【千葉市美術館】開館30周年記念 江戸の名プロデューサー 蔦屋重三郎と浮世絵のキセキ


アイティーエル株式会社では、一人でも多くの方が美術館や博物館を訪れるきっかけとなるべく、2020年7月より【ミュージアム・レポート】を開始いたしました。

困難な状況下においても美術館・博物館ではさまざまな企画や対策をおこなっていることから、全てのアートシーンに対してこれからも変わらず応援していくべく、アイティーエルも継続して情報を発信していきたいと思います。

今回は、千葉市美術館にて開催中の「開館30周年記念 江戸の名プロデューサー 蔦屋重三郎と浮世絵のキセキ」展をご紹介します。

本展覧会について


2025年、千葉市美術館は開館30周年を迎え、その節目を記念して開催された本展。

プロデューサーとして江戸の「浮世絵の黄金期」を支えた蔦屋重三郎(通称:蔦重)の足跡を追い、その比類なき功績を浮世絵史全体を通して再構成する意欲的な企画です。

蔦重は1750年ごろ吉原で生まれ、安永〜寛政期(約1770〜1800)の黄金期に活躍。喜多川歌麿、東洲斎写楽などを世に送り出し、斬新な出版戦略で世間を席巻した新興版元の旗手でした。

本展は、浮世絵の起源から幕末、そして洋風絵への展開まで、7章に分かれて蔦重を軸に展開されています。

1. 初期浮世絵と錦絵誕生

菱川師宣による枕絵《衝立のかげ》などの風俗絵から始まり、春信の多色摺版画=錦絵を経て、浮世絵基盤の成立を描いています。菱川師宣の枕絵《衝立のかげ》は、初期浮世絵の代表作として、本展冒頭に展示されています。浮世絵が“現世を楽しむ”文化として成熟していく雰囲気を伝えてくれますよ。

2. 蔦屋登場と新人絵師の発掘

老舗版元が勢ぞろいする中、蔦重は彗星のごとく現れ、新人の歌麿や写楽を積極的に世に送り出した経緯が明快に紹介されます。

3. 歌麿による美人画の確立

歌麿の美人画数点は、千葉市美術館所蔵の状態の良い作品などが鑑賞でき、その優美さに息を飲みました 。歌麿《朝顔を持つ美人図》《当時三美人》は、極上の美人画が並び、その繊細な色彩・線描はまさに「黄金期」の華。状態の良さが特に印象的です。

4. 写楽と役者絵の革新

写楽の異様な肖像表現が、蔦重の後押しで世に出た、象徴的作品である、写楽の代表作「三代目大谷鬼次の江戸兵衛」も圧巻です。写楽の画風は、役者の特徴を極端に誇張したことから、華々しいデビューの一方で、実際には人気を得られませんでしたが、観る者の感情に訴えかけるような迫力を生み出しています。本展のキービジュアルであり、世界でも数点しか現存しない貴重な一点です。

5. 北斎・英泉・広重が拓く風景と戯画

蔦重没後、それぞれの浮世絵師が風景画(北斎・広重)や美人画(英泉)を展開。本章では“黄金期の余波”から新版画への流れを俯瞰。春信の淡い色彩、北斎と広重の風景画、英泉の美人画を通して江戸期後半の絵画潮流の変遷が明解です。

6. 世界への広がりと近代への布石

錦絵の技術がヨーロッパへ逆輸出され世界のUkiyo‑eに結実していく過程を解説 。

7. 千葉市美術館の収蔵コレクション紹介

30年に渡る展示実績に裏打ちされた珠玉の収蔵品約160点で構成されており、蔦重展はほぼ全てが館蔵作品による構成 。

最後に

会場では、時代を追って進む構成で、作品の質・バランスも良く、約160点が密度高く並んでいます。

蔦屋重三郎を単なる出版人ではなく、文化制度を創り出した“プロデューサー”として、主軸に据えた本展覧会は、従来の浮世絵展とは一線を画しており、単なる名品展示に留まらず、浮世絵の歴史に触れながら、江戸文化のダイナミズムを立体的に読み解く、一貫した“物語”として提示されています。

美術史・出版史双方に関心がある方にとって実に見応えがあり、また「黄金期」作品を一堂に観たいという浮世絵ファンにとっても圧巻のラインナップで、近年浮世絵や美術への関心が高まる中で、収蔵披露の場となる豊かな内容でした。

また、本展覧会は30周年記念展としても千葉市美術館の実力を十二分に感じさせ、「千葉市美術館コレクションの底力」を体感できる本展覧会に足を運んでみてはいかがでしょうか?

【情報】

開館30周年記念 江戸の名プロデューサー 蔦屋重三郎と浮世絵のキセキ
会期:2025年5月30日〜7月21日
会場:千葉市美術館
住所:千葉市中央区中央3-10-8
電話番号:043-221-2311
開館時間:10:00〜18:00(金・土曜日〜20:00) ※入場は閉館の30分前まで 
休館日:月(7月21日は開室)
料金:一般 1500円 / 大学生 1000円 / 高校生以下無料
ホームページ:https://www.ccma-net.jp/exhibitions/