アイティーエル株式会社では、一人でも多くの方が美術館や博物館を訪れるきっかけとなるべく、2020年7月より 【ミュージアム・レポート】を開始いたしました。
困難な状況下においても美術館・博物館ではさまざまな企画や対策をおこなっていることから、全てのアートシー ンに対してこれからも変わらず応援していくべく、アイティーエルも継続して情報を発信していきたいと思います。
今回は、東京国立博物館内にある表慶館にて開催中の「カルティエと日本 半世紀のあゆみ 『結 MUSUBI』展 ― 美と芸 術をめぐる対話」をご紹介します。
本展覧会について
表慶館右翼側では、カルティエの貴重なアーカイブピースで構成される「カルティエ コレクション」、プライベートコレクションやアーカイブ文書などを通し、カルティエと日本文化の対話を浮かび上がらせます。
本展タイトルにある「結」は、日本神話に出てくる「産霊(ムスヒ・ムスビ)」という言葉をルーツとし、「結びつくことによって神霊の力が生み出される」ことだと解釈されています。
また、カルティエの歴史的な作品に見られる結び目のモチーフからもインスピレーションを得ており、20世紀初頭に美術愛好家であったルイ・カルティエが収集した日本の品々を思い起こさせます。
カルティエが日本に最初のブティックを開店してから50年を記念し、メゾンと日本を結ぶさまざまなストーリーを紹介する当展覧会では、カルティエと日本の長年にわたり育まれてきた絆を表し、カルティエと日本、そしてカルティエ現代美術財団と日本のアーティストという2つの絆を紐解いていきます。
カルティエと日本、芸術と美へのオマージュ
日本におけるメゾンの最初のブティックは1974年に東京・原宿のパレ・フランスにオープンしましたが、日本文化との対話はそれ以前から始まっており、その歴史は19世紀後半にまで遡ります。
表慶館右側では、1898年から父とともにメゾンの事業経営に参画した、3代目にあたるルイ・カルティエの時代から今日に至るまで、カルティエのクリエーションにおける日本からのインスピレーションの重要性が示されています。
教養と好奇心旺盛で、美術愛好家でありコレクターでもあったルイ・カルティエは、日本を訪れることは叶わずとも、日本のオブジェや書物を収集し、メゾンのデザイナーたちのイマジネーションを刺激したといわれています。
手鏡からインスピレーションを得た置き時計、印籠を着想源とする貴重なヴァニティケース、トンボをモチーフとするダイアモンドの羽を持つブローチなど、デザイナーによる自由な再解釈が加えられ、これまで多くのクリエーションが発表されています。
その他にも、20世紀前半のメゾンのクリエイションに顕著に登場した漆などの素材や職人技にも反映されており、中でもカルティエのデザイナーたちに大きなインスピレーションを与えたのは、波模様や鱗模様、吉祥模様などの型紙のモチーフだそうです。
また、カルティエのフォルムは、日本の美学に負うところが大きく、自然界をモチーフとした動植物は、色やフォルムを探求する機会を与え、カルティエの主なインスピレーションの源となっています。
1988年以降に日本で開催されてきた過去5回のカルティエの展覧会を振り返りながら、メゾンの歴史を「カルティエ コレクション」の貴重なアーカイブピースを含む170点を超えるクリエイションを展示。
右側を締めくくる最後の展示室では、メゾンが大切にしている価値観と、時代の精神性を捉えながら、人を感動させる美を求め、阿部千登勢/sacai、レアンドロ・エルリッヒ、川内倫子、田原桂一、日比野克彦、ホンマタカシ、村瀬恭子などの建築家、デザイナー、現代アーティストとのクリエイティビティとの絶え間ないその対話を通じて、生き生きとした日本の創造性に触れながら、カルティエの軌跡を紹介しています。
本展覧会は、そんなカルティエと日本が共有してきた半世紀の歴史にオマージュを捧げています。
カルティエ現代美術財団と日本人アーティスト
そして、企画展、ライブパフォーマンス、講演会といったプログラムを通して、あらゆる分野の現代美術を世界に広めることをミッションとする民間文化機関であるカルティエ現代美術財団は、パイオニアとして、多くの日本人アーティストをヨーロッパの人々にいち早く紹介してきました。
表慶館左翼側では、絵画、写真、建築、デザイン、あるいは映像など、さまざまなジャンルのクリエイションを結びつけるカルティエ財団の才覚を、120点を超える財団のコレクション、本展のためにアーティストやギャラリーから借用してきた作品を通して、万華鏡のようなビジョンで表現しています。
カルティエ財団は無数の交流において、現在も創造的な対話を続けながら、真の“コミュニティ”を築きあげ、ここでは日本のアートシーンを代表する16人の国内外アーティストの作品を通して展開されます。
それらは、松井えり菜、村上隆、横尾忠則による絵画から、荒木経惟、川内倫子、森山大道による写真、束芋、宮島達男によるインスタレーション、さらに北野武、杉本博司、中川幸夫や三宅一生といった巨匠の作品から、表現ジャンルはもちろん、年齢や性別を超えた作品をご覧になることができます。
ぜひ会場では想像力溢れる同窓的な芸術性との出会いを体験してみてください。
歌川広重にオマージュを捧げた澁谷翔によるインスタレーション
単一の展覧会で初めて一堂に会する、メゾンカルティエとカルティエ現代美術財団の並行する2つの歴史は、建物の中心に展示される澁谷翔によるインスタレーションで結ばれます。
カルティエ ジャパン50周年をを記念するためにカルティエから制作を依頼された澁谷翔は、36日にわたり日本全国を旅し絵画50点の連作を制作。歌川広重と『東海道五十三次之内』(1832年)にオマージュを捧げることは彼の夢でもありました。
浮世絵の巨匠の先例に倣い日本橋から旅を始め、47都道府県すべてを訪れ、毎日地方日刊紙の1面に空を描きました。沖縄から九州、本州各地を経由して北海道まで、青い空から燃えるような夜明けまで、詩的な地図は、日刊紙のリズムに併せて、過ぎゆく時代のビジョンを映し出し、形作られてました。
カルティエと日本のつながりの過去、現在、未来を融合することを企画する本展と同様に、澁谷翔による《日本五十空景》は、こうしたつながりの連続性を示すものであり、絶えず進化させ刷新し続けるカルティエの歴史を象徴するものです。
最後に
前回、国立新美術館にて開催された『カルティエ、時の結晶』では、純粋なラインやフォルム、宝石の美にオマージュを捧げる、カルティエスタイルの現代性にスポットを当てていました。
本展では、カルティエと日本文化の対話を浮かび上がらせながら、カルティエと日本が共有してきた半世紀の歴史にオマージュを捧げ、メゾンと日本を結ぶさまざまなストーリーを紹介しています。
ぜひ、ジュエリーやアートのクリエイティブから、カルティエの時代性や独創性からなる確固たるメゾンの精神性に触れてみてはいかがでしょうか?
取材・撮影・文:新麻記子
展覧会情報
カルティエと日本 半世紀のあゆみ 『結 MUSUBI』展 ― 美と芸術をめぐる対話
会期:2024年6月12日〜7月28日
会場:東京国立博物館 表慶館
住所:東京都台東区上野公園13-9
電話番号:050-5541-8600(ハローダイヤル )
開館時間:9:30〜17:00(金土〜19:00) ※入館は閉館の30分前まで
休館日:月(7月15日は開館)、7月16日
料金:一般1,500円、大学生1,200円、高校生以下無料
展覧会ホームページ:https://www.tnm.jp/modules/r_event/index.php?controller=dtl&cid=5&id=11080