【東京都庭園美術館】『生命の庭ー8人の現代作家が見つけた小宇宙』

人間と自然との関係性を問い直し、関わり方を今一度模索する

新型コロナウイルス感染症により美術館・博物館・ギャラリーなどに気軽に足を運べなくなってしまいました。

そんな状況下に負けじと感染症対策をきちんと行いながら、運営に努める施設関係者への思いに応えられるように、一人でも多くの方が美術館を訪れるきっかけになることを考え、美術館・博物館・ギャラリーの様子を伝える【ミュージアム・レポート】をスタートすることとなりました。

そのような経緯から、今回は東京都庭園美術館にて開催中の『生命の庭ー8人の現代作家が見つけた小宇宙』をご紹介します。

現在、自然に囲まれた東京都庭園美術館を舞台に、日本を代表する8人の現代作家たちの作品を通して、人間と自然との関係性を問い直す試みの展覧会が開催されています。

絵画、彫刻、映像、インスタレーションなど個性豊かな数々の展示作品は、私たちの意識の彼方にある世界の覆いをそっと外してみせてくれることでしょう。

大都会の中に佇む小さな箱庭のような美しい邸宅で、私たちにひそむ自然が甦る瞬間が到来するかもしれません。

佐々木愛《鏡の中の庭園》2020

小林正人《この星へ》2009

志村信裕《光の曝書(メンデルスゾーンの楽譜)》2020 (※メンデルスゾーンの楽譜は朝香宮が所有していたもの。)

アール・デコの重要文化財・旧朝香宮邸の本館では、大広間、大客室、金庫室、お風呂、寝室など、ありとあらゆる場所に作品が展示されています。

展示室毎に担当が割り振られているわけではなく、それぞれ作家が手がけた作品同士が隣接しているので、さりげないコラボレーションが楽しめたり、キャプションがないと通り過ぎてしまうような、なにげない場所に作品が展示されていたりと、「次はどんな作品がくるんだろ?」と期待に溢れる会場構成になっています。

例えば、加藤泉さんによる胎児のような人型の油彩画と淺井裕介さんによるマスキングテープの作品がともに展示されていたり、お風呂場の天井に宙を舞うように青木美歌さんによるガラス作品があったりと、本館の美しい空間を余すところなく利用した作品展示が楽しめます。

加藤泉《hawk2020、淺井裕介《マスキングプラント》

《光に始まる 光に還る-*》

会場を巡りながらさまざまな作品を鑑賞していると、自分自身の在り方だけでなく、人間そのものの在り方について、深く問われている感覚になりました。

私たち人間は、太古の昔にひとつの生命体として誕生して以来、刻々と変化する地球の過酷な環境に柔軟に適応することで進化を遂げ、高度な知性を獲得するようになりました。しかし、近年の仮想現実に囲まれた日々の暮らしにおいて、自分たちが自然の一部であることさえ忘れがちになっていますよね。

山や海フィールドワークする自身の実体験から自然の風景をモチーフにしている康夏奈さんの作品や、生花と造花を用いて自然と人工を対比させる「カセットプラント」の山口啓介さんの作品をご覧になりながら、改めて自分や自然に対して思いを巡らせてみてはいかがでしょうか。

階段 康夏奈《Beautiful Limit – 果てしなき混沌への冒険》2010

会場風景 山口啓介《香水塔と花箱》2020

現在、新型コロナウイルス感染症に悩まされ、自然との新たな関わり方が求められています。そこで、私たちの本能的な感覚を取り戻す手段として、改めてアートの役割が注目されています。

特定の正解や意味や目的に縛られないアートは、私たち人間も大きな生命の流れのなかにいることに気づかせてくれます。

ぜひ、会場を巡りながら自然との付き合い方を改めて考察することで、日々の生活におけるヒントを見つけてみてはいかがでしょうか。

会場風景 山口啓介の作品と新型コロナウイルス感染症の状況を記載している資料

 

 

青木美歌インスタレーション《光にはじまり光に還る》の一部より

取材・執筆・撮影:新 麻記子

【展覧会情報】
生命の庭 8人の現代作家が見つけた小宇宙
会期:2020年10月17日〜2021年1月12日
会場:東京都庭園美術館 本館・新館
住所:東京都港区白金台5-21-
電話番号:050-5541-8600
開館時間:10:00〜18:00 ※入館は閉館の30分前まで
休館日:毎月第2・第4水(12月9日、23日)、年末年始(12月28日〜1月4日)
HP:https://www.teien-art-museum.ne.jp/exhibition/201017-210112_GardenOfLife.html

ライタープロフィール:新 麻記子(しんまきこ)

アート専門WEB媒体の運営・編集・ライターを経て、フリーランスに転身。
現在、アート・エンタメメディア『La vie pianissimo』と日本酒メディア&コミュニティ『酒小町』にて編集者をつとめ、その他寄稿WEB媒体ではアート・カルチャー系を中心にライターとして執筆活動中。
アート・カルチャーの架け橋になりたいというの想いからClassyAcademy代表の石井江奈と対話型鑑賞会【Classyアート鑑賞会】の企画・運営をおこなうナビゲーターのほか、ギャラリー&ダイニングバー『ワインワークス南青山』や他ギャラリーにてブッキングやイベントを企画するアートディレクターや、作品展示のPVやアーティストのMVを手掛ける映像ディレクターとしても活動しています。

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