【WHAT MUSEUM】感覚する構造 – 法隆寺から宇宙まで –

展示風景

アイティーエル株式会社では、一人でも多くの方が美術館や博物館を訪れるきっかけとなるべく、2020年7月より【ミュージアム・レポート】を開始いたしました。

困難な状況下においても美術館・博物館ではさまざまな企画や対策をおこなっていることから、全てのアートシーンに対してこれからも変わらず応援していくべく、アイティーエルも継続して情報を発信していきたいと思います。

今回は、WHAT MUSEUMにて開催中のWHAT MUSEUM史上過去最大の建築展「感覚する構造 –法隆寺から宇宙まで –」をご紹介します。

本展覧会について

展示風景

本展覧会は、現存する世界最古の木造建築「法隆寺五重塔」から、現在開発中の月面構造物まで、建築の骨組みを創造してきた「構造デザイン」に焦点を当て、前期展から作品を大幅に入れ替えスケールアップし、100点以上の名建築の構造模型を展示するWHAT MUSEUM過去最大の建築展です。

日本には世界に誇る建築家が数多く存在しますが、建築家の仕事を支える構造家の存在はあまり知られていません。重力や風力といった力の流れや素材と真摯に向き合い、その時代や社会とともに創造してきたのが建築の構造デザインです。

会場では、WHAT MUSEUM1階・2階全体で、4つのテーマ(「1.伝統建築と木造の未来」「2.次世代を担う構造家たち」「3.構造デザインの展開」「4.宇宙空間へ」)で構成され、専門性の高い構造デザインの世界を、「骨組み」の模型を見たり、手に取って模型に触れたり、その仕組みを分かりやすく紹介してくれています。

1.伝統建築と木造の未来

「法隆寺五重塔模型 1/10」所蔵:本多哲弘 / 模型製作:田村長治郎  内部を覗き込む

この章では、伝統的な日本の木造建築から、最新の現代木造建築までを俯瞰し、木造の特質と可能性を提示し ます。展示室では、法隆寺五重塔や松本城などの歴史的な木造建築物の模型や近代の木構造、建築家と構造 家の協働による現代の木造建築までの構造模型を展示します。

例えば、地震国日本にありながら約1300年も創建時の姿を現在に留めている「法隆寺五重塔模型 1/10」に注目し てみると、「積み上げ構造」といわれる建築様式で建てられています。建物の中を覗き込んでみると 、塔の真ん中 には1本の柱(心柱)がありますが、これは各層とは切り離されています。 その為、地震の際は、心柱と各層が異なる動きをすることで、揺れを軽減する効果があります。

「旧峯山海軍航空基地格納庫」模型所蔵:東京大学生産技術研究所 腰原幹雄研究室

その他にも、構造技術史としての価値が高く、戦時中の木造建築である「旧峯山海軍航空基地格納庫」は、「トラス構造」といわれる構造が使用されています。節点が自由に回転するピン接合により、部材が三角形を構成しており、その三角形の集合体で建築物を造っています。通常は鉄骨でつくられる30mもの大スパンを、戦時下の資材不足のため、細かい木材とボルトなどの金物を用いて、大空間を実現させたことが大きな特徴です。

先述の法隆寺が建設された奈良時代に比べると、戦時中や近現代は潤沢に木材などの資材が得られないことから、その建物の目的や用途に合わせながらも、耐震などの安全性をしっかり確保しつつ、細い木材を組み合わせて強度を持たせたりして、さまざまな構造を生み出していったことがわかりました。

2.次世代を担う構造家たち

「輪島塗工房復旧プロジェクト」 構造設計:木下洋介構造計画 / 設計協力:ミナモト建築工房、弥田俊男 / 模型所蔵:木下洋介構造計画

建築家とコラボレーションし、構造デザインを創造する構造家の存在は、世界をリードする日本現代建築の独自 性の源泉です。この章では、30名以上の構造家のインタビュー映像を通して構造家の思想と哲学に迫るとともに、注目すべき若手構造家の作品から今後の構造デザインの展開を示します。

