【千葉市美術館】「三沢厚彦 ANIMALS/Multi-dimensions(アニマルズ/マルチ・ディメンションズ)」

三沢厚彦の制作意欲と多様性の作品世界に触れる


2020年、猛威を振るった新型コロナウイルス感染症により、美術館、博物館、ギャラリーなどの文化施設に、なかなか訪れられない日々が続きました。

しかし、新しい生活様式のもと事前予約をはじめ、検温や消毒など徹底した感染症対策を行い、運営に努める施設関係者の思いに応えられるように、一人でも多くの方が美術館を訪れるきっかけとなるべく、展覧会の模様を伝える【ミュージアム・レポート】をスタートしました。

そのような経緯から千葉市美術館にて開催中の「三沢厚彦 ANIMALS/Multi-dimensions(アニマルズ/マルチ・ディメンションズ)」をご紹介したいと思います。

三沢厚彦とは?

三沢厚彦(みさわあつひこ/1961–)は、ゾウ、ライオン、キリンなどの動物をテーマに、九州の楠の丸太を使用したほぼ原寸大の木彫に、油絵具で彩色する「ANIMALS(アニマルズ)」シリーズで知られる日本を代表する彫刻家です。

京都で生まれ育ち、幼い頃から仏像や寺社に親しみ、東京藝術大学および同大学院で彫刻を学び、1990年代に流木などを寄せ集めて制作された「コロイドトンプ」シリーズで注目を浴びました。

2000年より始められた「ANIMALS」では、動物のリアリティを追求していく革新的な造形が高く評価され、全国各地の美術館で個展が多数開催され、これまで多くの鑑賞者を虜にしてきました。

三沢厚彦は現代美術の流行にとらわれず、自分がごく自然に作りたいと思ったものを、ごく普通に創ることをモットーとし、かつそうして作り上げた作品が、自分自身の思いではなく、見る人の持つ思いによってさまざまな見え方になることを素直に喜び、そして楽しんでいます。

また、そんな三沢氏の彫刻作品は、細部までリアルな動物の姿でありながら、その表情はどれも言葉では言い表せないユニークさや不思議さを醸し出しており、どこかファンタジーの世界の生き物を目の前にしているかのような印象を受けます。

本展覧会の見どころについて

「三沢厚彦 ANIMALS/Multi-dimensions(アニマルズ/マルチ・ディメンションズ)」は、千葉県では初となる個展で、関東の美術館では5年ぶりの開催となります。

本展覧会は「多次元」をテーマに、千葉市美術館の企画展示室、常設展示室、さや堂ホールほか、美術館の建築物全体が会場となり、約220点の多様な彫刻と絵画が展示されています。

会場では、「ANIMALS」の代表作品に加え、1990年代前半の「ANIMALS」以前の初期未発表作品や、2023年の最新作の「キメラ」、作家の撮影・演奏による映像作品《Pulse moment》他、これまで知られてこなかった、三沢氏の表現領域の多様性を作品の数々によって伝えています。

多次元 Multi-dimensions(アニマルズ/マルチ・ディメンションズ)について

これまで全国各地の美術館で開催してきた「ANIMALS」に加え、本展覧会では「Multi-dimensions(アニマルズ/マルチ・ディメンションズ)」をテーマに展示構成が練られました。

「多次元」のテーマは、かつて丹下健三の門下であり、戦後の都市開発に当たって活躍した、建築家・大谷幸夫(おおたにさちお / 1924-2013)が設計した千葉市美術館から着想を得たそうです。

本展覧会に向けたリサーチにおいて、作家より提示された「多様性」、「多次元性」、「中庭」、「シンクロニシティ」をもとに、彫刻と空間の関係を探求しつづけ、美術館の持つ空間の特性を生かし、三沢氏の作品を紹介しています。

会場、8階では「ANIMALS」、7階では1990年代の初期作品や、1994年〜1999年の「コロイドトンプ」シリーズ、コロナ禍に制作された「Strut」シリーズ、千葉市美術館コレクションとのコラボレーション、そして近年、作家が注力している、空想上の生物である麒麟をはじめ、キメラ、フェニックス、ユニコーンなどが展示されています。

21世紀に入り、木彫による具象彫刻、さらには現代アートの分野を牽引してきた三沢は、近年では空想上の生き物である麒麟やキメラといった複数の動物のイメージを組み合わせる表現に発展し、大型の木彫を精力的に制作しています。

時空を軽やかに飛び越え、現代の私たちの前にあらわれるキメラたちは、その眼差しでいまの世界を見つめ、何を語りかけるのでしょうか。

最後に…

会場では、建築家・大谷幸夫(おおたにさちお / 1924-2013)が建築において重視した「中庭」から着想を得た、滞在制作スペースである「中庭部屋」を企画展会場内に設置。

会期中は、作家の滞在制作も予定されており、新作の制作や作品の補強をし、音楽家・山本精一氏のよるライブなどを行い、会場が変化していき、来場者との対話や偶然の出会いから、新たな関係性を生み出していく試みを行います。

また、7月14日(金)〜10月15日(日)まで、美術館4階の子どもアトリエにおいて、「つくりかけラボ12 三沢厚彦 | コネクションズ 空洞をうめる」を開催します。

ぜひ、さまざまなプログラムが企画されて、三沢のキメラ的思想によって、生が吹き込まれていく本展をぜひお楽しみ下さい。

取材・撮影・文:新麻記子

【情報】
三沢厚彦 ANIMALS/Multi-dimensions
会期:2023年6月10日〜9月10日
会場:千葉市美術館
住所:千葉市中央区中央3-10-8
電話番号:043-221-2311
開館時間:10:00〜18:00(金土〜20:00) 
休室日:6月12日、19日、26日、7月3日、10日、18日、8月7日、21日、9月4日
料金:一般 1200円 / 大学生700円 / 小・中学生、高校生 無料
HP:https://www.ccma-net.jp/exhibitions/special/23-6-10-9-10/