【渋谷区立松濤美術館】「真珠─海からの贈りもの」

繊細華麗な真珠装身具から真珠の歴史や文化を紐解く

新型コロナウイルス感染症により美術館・博物館・ギャラリーなどに気軽に足を運べなくなってしまいました。

そんな状況下に負けじと感染症対策をきちんと行いながら、運営に努める施設関係者への思いに応えられるように、一人でも多くの方が美術館を訪れるきっかけになること考え、美術館・博物館・ギャラリーの様子を伝える【ミュージアム・レポート】をスタートすることとなりました。

そのような経緯から、今回は渋谷区立松濤美術館で開催中の「真珠─海からの贈りもの」をご紹介します。

地下1階展示室より

現在、渋谷区立松濤美術館で開催中の「真珠─海からの贈りもの」。

本展覧会では、古代から近代まで英国をはじめとするヨーロッパ各国および日本で製作された真珠の装身具を展示しています。

世界最古の宝石のひとつである真珠は、冠婚葬祭で用いられるだけでなく、最近はシチュエーションに関係なく、気軽に身に着けやすいジュエリーとして、女性に愛されているといえるでしょう。

古代オリエント世界では「人魚の涙」「月の雫」とも呼ばれ、古くから重宝されてきた経緯があります。

カットや研磨など手を加える前から輝きを放ち、世界中の人びとを魅了してきた真珠は、古来より富や権力の象徴であり、王侯貴族はこぞって身につけました。

《パール&ホワイトエナメルペンダント「クロス」》ロバート・フィリップス 19世紀 中期 イギリス ミキモト真珠島 真珠博物館

《パール、エナメル、サファイア&ダイヤモンドネックレス》 カルロ・ジュリアーノ 1880年頃 イギリス 穐葉アンティークジュウリー美術館

地下1階展示室より

第一会場では古代、ルネッサンスからロココなど、過去の優れた芸術様式を巧みにミックスした19世紀、アール・ヌーヴォーやアール・デコに昇華された19世紀末から20世紀、それぞれの時代とともに移り変わる美意識が反映された真珠の装身具が展示されています。

その中でも一際目を引いたのは、芥子の実ほどの非常に小さな真珠を使用し、白い馬の毛やテグスなどで組み上げて作られた、繊細で美しく立体的な表情を持つシードパールのジュエリーです。

その他にも、個人的な感情や思い出を表現したセンチメンタル・ジュエリーのなかでも、愛する人との別れを惜しむジュエリーはモーニングジュエリーと呼ばれ、故人の遺髪を編み込むなどの凝った細工の脇には、涙を象徴する真珠が添えられています。

鉱石や宝石、エナメル、ゴールド、どんな組み合わせでも、自然が生み出した真珠がジュエリーの美しさを引き立たせています。

《シードパールティアラ》 1862年 イギリス 穐葉アンティークジュウリー美術館

《ハーフパール、ヘアー&ゴールドペンダント》1813年 イギリス 穐葉アンティークジュウリー美術館

地下1階展示室より

第二会場では日本の真珠の歴史を紐解きながら、御木本幸吉によって取り組まれた真珠の養殖、その真珠によるモダンな装身具を紹介しています。

その真珠が辿ってきた歴史は面白く、日本国内でも真珠貝は採れていましたが、江戸時代には木村藩(現在では長崎県大村市)の藩主のみ食用として許されていました。また、採取された真珠は薬の原料として使われていたものの、装身具として加工されることはほとんどなく、この点において世界的にみても特殊な例として指摘されています。

世界的に見ても真珠の歴史を変えた、御木本幸吉による真珠養殖の成功には、目を見張るものがありました。

真珠貝の貝殻と外套膜の間に仏像の形をした鉛板を挿入させた「仏像真珠」にあるように、近代以前の中国では貝の体内で真珠が生成されていくプロセスが明らかにされていましたが、この原理を応用して真珠養殖を試み、真珠の装身具を製作するに至った御木本幸吉の洞察力に感服しました。

そして、養殖真珠が用いられた日本の装身具は、和と洋を組み合わせた美しいデザインで、第一会場で鑑賞した西洋のジュエリーとは、また違った美意識を楽しめることでしょう。

2階展示室より

《ネックレス「菊花」》御木本真珠店 1910(明治43)年以前 ミキモト真珠島 真珠博物館

2階展示室より

今では気軽に身に着けやすいジュエリーとして愛されている真珠。その背景に隠された歴史からその魅力を一層実感できました。

時代とともに移り変わる美意識や人の想いが詰まった真珠のジュエリーに思いを馳せながら、会場を巡ってみはいかがでしょうか。

執筆・撮影:新麻記子

「真珠─海からの贈りもの」

会期:2020年6月2日(火)〜9月22日(火・祝)
会場:渋谷区立松濤美術館
住所:東京都渋谷区松濤2-14-14
TEL:03-3465-9421
開館時間:10:00〜18:00
※入館は閉館30分前まで
休館日:月曜日(8月10日(月)および9月21日(月)は開館)、8月11日(火)
入館料:一般 1,000円(800円)、大学生 800円(640円)、高校生・60歳以上 500円(400円)、 小中学生 100円(80円)
※( )内は団体10名以上および渋谷区民の入館料
※土日祝休日は小中学生無料
※毎週金曜日は渋谷区民無料
※障がい者および付添1名は無料
※真珠割引き:入館日当日に真珠(人造物可)を身に着けて来館すると、通常料金から2割引き(割引きの併用は不可)
※会期や開館時間、イベントなどの予定が変更となる場合あり(最新情報は公式サイトないしSNSを確認のこと)
HP:https://shoto-museum.jp/exhibitions/188pearls/

ライタープロフィール:新 麻記子(しんまきこ)

アート専門WEB媒体の運営・編集・ライターを経て、フリーランスに転身。
現在、アート・エンタメメディア『La vie pianissimo』と日本酒メディア&コミュニティ『酒小町』にて編集者をつとめ、その他寄稿WEB媒体ではアート・カルチャー系を中心にライターとして執筆活動中。
アート・カルチャーの架け橋になりたいというの想いからClassyAcademy代表の石井江奈と対話型鑑賞会【Classyアート鑑賞会】の企画・運営をおこなうナビゲーターのほか、ギャラリー&ダイニングバー『ワインワークス南青山』や他ギャラリーにてブッキングやイベントを企画するアートディレクターや、作品展示のPVやアーティストのMVを手掛ける映像ディレクターとしても活動しています。

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