【東京藝術大学大学美術館】大吉原展

展示風景_喜多川歌麿《吉原の花》寛政5(1793)年頃ワズワース・アテネウム美術館蔵

アイティーエル株式会社では、一人でも多くの方が美術館や博物館を訪れるきっかけとなるべく、2020年7月より【ミュージアム・レポート】を開始いたしました。

困難な状況下においても美術館・博物館ではさまざまな企画や対策をおこなっていることから、全てのアートシーンに対してこれからも変わらず応援していくべく、アイティーエルも継続して情報を発信していきたいと思います。

今回は、東京藝術大学大学美術館にて開催中の『大吉原展』をご紹介します。

文化の社・上野に芸術を育む宝箱、東京藝術大学大学美術館

展示風景

美術・音楽・映像と、総合的に日本の芸術を全面的に支えてきた東京藝術大学大学美術館は、国宝・重要文化財23件を含む約30,000件の日本美術の作品や資料を所蔵し、美術教育のために集められた希少性の高い逸品や、教員や学生が残した美術学校ならではの作品がコレクションされています。

その一部を毎年1、2回開催される「藝大コレクション展」ではその所蔵品がそろって公開され、シンポジウムやギャラリー・トークなど、総合芸術大学・藝大の魅力を存分に満喫することができます。

また、特別展や企画展では古今東西さまざまなジャンルの展覧会を企画・開催しており、冬の時期には博士課程の学生による博士審査展や、学部生・修士学生による卒業ー修士卒業展(卒展)などもご覧になれる美術館です。

本展覧会について

展示風景_手前:高橋由一《花魁》[重要文化財] 明治5年(1872) 東京藝術大学

現在、東京藝術大学大学美術館にて開催中の江戸時代の吉原を再考する『大吉原展』をご紹介します。

約10 万平方メートルもの広大な敷地に約250 年もの長きに渡り続いた幕府公認の遊廓である江戸の吉原は、他の遊廓とは一線を画す、公界としての格式と伝統を備えた場所でした。

武士であっても刀を預けるしきたりを持ち、洗練された教養や鍛え抜かれた芸事で客をもてなし、3月にだけ桜を植える夜桜や即興芝居である俄(「俄狂言」の略)など、季節ごとに町をあげて催事を行いました。

常日頃から文化発信の中心地でもあり、贅沢に非日常が演出され仕掛けられた虚構の世界だったからこそ、多くの江戸庶民に親しまれ、地方から江戸に来た人たちが吉原見物に訪れました。

展示風景_手前:《吉原風俗蒔絵提童》江戸時代19世紀サントリー美術館

そうした吉原への期待と驚きは歌川国貞、喜多川歌麿、鳥文斎栄之などの浮世絵師たちによって描かれ、鶴屋喜右衛門、蔦屋重三郎、西村屋与八らの出版人、文化人たちが吉原を舞台に活躍しました。

江戸の吉原遊廓は現代では存在せず、今後も出現することはありませんし、決して存在してはなりません。

本展覧会では、今や失われた吉原遊廓における江戸の文化と芸術について、ワズワース・アテネウム美術館や大英博物館からの里帰り作品を含む国内外の名品の数々で、丁寧に検証し、その全貌に迫ります。

約250年にわたって続いた遊廓『吉原』

展示風景_2刻ずつ時間を刻みながら、遊女の日常がわかる作品展示

吉原の基盤産業は言うまでもなく「売買春」です。

遊廓開設当初の遊女の数は1000人以下でしたが、移転後に急増し、1855(安政2)年には3731人を数えたといわれています (小野武雄氏の著書『吉原と島原』より)。

遊女たちの身は遊女屋によって徹底的に管理され、遊廓自体も四方をお歯黒溝という大堀に囲まれていたため、足抜けして大門をくぐって逃げ出すことは叶いませんでした。

遊女が書いた日記には「腐ったご飯しか食べさせてもらえない」「瀕死になるほどの折檻を受けた」などの凄惨な様子が記されているほど、遊女の生活は劣悪を極めていました。

約230点の展示品から吉原の真の姿を迫る

展示風景_手前:《白地石畳将棋模様小袖》 江戸時代(17世紀)根津美術館 【展示期間:3/26-4/7】※4月7日までの展示

これまで吉原の様子や遊女たちを描いた浮世絵などは、浮世絵展として展示されたことはありますが、それを吉原というテーマのもとに、遊女の姿や着物、工芸品、吉原という町、そこで展開される年中行事、日々の暮らし、座敷のしつらいなどを含めて、一つの展覧会に集めたことは、今までありません。

会場では、「美術作品を通じて江戸時代の吉原を再考する機会」という位置づけ、決して吉原を美化するものではなく、約230点の展示品を通して、約250年続いた“幕府公認の遊廓”の真の姿を探っていくものです。

展示風景_手前:《結髪雛形 横兵庫》 昭和時代 ポーラ文化研究所

地下2階の第一会場では入門編として、吉原の文化、しきたり、生活などを、厳選した浮世絵作品や映像を交えてわかりやすく解説し、第二会場では風俗画や美人画を中心に、吉原約250 年の歴史をたどります。

3階の第三会場では展示室全体で吉原の五丁町を演出します。浮世絵を中心に工芸品や模型も交えてテーマごとに作品を展示し、吉原独自の年中行事をめぐりながら、遊女のファッション(鬘、着物)、芸者たちが使用していた三味線などから芸能活動などを知ることができます。

最後に

展示風景_地下3階展示室

本展覧会は、幕府公認の遊廓の真の姿であり、日本史の闇ともいえる「吉原」に真っ向から挑み、二度と繰り返してはいけない過ちから学んで、改めて女性の人権に厳しい目を向けて再考します。

幕府公認の遊廓である江戸の吉原に生きた遊女にせよ、令和の時代において性を生業としている方々にせよ、好きで性を売るのはごく一部で、大多数が金銭面や、過去に性暴力を受けたり、トラウマのある方々がほとんどだといいます。

最近では、ヨーロッパの先進国であるフランスでは、法改正により性を買う側に処罰を与え、売る側を支援の対象とするほうへとシフトするなど、大きな転換期を迎えています。

日本もそのように先進国を見習い、売るほうではなく買うほうを罰するなど、改めて女性の人権というものを考えてみる機会を与えてくれる展覧会なので、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。

取材・撮影・文:新麻記子

【情報】
「大吉原展」
会期:開催中~2024年5月19日(日)※会期中、展示替えあり 
前期:3月26日(火)~4月21日(日)、
後期:4月23日(火)~5月19日(日)
会場:東京藝術大学大学美術館
開館時間:10:00~17:00 ※入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日(ただし4月29日(月・祝)、5月6日(月・振休)は開館)、5月7日(火)
ホームページ:https://daiyoshiwara2024.jp