
アイティーエル株式会社では、一人でも多くの方が美術館や博物館を訪れるきっかけとなるべく、2020年7月より【ミュージアム・レポート】を開始いたしました。
困難な状況下においても美術館・博物館ではさまざまな企画や対策をおこなっていることから、全てのアートシーンに対してこれからも変わらず応援していくべく、アイティーエルも継続して情報を発信していきたいと思います。
今回は国立新美術館にて開催中の『リビング・モダニティ 住まいの実験 1920s-1970s』(会期:2025年3月19日(水) ~ 2025年6月30日(月))をご紹介します。
本展覧会について

国立新美術館で開催中の「リビング・モダニティ 住まいの実験 1920s-1970s」は、20世紀における住宅の革新的な試みを紹介する展覧会です。
1920年代から1970年代にかけて、ル・コルビュジエやミース・ファン・デル・ローエなどの著名な建築家たちが設計した14邸の住宅を中心に、写真、映像、図面、模型、家具、食器、テキスタイルなど、多彩な資料を通じて、多角的に住まいの変遷とその背景に迫ります。
会場では、20世紀にはじまった住宅をめぐる革新的な試みである、衛生、素材、窓、キッチン、調度、メディア、ランドスケープという、モダン・ハウスを特徴づける7つの観点から再考します。
どのようにして各建築家たちが機能性と快適性を追求し、その実験的なヴィジョンと革新的なアイデアが、時代や地域、気候風土、社会とも密接につながり、家族の属性や住まい手の個性をも色濃く反映しながら、やがて日常へと波及して人々の暮らしを快適な住まいとして大きく変えていった様子を紹介します。
本展覧会の見どころ
戸建ての個人住宅 私たちの暮らしにかかわる展覧会

今日の私たちにとって、居間やキッチンを間取りの中心に据え、快適な衛生設備と家族の個室を備えた戸建て住宅は、普遍的な住まいに見えるかもしれません。しかし、歴史的に見るとそれは、戦後に核家族が主流となるにつれて定着した比較的新しい住まいの形式です。20世紀に普及した戸建て住宅は、住み手の理想を色濃く反映した、多様な暮らしを生み出してきました。こうした住まいの革新が国際的に広がっていった1920年代から70年代までに着目する本展覧会では、14邸の住宅を中心に私たちの暮らしの礎を見直します。
有名建築家たちの住まいに対する熱いまなざし

本展覧会で取り上げる住宅を設計したのは、大規模建築も数多く手がけた著名な建築家たちです。そうした時代をリードする建築家たちの創作の根底には、日常的な暮らしへの大きな関心があったのです。今回ご紹介する住宅の多くは、建築家たちの自邸です。それらは新たな建築観を示すかっこうの実験の場でした。細部まで工夫を凝らしたこだわりの自邸からは、機能や快適さの探究はもちろん、住まうことの楽しさや喜びへの真摯なまなざしも垣間見ることができます。
国内外から集結するさまざまな作品とイメージ

本展覧会には、国内はもとより、アメリカやヨーロッパ、ブラジルなどから貴重な作品が集結します。図面、模型、外観や内観の写真に加え、ミース・ファン・デル・ローエやアルヴァ・アアルトなど、建築家自らが描いたドローイング、建築家が住まいとともにデザインした家具や生活道具、映像など、バラエティに富んだ内容をご紹介します。これらの展示アイテムは、どのようにして各建築家が日常生活と空間をデザインに組み込んだかを理解する手助けとなり、多様な作品とイメージを通じて住まいを多角的に見直します。
100年前に誕生したモダン・ハウス、今も使われている名作家具や照明器具

本展覧会で取り上げる住宅のデザイン、そして多くの建築家が住まいにあわせて手がけた机、椅子、照明器具は、今の私たちから見てもとても「モダン」です。家具や器具の多くは、今尚生産され、使い続けられています。日ごろ何気なく目にしている名作のルーツには、建築家やデザイナーたちの、機能と造形に対する時代を越えた普遍的な問いがあったといえるでしょう。
ミース・ファン・デル・ローエの未完のプロジェクト「ロー・ハウス」を原寸大で実現

1階の企画展示室1Eでの展示に続き、2階の天井高8メートルの企画展示室2Eでは、ミース・ファン・デル・ローエの「ロー・ハウス」プロジェクトを原寸大で実現します。また2階の会場では、同時代にデザインされて、現在も使われている名作家具を体感できるコーナーを設けています。
まとめ

1920年代から1970年代にかけての時代は、戦争や技術革新、都市化の進展があり、住宅に対する考え方が大きく変化しました。特に、モダン・ハウスは工業化が進んだ時代において、効率的で機能的な住まいを提供することを目指して設計されました。このように住宅のデザインは時代の価値観を反映しています。
例えば、20世紀初頭の近代主義建築は、自由な空間や開放的なレイアウトを重視し、個々の生活の多様性に対応できるようなデザインが求められました。そのため、家族構成や生活スタイルが多様化するなかで、住まいの「柔軟性」や「適応性」が重要視されるようになったことが伺えます。
1920年代から70年代にかけて建てられたそれらのモダン・ハウスは、それぞれの住宅に固有の文脈と切り離せない関係があり、近代において浮上してきた普遍的な課題を解決するものでもありました。
最後に

「リビング・モダニティ 住まいの実験 1920s-1970s」の展覧会は、単なる建築の美しさだけでなく、その背後にある哲学や社会的背景、技術革新の重要性を深く掘り下げています。モダン・ハウスを巡る旅を通じて、現代の住まいにおける革新のルーツを理解することができ、日常生活における住まいの役割を再認識する機会となるでしょう。
また、本展覧会を通じて現代の建築家たちがどのようにして過去のデザインを受け継ぎ、発展させているのかを考えることができます。建築は時代とともに進化し、その基本的な考え方は、変わらず人々の生活を豊かにするためのものであることを改めて感じさせてくれます。
現代の住宅は、環境への配慮やスマートテクノロジーの導入など、さらなる革新を求められていると言えるでしょう。今後も住宅デザインは、社会のニーズや技術革新に応じて進化し、そのような未来に向けた建築の発展についても考えさせられる貴重な経験となることでしょう。
【情報】
リビング・モダニティ 住まいの実験 1920s-1970s
会期:2025年3月19日(水)~6月30日(月)
会場: 国立新美術館企画展示室1E/2E(東京都港区六本木7-22-2)
開館時間: 10:00~18:00(金・土曜日は20:00まで、入場は閉館の30分前まで)
休館日: 火曜日(4月29日と5月6日は開館、5月7日は休館)
ホームページ:https://living-modernity.jp/