時代とともに変化し続けた民藝の試み
まだまだ新型コロナウイルス感染症により、美術館、博物館、ギャラリーなどの文化施設に、気軽に訪れられない 日々が続いています。
しかし、そんな状況下に負けじとオンラインチケットで密を防ぎ、検温や消毒など徹底した感染症対策を行いながら、運営に努める施設関係者の思いに応えられるように、一人でも多くの方が美術館を訪れるきっかけとなるべ く、展覧会の模様を伝える【ミュージアム・レポート】をスタートしました。
そのような経緯から、東京国立近代美術館にて開催中の柳宗悦没後60年記念展「民藝の100年」をご紹介します。
「民藝」とは「民衆的工芸」の略語です。民藝運動が生まれたのは近代の眼がローカルなものを発見していくという「捻じれ」をはらんだ時代のことでした。
民藝運動の父である柳宗悦を中心とした、陶芸家の濱田庄司や河井寬次郎などのメンバーは、若くして西洋の情報に触れ、モダンに目覚めた世代でありながら、それまで見過ごされてきた日常の生活道具の中に潜む美を見出し、工芸を通して生活と社会を美的に変革しようと試みました。
本展覧会では、柳らが蒐集した暮らしの道具類や大津絵といった民画のコレクションとともに、出版物や写真などの同時代資料を展示し、総点数450点を超える作品と資料を通して民藝とその内外に広がる社会、歴史や経済を浮かび上がらせます。
今回とりわけ注目するのは、「美術館」「出版」「流通」という三本柱を掲げた民藝のモダンな「編集」手法と、それぞれの地方の人・モノ・情報をつないで協働した民藝のローカルなネットワークです。
全国を歩き、蒐集し、文章を書き、ものを作る― 民藝運動を推進したのは、さまざまな職能と地縁をもつ人々のつながりでした。古民藝の調査・蒐集・展示、雑誌の出版、新作民藝の製作からショップ経営まで、それぞれの地域に根ざした人々との協働に目を向けてみましょう。
民藝の実践は、ただ美しい「モノ」の蒐集にとどまらず、新作民藝の生産から流通までの仕組み作り、あるいは農村地方の生活改善といった社会の問題提起だけでなく、スタイリッシュで丁寧な衣食住の提案、鳥取砂丘の景観保存にまで多岐に広がっています。
関東大震災、鉄道網の発達と観光ブーム、戦争と国家、戦後の高度経済成長…民藝運動の歩みは「近代化」と表裏一体であり、社会の大きな節目と併走するように展開してきました。
今、何故「民藝」が注目されているのでしょうか。「暮らし」を豊かにデザインすることに人々の関心が向かっているからなのか。それとも、日本にまだ残されている地方色や伝統的な手仕事に対する興味からなのか。いずれにせよ、およそ100年も前に柳宗悦、濱田庄司、河井寬次郎が作り出した新しい美の概念が、今なお人々を触発し続けているのは驚くべきことです。
本展覧会は、「近代」の終焉が語られて久しい今だからこそ、持続可能な社会や暮らしとはどのようなものか。「既にある地域資源」を発見し、人・モノ・情報の関係を編みなおしてきた、民藝運動の可能性を「近代美術館」という場から見つめなおします。
取材・撮影・文:新麻記子
【情報】
柳宗悦没後60年記念展「民藝の100年」
会期:2021年10月26日(火)〜2022年2月13日(日)
※会期中、一部展示替えあり
会場:東京国立近代美術館
開館時間:10:00~17:00(金・土曜日は20:00まで) *入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日(ただし1月10日は開館)
年末年始(12月28日(火)~1月1日(土・祝))、1月11日(火)
展覧会公式ホームページ:https://mingei100.jp