全国巡回展の集大成!スケールアップした内容で楽しめる蜷川実花展
まだまだ新型コロナウイルス感染症により、美術館、博物館、ギャラリーなどの文化施設に、気軽に訪れられない 日々が続いています。
しかし、そんな状況下に負けじとオンラインチケットで密を防ぎ、検温や消毒など徹底した感染症対策を行いなが ら、運営に努める施設関係者の思いに応えられるように、一人でも多くの方が美術館を訪れるきっかけとなるべ く、展覧会の模様を伝える【ミュージアム・レポート】をスタートしました。
そのような経緯から今回は、上野の森美術館にて開催されている『蜷川実花展 ー虚構と現実の間にー』をご紹介します。
蜷川実花(にながわみか)は、写真家の枠を超え、映画、デザイン、ファッションなど多彩な活動をしているアーティスト。彼女の作品は独特の色彩と幻想的な世界観で人々を魅了し、国内外から高い評価を受け、さらなる飛躍を迎えています。
2018年から27万人以上を動員した巡回展の集大成となる11会場目の東京では、これまでの展示作品を半数ほど入れ替え、編集を加えたものや新しく撮りためた写真、映像作品、インスタレーションも加わり、スケールアップした内容をお楽しみいただけます。
メインビジュアルの写真が使用されている門をくぐり抜け、写真が切り替わる映像が流れるモニターの間を進むと、藤の花の写真を背景に色鮮やかなネオン菅で『floating layered visions』と描かれた作品が出現。
蜷川氏が「浮遊するイメージが幾重にも層になって重なり、自分に繋がって新しい未来や作品を予見・予感させる」という想いを込めており、本展覧会の期待値が上がるプロローグとなっています。
導かれるように足を踏み入れた『Blooming Emotions 』では、色鮮やかな生花の写真作品が展示されています。同シリーズでは、蜷川がその時々に感じる情感とともに、人に寄り添う花の姿を捉えています。
生花を撮影した写真といっても、艶やかな色彩と様々な技法で捉えた作品は、一枚として同じ表情はなく、鑑賞者を楽しませてくれます。
つづく、一面写真作品に覆われた空間である『Imaginary Garden』では、造花や人工的に着色したカラーリングフラワーを写した写真作品のシリーズ。蜷川氏は、自然の中になる美しさだけを認めるのではなく、人工物やそこにある人の想いや欲望を含め、世界の美しさに向き合ったアプローチで撮影したのだそう。
まさに本展タイトル『虚構と現実』を見せつけられているかのように、虚構と現実の境界で感じるイメージや感情が投影されています。
蜷川氏と親交の深い女優やモデルを鮮烈な極彩色で撮影したコーナー『I am me』を通り、2階への階段を登ると蜷川氏が自身をモノクロームで撮影した『Self-Image』へと繋がっています。
映像作品の仕事を請け負っている際には、多くのスタッフと関わることが多く、自宅にも帰れない日々がつづくため、自分というものを見失いがちになるのだそう。その自己を取り戻す方法として自身を撮影していると解説してくれました。
そこから、パラアスリートたちの凛々しい姿を撮影したコーナー『Go Journal』を抜け、蜷川氏自身が生まれ育った東京を捉えた『TOKYO』へと繋がっていきます。
アスファルトやコンクリート、ガラスやネオンサイン、時間や天候の変化のなかで多様な表情を映し出された東京。2020年、新型コロナウイルスが世界を覆い、街から喧騒が引いていくなかで、改めて新しい美しさを発見することができるでしょう。
つづく、柔らかな光が印象的な写真作品で構成された『うつくしい日々』では、蜷川氏の父・蜷川幸雄が病に倒れ、ゆるやかに死へと向かう、1年半の日常を捉えています。
蜷川氏が「あの世の目線で撮影した」というように、家族や人々そして世界と別れゆく父の視線と、心に不安と悲しみを宿した娘の視線が重なり、写真とともにテキストも添えられ、パーソナルな部分に触れることができます。
『うつくしい日々』からつづく一面写真作品に覆われた空間の『光の庭』では、2021年春に撮影された桜や藤で構成されたシリーズ。
新たなアプローチとして加わったフィクションとイメージを結ぶようなこちらの作品は、虚構という形が定まらない未来の側面とともに、どのようにそこに至るのかという意思で、多様にひらかれる可能性を秘めているかという希望が感じられます。
そして、会場の最後を彩るのは自身の書斎を再現したというインスタレーション作品『Chaos Room』。
展示室の真ん中にある大木には、これまで撮影した写真や映画の一部がモニターに映し出されおり、展示室の対角には、書籍や資料、オブシェなどの小物類、映像作品に使用されたセットなどが無造作に配置されています。
映画作品で使用された資料には細かく指示された絵コンテをはじめ、その作品情景の理解を深めるために集められた浮世絵や春画などもあり、一つの作品に対して真摯に向きあう蜷川氏の創作に触れることができました。
会場では、「虚構と現実」をテーマに主軸となる写真の本質に迫るとともに、表現のジャンルに囚われることなく制作された作品が一堂に会し、時代の先端を鮮烈に示しつづける”蜷川実花”の作品世界を体感でき、蜷川氏自身のパーソナルな部分に触れられる機会となり、より作品への理解が深まる内容となっています。
また、本展覧会と合わせてミュージアムショップでは、蜷川氏の作品がプリントされたアパレルやステーショナリーのグッズをはじめ、マスク、トランプ、キーホルダー、蜷川氏がディレクションするオリジナルグッズ、フェイスマスクブランドNo.1『ルルルン』等の商品が販売されていました。
独特の色彩と幻想的な世界観で人々を魅了し、蜷川氏の作品創作への源流にも触れられる、またとない機会をお見逃しなく。
取材・写真・文:新麻記子
【情報】
蜷川実花展 -虚構と現実の間に-
会期:2021年9月16日[木]- 11月14日[日]
会場:上野の森美術館
時間:10:00 – 17:00 ※最終入館は閉館の30分前まで
入場料:一般1,800(1,600)円、大学・高校1,600(1,400)円、中学生・小学生600(500)円
*平日は日付、土日祝は日時指定制。観覧前日までは( )内の前売り料金で購入できます。
HP:https://ninagawa-exh.com/