ここで特に注目してほしいのは、2024年1月1日に石川県能登を襲った大震災により、被災してしまった能登輪島塗の工房を、復旧プロジェクトとして木下洋介氏が構造の技術を用いて、建て起こしました。そのあとに、原型よりも強い形で基礎の補強や耐震補強を行い、安全性を確保しました。

このように新しいものを生み出すだけでなく、エンジニアリングの力により、人々の想いに寄り添いながら建物を安全に蘇らせることも、構造家の仕事であり、使命なのだと感じました。

3.構造デザインの展開

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この章では、構造デザインで得た幾何学の知見を生かした、ファッションや地図図法など異なる領域との横断的な取り組みが展示されており、空間全体から構造デザインを体感できます。

例えば、THE NORTH FACE(ザ・ノース・フェイス)の球形ドームテント「Geodome4」は、“二十世紀のレオナルド・ダ・ヴィンチ”の異名をとる偉大な発明家リチャード・バックミンスター・フラーが生み出した、“最少の材料で最大の強度をもたらす”と言われるジオデシック構造と接触せずに安定するテンセグリティ構造を取り入れたものです。

「Geodome4」は、この「構造デザインの展開」の展示室の出展者である鳴川肇氏が開発に協力され、フラーのドームテント(2METER DOME)の廉価版(ファミリー版)として商品化されたものです。

4.宇宙空間へ

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この章では、地球上での構造デザインを宇宙空間へ展開する取り組みを紹介します。

会場では、佐藤淳らとJAXA(宇宙航空研究開発機構)が開発している、人が月に滞在するための「月面構造物」 の原寸大模型や、紙、アルミ、プラスチックなどで作った模型も展示されており、開発者たちの試行錯誤を繰り返 し、現在に至るまでの苦労の様子が垣間見えます。

「月面構造物」は月での長期滞在を想定し、実現させるには建築物を軽量かつ小型化し、スムーズに展開するこ とが求められているので、中には凸凹のある面で裏返りが生じる現象であり、パッチン留めの動きに見られる「飛 び移り現象」が活用されているものもありました。

最後に

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会場では、木造建築から月の居住空間まで、貴重な構造模型100点が集結し、構造模型に触れながら建築の構 造を汲み取ることで、自らが住む世界に働く力の流れと自身の感性との結びつきを捉え、構造デザインという創 造行為の可能性とその哲学を体感することができます。

“構造”を起点に章を追っていくと、出発点の建物などにとどまらず、日用品などのデザインへと広がり、今後宇宙 だけでなくさまざまな創造の可能性が、出てくるかもしないと思うと胸が高鳴りました。

建築に関わる方から親子連れまで、模型を通して構造デザインの世界をわかりやすく紹介するだけでなく、会期 中には展覧会に関連した書籍の出版や、トークイベント、パフォーマンスイベント、ワークショップなども予定され ているそうなので、会場を訪れる際は詳細をチェックして足を運んでみてくださいね。

【情報】
展覧会名:感覚する構造 – 法隆寺から宇宙まで –
会期:2024年4月26日(金)~2024年8月25日(日)
会場:WHAT MUSEUM 1階・2階
〒140-0002 東京都品川区東品川 2-6-10 寺田倉庫G号)
開館時間:火〜日 11時〜18時(最終入場 17時)
休館日:月曜(祝日の場合、翌火曜休館)
入場料:一般 1,500円、大学生/専門学生 800円、高校生以下 無料
※チケットはオンラインにて事前購入可能 ※本展会期中に何度でも入場できるパスポートを販売
展覧会パスポート 2,500円(本展と同時開催中の展覧会とセットで鑑賞可能)
※当ミュージアムの「建築倉庫」では、建築家や設計事務所からお預かりした600点以上の建築模型を保管して おり、その一部を公開しています
料金:建築倉庫入場料 700円、セットチケット(本展入場料+建築倉庫入場料)2,000円
HP:https://what.warehouseofart.org/exhibitions/sense-of-structure_second-term/