マティスの初期から晩年までの画業の変遷を一望
2020年、猛威を振るった新型コロナウイルス感染症により、美術館、博物館、ギャラリーなどの文化施設に、なかなか訪れられない日々が続きました。
しかし、新しい生活様式のもと事前予約をはじめ、検温や消毒など徹底した感染症対策を行い、運営に努める施設関係者の思いに応えられるように、一人でも多くの方が美術館を訪れるきっかけとなるべく、展覧会の模様を伝える【ミュージアム・レポート】をスタートしました。
そのような経緯から東京都美術館にて開催中の「マティス展」をご紹介したいと思います。
20世紀を代表するフランスの巨匠、アンリ・マティス(1869-1954年)。
強烈な色彩によって美術史に大きな影響を与えたフォーヴィスム(野獣派)の中心的な存在として活動し、自然をこよなく愛し「色彩の魔術師」と謳われ、緑あふれる世界を描き続けた画家です。
長い芸術家人生のなかで、多面的な造形活動をつづけ、絵画の革新者として84歳で亡くなるまでの生涯を、感覚に直接訴えかけるような鮮やかな色彩とかたちの探求に捧げました。
世界最大規模のマティス・コレクションを所蔵する、パリのポンピドゥー・センターの全面的な協力を得て開催する本展は、日本では約20年ぶりの大規模な回顧展です。
会場では初期から晩年まで各時代に残した作品を中心に、8つの章で余すことなくマティスの魅力を紹介しています。
純粋な色彩による絵画様式で新しい時代の到来を告げたフォーヴィスム(野獣派)をはじめ、幸福感に包まれた穏やかな画風の室内画、シャープな線が心地良い数々のデッサン、究極の“形”を探るための重要な取り組みである彫刻作品、単純な形と明快な色彩で即興性に溢れた切り紙絵など、日本初公開作品を含む約150点ものマティス作品を展示しています。
また、絵画に加えて、彫刻、版画の作品だけでなく、晩年最大の傑作と言われている南仏ヴァンスのロザリオ礼拝堂に関する資料まで、多角的にその仕事を紹介しながら、光と色に満ちた巨匠の造形的な冒険を辿ります。
技法や画風に捉われることなく絶えず変化させていきながら、柔らかな線や豊かな色遣いなど、感覚に訴えかけるような、マティスの表現が楽しめることでしょう。
初期の作品から順を追って鑑賞の歩みを進めていくと、同じ画家によるものとは思えないような作品も多く、中でもギュスターヴ・モローに師事した20代後半から、1905年のフォーヴィスム誕生前後の初期作品に至るまで、若きマティスの挑戦と試行錯誤の跡に魅了されました。
カミーユ・コローの影響が見て取れる《読書する女性》(1895年)、シニャックの「筆触分割」技法を用いりながら点描技法で描いている《豪奢、静寂、逸楽》(1904年)、マティスが同時代の画家からも積極的に学びながら、独自の画風を形成しようとする様子が伝わってきます。
マティスの初期から晩年までの画業の変遷を一望できる本展覧会では、色と線と光を追い求めたマティスの豊かで軽やかな芸術世界に触れることができます。
彼が残した作品は、後世の芸術家たちにも大きな影響を与え続けているだけでなく、現代に生きる私たちの心を解放し、充実した喜びで満たしてくれます。
ぜひマティスの作品を鑑賞しに足を運んでみてはいかがでしょうか。
取材・撮影・文:新麻記子
【情報】
「マティス展」
会期:2023年4月27日(金)~8月20日(日)
会場:東京都美術館 企画展示室
開室時間:9:00~17:30(金曜は9:00~20:00)*入場は閉室の30分前まで
休室日:月(ただし5月1日、7月17日、8月14日は開室)、7月18日(火)
日時指定予約制
展覧会ホームページ:https://matisse2023.exhibit.jp/