
アイティーエル株式会社では、一人でも多くの方が美術館や博物館を訪れるきっかけとなるべく、2020年7月より【ミュージアム・レポート】を開始いたしました。
今回は、六本木ヒルズ森タワー52階の東京シティビュー&森アーツセンターギャラリーにて開催中の「la Galerie du 19M Tokyo」をご紹介します。
本展覧会について

本展覧会は、2021年にシャネル(CHANEL)がパリに設立した複合施設「le 19M(ル・ディズヌフエム)」のオープンスペース「la Galerie du 19M」を東京に展開する国際プロジェクトです。
le 19Mは、11の専門アトリエ(メゾンダール)と、ファッション・インテリア分野における、素材・装飾・縫製等の職人技術を担う約700人の職人が所属しており、シャネルのクリエーションを支える“手仕事”を守り、継承・発信している場所です。
フランス語で「芸術的な手仕事」を意味する「メゾンダール」は、1910年のシャネルの誕生以来、クリエイションの根幹にある存在です。施設の名前は、創業者であるガブリエル・シャネルの誕生日8月19日と、Mode(モード)、Mains(手)、Métiers d’art(メティエダール)、Maisons(メゾン)、Manufactures(手仕事)の頭文字に由来します。

今回の東京展では、職人技をインスタレーションとして紹介する「le Festival」、日本とフランスの職人やアーティストによる「Beyond Our Horizons 未知なるクリエイション、その先へ」、刺繍とツイードのメゾン「ルサージュ」の創業100周年を記念した「Lesage 刺繍とテキスタイル、100年の物語」の刺激や遊び心に溢れる3部構成を軸としています。
日本とフランスの伝統工芸・現代作家との対話、素材と技術の重層的な表現、体験型プログラムの導入などを通して、le19Mの革新と伝統の世界を体感しながら、手仕事の奥深さを来場者に紹介しています。
11のメゾンダールが集う祝祭空間「le Festival(フェスティバル)」

まず来場者を出迎えるのは11のメゾンダールによる唯一無二の技術を紹介する「le Festival」。
こちらでは、le 19M所属の11のメゾンダール(各専門アトリエ)を、素材・工具・プロセスとともに紹介し、彼らの工房である“作業場”に見立てながら、職人の日常を可視化した空間となっています。
針、糸巻き、縫製機、羽根、布片、金属部品、補強芯材、模型などが並べられ、その周囲に作品やサンプル、途中工程の断片が併設されており、裏側にある作業世界を“覗き見る”という楽しみが感じられます。
天井から吊るされた布地、床やテーブルに並ぶ道具類、これらは11のアトリエから集められたもので、シャネルを支えている多彩なアトリエの世界が広がるこのインスタレーションを手がけたのは、建築家・田根剛率いるATTA – Atelier Tsuyoshi Tane Architectsによるものです。
日×仏の職人・アーティストが共鳴する「Beyond Our Horizons(ビヨンド アワー ホライズンズ)」

続く「Beyond Our Horizons」では素材や技術を媒介とした“対話”がテーマに、le19Mの11のメゾンダールと日本各地のアーティストや職人、アトリエ約30組をつなぐグループ展です。
参加アーティスト・職人・工房は、A.A.Murakami、アトリエ九間、ウスマン・バ、デザイン橡 、永樂善五郎、ジュリアン・ファラッド、藤森工務店、藤田雅装堂、ポーリーン・ゲリエ、五十嵐大介、クララ・アンベール、石垣昭子、かみ添、金沢 木制作所、川人綾、ハルミ・クロソフスカ・ド・ローラ、小嶋商店、konomad(河野富広/丸山サヤカ)、トーマス・マイレンダー、益田芳樹、満田晴穂、中川周士、シモーヌ・フェルパン、ヘレナ・ルデサー、鈴木盛久、髙室畳工業所、舘鼻則孝、グザヴィエ・ヴェイヤン、ニック・ウッド。
展示は、「le Passage(パサージュ)」「les Ateliers(アトリエ)」「le Rendez-vous(ランデブー)」「la Foret(フォレスト)」「le Theatre(シアター)」「la Magie(マジック)」の6つのパートから構成され、日仏のアーティストや職人たちの領域を越えた協働が展開されています。
幅広い表現手法が導入されており、現代アート作品、テキスタイル表現、立体造形、インスタレーション、コラージュ、映像、陶芸、屏風や提灯など、伝統工芸との接点を意識した作品が混在しています。
ルサージュの100周年、「Lesage 刺繍とテキスタイル、100年の物語」

展覧会の最終章「Lesage 刺繍とテキスタイル、100年の物語」では、1924年設立の刺繍の名門ルサージュの創業100周年を記念する特別展が展開されています。
ルサージュ(Lesage)は、1924年創業の刺繍・テキスタイルのメゾンダールで、シャネルとの深い関係を持ち、その技術と美意識はクチュール界にも多大な影響を及ぼしてきました。
会場ではルサージュの歴史を紹介するとともに、織物職人や刺繍職人たちが実際に使用している道具などを用いた作業場の再現展示も登場し、クリストバル・バレンシアガやエルザ・スキャパレリ、イヴ・サンローランといったデザイナーや現代のデザイナーとの協働も紹介されています。
ツイード生地の試作、素材変種比較の展示、透過性素材への刺繍の挑戦、3D刺繍装飾など実験的表現にも焦点が当てられており、ルサージュが伝統だけでなく革新へ歩みを進めていることが伝わってきます。
最後に

来場者に「技術と手の豊かさを再認識させる」作用をもたらします。たとえファッションや工芸に詳しくなかったとしても、会場を巡るうちに「この素材はどう作られたのか?」「この技術にはどんな時間が流れているのか?」と、好奇心が次々に連鎖していく体験ができました。
視界の中に点在する素材サンプルや道具たちが、目に見えない“手仕事の思考”を語りかけてくるような感覚
。日仏をまたぐ工藝・現代作家のコラボレーション作品において、技術の差異が対話を引き起こす瞬間の興奮。ルサージュに関する章で、刺繍・糸・図案が積んできた時間を“読む”ことの贅沢さ。
シャネルを支える職人たちの技、日本のアーティストや職人との共演、そしてルサージュの伝統と革新まで、幅広い協働のあり方を通して、創造性に裏打ちされた、クラフトマンシップの多様な姿を体感できる貴重な機会となっている本展覧会に足を運んでみてはいかがでしょうか。
【情報】
「la Galerie du 19M Tokyo」
会期:9月30日(火)〜 10月20日(月)
会場:東京シティビュー & 森アーツセンターギャラリー
入場:無料(予約制)
時間:通常:10:00〜18:30(入場は17:30まで)
金曜・土曜・祝日前日は10:00〜19:30(入場18:30まで)
ホームページ:https://macg.roppongihills.com/jp/exhibitions/la_Galerie_du_19M_Tokyo/