
アイティーエル株式会社では、一人でも多くの方が美術館や博物館を訪れるきっかけとなるべく、2020年7月より【ミュージアム・レポート】を開始いたしました。
今回は、レオナルド・ダ・ヴィンチの《女性の肖像》、通称《美しきフェロニエール》が初来日をはたした、国立新美術館にて開催中の「ルーヴル美術館展 ルネサンス」をご紹介します。
本展覧会について

本展覧会は、15世紀~16世紀にかけてヨーロッパ各地で花開いたルネサンス美術を、ルーヴル美術館のコレクションから選ばれた56点の作品を通して、この豊かで複雑な芸術動向の本質をなす、いくつかの特徴に光を当てます。
同館での「ルーヴル美術館展」は、「ルーヴル美術館展 愛を描く」(2023、国立新美術館ほか)以来、3年ぶりとなりとなり、ルーヴル美術館が所蔵するレオナルド・ダ・ヴィンチ作品の来日も、1974年の《モナ・リザ》来日以来52年ぶりとなり、またとない貴重な機会となります。
会場では、作品を年代順に並べる構成ではなく、ルネサンスを象徴する人であるレオナルド・ダ・ヴィンチから導き出した4つのテーマ —旅、技法の革新と洗練、古代へのまなざし、肖像芸術の隆盛— に基づき、絵画から彫刻、版画、素描、工芸まで、多彩な作品を紹介します。
展示構成と章の紹介
第1章「旅」——ルネサンスは、人が動くことで生まれた

15世紀~16世紀にかけてのルネサンス期は、ヨーロッパの人々が「旅」を通じて、既知のものとは異なる世界を発見していった時代です。
商業、交易、外交、教育、戦争、宗教、宮廷からの招待など、さまざまな動機により人々はヨーロッパを移動し、人と物の活発な往来や流通によって国や都市に経済の発展をもたらし、ルネサンス文化を大きく開花させる動力となりました。
私たちは「ルネサンス」を理解する際に、「イタリア・ルネサンス」をはじめ、「北方ルネサンス」や「フランス・ルネサンス」と、国別に整理して理解しようとしてしまいがちですが、当時の芸術家、作品、技術は、上記の理由から現代の国境のように綺麗に収まっていたわけではありません。
例えば、北ヨーロッパの芸術家たちはアルプスを越えてイタリアへ向かい、古代ローマの遺跡や彫刻を目にし、そこで人体表現や遠近法を学びます。その一方、イタリアの芸術家たちは北方で発達した油彩技法や、細部まで描き込む写実的な表現から刺激を受けました。
つまり「ルネサンス美術」とは、ある一つの土地で完成した様式が各地へ輸出されたものではなく、異なる文化同士が出会い、互いに真似や改良し、新しい表現へと変化していった結果なのだと、第1章の数々の作品から伺えることでしょう。
第2章「技法の革新と洗練」——名画の裏側には「技術」がある

会場では、作品の「美しさ」や「意味」に目が向きがちですが、ルネサンス美術を見るうえで忘れてはいけないのが、芸術と技術がとても近しい関係にあり、表裏一体だったことが伺えることです。
絵画を描くためには顔料が必要であり、版画には木版や銅板を彫る技術がいります。彫刻には石や金属についての知識が必要となり、陶器には土と釉薬、そして焼成温度についての経験が欠かせません。
作家はただの芸術家ではなく、高度な職人だったことが分かります。本展覧会では、その事実を絵画だけではなく、版画、陶器、エマイユ、ブロンズなどを通して見ることができるでしょう。
第3章「古代へのまなざし」——過去を見ることで、新しいものをつくる

ルネサンスは人間の主体性がより重視された古代ギリシア・ローマの文化に再び価値を見いだしました。
芸術家たちは、そのまま古代美術をコピーするのではなく、古代を敬いながら古代に戻るわけでもなく、過去を学びながらも自分たちの時代に合わせて、作品を作り替えている姿勢が感じられることでしょう。
この章で特に印象深い作品のひとつが、ルカス・クラーナハ(父)の《三美神》です。描かれているのは、ギリシア・ローマ神話に由来する三人の女神たちですが、彼女たちをよく見ると純粋に古代世界を再現しているわけではなく、16世紀当時の帽子やネックレスなどのファッションが入り込み、古代の女神と同時代の女性のイメージが奇妙に重なっています。
第4章「肖像芸術の隆盛」——「その人らしさ」を描くという発明

ここまでの3章で紹介されてきた「旅」「技術」「古代」というテーマが、最後には「人間」という一点へ集まり、最終章である「肖像芸術の隆盛」へと進んでいきます。
外見の特徴から内面の性格まで固有の特性を備えた、人間の個性を絵画や彫刻として永遠に留める肖像は、当初は王侯貴族や高位聖職者など支配階級のための芸術ジャンルでしたが、時代が下るにつれて、知識人や富裕市民など中産階級の人々にも広まっていきました。
この章で特に抑えておくべき作品で、本展最大の見どころでもある作品が、人物の外見の特徴を捉えるだけでなく、その内面に潜む複雑な感情を描き出すことに、挑戦しつづけた芸術家のレオナルド・ダ・ヴィンチによる《女性の肖像》、通称《美しきフェロニエール》です。
女性の姿勢に注目してみると、女性の頭と体が同じ方向ではなく、ごくわずかに反対を向くように描いていており、女性が今まさにこちらを向きかけているかのような動きの感覚が強まり、生命感がより高められたと考えられます。
また、女性の右目の瞳の位置をほんの少しずらしたことも判明しました。その結果、女性の視線のゆくえが曖昧になったことにより、私たちを見返しているようでもあり、どんな感情を抱いているのか察しがたく感じられることでしょう。
このようにレオナルドは、女性の頭、体、視線の向きを入念に操作することで、絶えず変化する人間の複雑な心の動きを描き留め、その似姿に命を吹き込もうとしたのかもしれません。
最後に

本展覧会を見終えて印象に残るのは、ルネサンスが決して「レオナルド、ミケランジェロ、ラファエロという天才が現れた時代」というだけではありません。
人が旅をし、作品が運ばれ、版画が複製される。古代の本が翻訳され、異なる国の技法が混ざる。陶工が彫刻の技術を応用し、芸術家が別の芸術家の構図を学ぶ。そうした無数の交流のなかから、新しい表現が生み出されていったことが作品から理解できます。
その意味で、ルネサンスとは「天才の時代」である以上に、「つながりの時代」であり、そんなルネサンス美術の真髄に触れる貴重な機会となることでしょう。
【情報】
ルーヴル美術館展 ルネサンス
会期:2026年9月 9日(水) ~ 2026年12月13日(日)
会場:国立新美術館 企画展示室1E
休館日:毎週火曜日
※ただし11月3日(火・祝)、12月8日(火)は開館、11月4日(水)は休館
開館時間:10:00~18:00
※毎週金・土曜日は20:00まで
※入場は閉館の30分前まで
公式ウェブサイト:https://www.ntv.co.jp/louvre2026/