【ポーラ美術館】「モダン・タイムス・イン・パリ 1925ー機械時代のアートとデザイン」展

第1章「機械と人間:近代性のユートピア」展示風景

アイティーエル株式会社では、一人でも多くの方が美術館や博物館を訪れるきっかけとなるべく、2020年7月より【ミュージアム・レポート】を開始いたしました。

困難な状況下においても美術館・博物館ではさまざまな企画や対策をおこなっていることから、全てのアートシーンに対してこれからも変わらず応援していくべく、アイティーエルも継続して情報を発信していきたいと思います。

今回は、現在、箱根・ポーラ美術館にて開催中の「モダン・タイムス・イン・パリ 1925ー機械時代のアートとデザイン」展をご紹介します。

本展覧会について

エピローグ「21世紀のモダン・タイムス」より空山基 展示風景

本展覧会は、1920〜1930年代のパリを中心に、ヨーロッパやアメリカ、日本における機械と人間との関係をめぐる様相を紹介します。

1920年代、フランスの首都パリをはじめとした欧米の都市では、第一次世界大戦からの復興によって工業化が進み、「機械時代」(マシン・エイジ)と呼ばれる華やかでダイナミックな時代となりました。

特に「パリ現代産業装飾芸術国際博覧会」(アール・デコ博)が開催された1925年は、変容する価値観の分水嶺となり、工業生産品と調和する幾何学的な「アール・デコ」様式の流行が絶頂を迎えました。

日本では1923年(大正12)に起きた関東大震災以降、東京を中心に急速に「モダン」な都市へと再構築が進むなど、世界は戦間期における繁栄と閉塞を経験し、人々の価値観が機械や合理性へと変化しました。

本展覧会は約100年前の機械と人間とのさまざまな関係性から、コンピューターやインターネットが高度に発達し、AI(人工知能)が人々の生活を大きく変えようとする現代への問いかけです。

本展の見どころポイント

機械と人間の関係を問いかける

第1章「機械と人間:近代性のユートピア」より 機構模型 展示風景

1920年代には、第一次世界大戦の影響により、自動車や航空機という人間の力を大きく凌駕する、機械が急速に普及します。

レジェやブランクーシ、そしてシュルレアリスムの作家など、この時代のアーティストによる機械への賛美や反発を、AI(人工知能 )が人類の知能を超える「シンギュラリティ」(技術的特異点)が到来しようとする現代と重ね合わせて見なおします。

【第1章 機械と人間:近代性のユートピア】では、芸術家やデザイナーたちが機械の進化が理想的な新しい時代をもたらすと信じて機械をモティーフにした作品を制作しています。一方【第3章 役に立たない機械:ダダとシュルレアリスム】では、機械の発達による近代化に抵抗する動きを起こして機械時代を支える合理主義を批判的に捉えた作品を生み出した様子が伺えます。

そして、【エピローグ 21世紀のモダンタイムス】では、タイトルにある“1925年”から“2024年”の現在へと戻り、最後は私たちが今生きている現在に目を向け、人間と身近となったテクノロジーとの関係性について、今一度鑑賞者に問いかけるような作品が展示されています。

アール・デコを機械時代として捉える

第 2章「装う機械:アール・デコと博覧会の夢 」展示風景

1920年代を代表する装飾スタイル「アール・デコ」は、異国趣味や古典回帰、現代主義(モダニズム)など、多くの価値観が混在して生み出されました。

この展覧会では多面的なアール・デコのなかでも「モダン」(現代的)な側面に注目し、産業技術や都市の発達という視点から捉えます。それまで余剰や付随とみなされていた装飾は、機能や実用性を感じさせる幾何学的な造形として流行し、この時代の建築や家具、服飾の分野に広がりました。

【​​第2章 装う機械:アール・デコと博覧会の夢】では、この時代活躍した作家たちが機械や工業製品の美を称揚し、未来を感じさせるイメージを作り出した作品を紹介しています。

日本のモダニズム:モダン都市を彩るアール・デコと機械美

第4章「 モダン都市東京:アール・デコと機械美の受容 と展開」展示風景

日本におけるグラフィックデザイナーの先駆けとなった杉浦非水による、アール・デコ様式の影響を受けたポスターや雑誌の表紙を紹介するとともに、レジェに感化された古賀春江や、機械美に魅せられた河辺昌久など異色の前衛芸術家の作品により、大正末期から昭和初期にかけての日本のモダニズムを検証します。

古賀春江のように絵画に機械をとり入れることを探求した日本のシュルレアリスム作家たちがいる一方で、カメラで機械や機械的建造物を表現することに関心を向けた板垣鷹穂や堀野正雄のような人物も現れたのがこの時代。彼らに続く原弘のグラフィックデザインには構図やカメラアングルの工夫で生まれる写真の臨場感が採り入れられています。

そういった【第4章 モダン都市東京:アール・デコと機械美の受容と展開】では、機械的なモティーフを採り入れながらも、新しい時代の高揚感と不安とが交錯するような、絵画作品が多数生み出されいることが感じ取れるでしょう。

最後に

ラファエル・ローゼンダール《Into Time. com》 2010年 ヌー・アバス蔵 Courtesy of Takuro Someya Contemporary Art

冒頭にもあったとおり、本展覧会は約100年前の機械と人間とのさまざまな関係性から、コンピューターやインターネットが高度に発達し、AI(人工知能)が人々の生活を大きく変えようとする現代への問いが含まれています。

AIの能力が人間を超えるとされているシンギュラリティ(技術的特異点)が近づいてきているからこそ、この展覧会が企画される意味やさまざまな作品が提示する内容が鑑賞者の心に響くことでしょう。

ぜひ機械と密接に関わっている現代の私たちが、これからテクノロジーとともに生きていくため、より良いヒントとなる本展覧会に、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。

取材・撮影・文:新麻記子

展覧会情報
モダン・タイムス・イン・パリ 1925-機械時代のアートとデザイン
Modern Times in Paris 1925: Art and Design in the Machine Age
会期:2023年12月16日(土)〜2024年5月19日(日)
会場:ポーラ美術館 展示室1、2
時間:9:00〜17:00(入館は16:30まで)
休館日:会期中無休
公式ホームページ:https://www.polamuseum.or.jp/exhibition/