています。
江戸の賑わいから始まり、海辺の風景、川越え、山道、雨や雪の情景へと移り変わり、それぞれの作品には独立した魅力がある一方、全体を通して見ることで旅という一つの物語が浮かび上がってきます。

興味深いのは、広重がすべての宿場を同じように描いているわけではないことです。
ある宿場では壮大な自然が主役となり、別の宿場では旅人たちの姿が中心になり、また宿場の建物を詳しく描く作品もあれば、天候や季節の変化を強調した作品もあります。
広重にとって重要だったのは、各地の名所を均等に紹介することではなく、その場所ならではの魅力を最も効果的に伝えることだったと思います。
最後に

今回の特別展「歌川広重 江戸のベストアングル」は、広重という画家の卓越した技術を知るだけでなく、風景を見ることの楽しさを再発見させてくれる展覧会です。
広重が描いたのは単なる江戸時代の「場所」ではなく、その場所に流れるゆるやかな「時間」と、そこで生きる人々の「気配」も合わせて描かれていることで、何気ない日常の中に潜む美しさに気づき、私たち自身の「ものの見方」を見つめ直すことができます。
広重の作品を鑑賞することは、江戸時代の風景を知るだけでなく、東京国立博物館にとって初めての本格的な広重展、浮世絵の愛好家はもちろん、日本美術にあまり親しみのない人にも、広重という画家の魅力を発見する貴重な機会を楽しんでみてください。
【情報】
特別展 内山晋コレクション受贈記念「歌川広重 江戸のベストアングル」
会場:東京国立博物館 本館A室
会期:2026年9月29日(火)〜12月20日(日)
第一期|9月29日〜10月25日「東海道五拾三次」と江戸名所
第二期|10月27日〜11月23日「木曽海道六拾九次」と諸国名所・花鳥画
第三期|11月25日〜12月20日「名所江戸百景」の世界
時間:9:30〜17:00 金・土曜日など一部の日は20:00まで
ホームページ:https://www.tnm.jp/modules/r_free_page/index.php?id=2759