【アーティゾン美術館】『マリー・ローランサン ―時代をうつす眼』

アイティーエル株式会社では、一人でも多くの方が美術館や博物館を訪れるきっかけとなるべく、2020年7月より【ミュージアム・レポート】を開始いたしました。

困難な状況下においても美術館・博物館ではさまざまな企画や対策をおこなっていることから、全てのアートシーンに対してこれからも変わらず応援していくべく、アイティーエルも継続して情報を発信していきたいと思います。

今回、ミュージアム・レポートでご紹介するのは、アーティゾン美術館にて開催している『マリー・ローランサン ―時代をうつす眼』です。

パステルカラーの優美な女性像で人気を博したローランサン

展示風景

マリー・ローランサン(1883-1956)は、20世紀前半に活躍したフランスの女性画家。

彼女は、同時代の画家であるピカソやブラックとの関わりからキュビスムの画家として紹介されることも多くありますが、「前衛的な芸術運動」や「流派(イズム)」を中心に語る美術史の中にうまく収まらない存在です。

ローランサン自身は、自分に影響を与えた存在として、ピカソ、ブラック、マティス、ドランの名前を挙げていますが、彼らの様式を模倣することなく、独自の画風を生み出しました。彼女は同時代の状況を見ながら、時代の要請を理解して自らの方向性を模索していきます。

その後、パステル調の色彩や曲線的な形態などの女性的な芸術を追求し、独特な抽象絵画をともなった女性ポートレイトや女性グループの注文絵画を描き、死ぬまでフェミニンをテーマにした作品制作を探求していきました。

本展覧会について

展示風景

本展では、石橋財団コレクションや国内外の美術館から、ローランサンの作品約40点、挿絵本等の資料約25点に加えて、ローランサンと同時代に活躍した画家たちの作品約25点、合計約90点を展示します。

パリのアカデミー・アンベールで油絵を学んだ初期作品、同時代の画家であるピカソとの交流が伺える作品、第一次世界大戦によりドイツ人・夫とスペインに逃れた亡命時の作品、そして離婚後パリに戻ってきてから作品、そして72歳で亡くなる3年前に制作された作品までご覧になれます。

会場では、ローランサンの画業を複数のテーマから紹介し、関連する他の画家たちの作品と比較しつつ、彼女の作品の多面的な魅力を感じ取ることができるでしょう。

ピンクではない?!ローランサンの作品

展示風景

本展担当学芸員の賀川氏は「優しいピンク色ではないローランサンを見せたい!」と、プレス内覧会のギャラリートークで熱く語っていたとおり、会場ではさまざまな彼女の作品に出会うことができます。

例えば、比較的初期に描かれたマリー・ローランサン《若い女たち》(1910-11)では、曲線的な形態で描かれてた女性達の身体はそのままですが、背景や色彩からはキュビズムの要素がみてとれます。

展示風景

また、離婚後に生まれ育ったパリに戻ったローランサンは、20年代〜30年代にかけて年を追うごとに、パステル調の色彩は落ち着きを見せ、はっきりとした色彩で描かれ、画面は華やかになっていきます。

筆者もローランサンに対してパステル調のピンクの可愛らしいイメージがありましたが、そういった表現や色彩の変遷に注目してみると、これまでのイメージを覆すものばかりでした。

最後に

展示風景

本展覧会では、時代の要請を理解して自らの方向性を模索した、ローランサンの知られざる表現に触れることができます。

展示作品を通して浮かび上がってくるのは、同時代の画家たちをはじめ、詩人、舞台関係者、家具職人やデザイナーなど、さまざまな分野の人々との交流を通し、表現をアップデートしながら新たな画風を生み出していく、その枯れることない探究心と向上心です。

ぜひ今までと異なったアプローチにより、彼女の表現の幅の広さだけでなく、知られざる素顔に迫ることができる、本展覧会に足を運んでみてくださいね。

取材・撮影・文:新麻記子

【情報】
『マリー・ローランサン ―時代をうつす眼』
会期:2023年12月9日(土)〜2024年3月3日(日)
会場:アーティゾン美術館 6階展示室
時間:10:00〜18:00(2月23日を除く金曜日は20:00まで)
   *入館は閉館の30分前まで
休館:月曜日(1月8日、2月12日は開館)、12月28日ー1月3日、1月9日、2月13日
主催:公益財団法人石橋財団アーティゾン美術館
ホームページ:https://www.artizon.museum/