【京都国立近代美術館】『LOVEファッション―私を着がえるとき』展

アイティーエル株式会社では、一人でも多くの方が美術館や博物館を訪れるきっかけとなるべく、2020年7月より【ミュージアム・レポート】を開始いたしました。

困難な状況下においても美術館・博物館ではさまざまな企画や対策をおこなっていることから、全てのアートシーンに対してこれからも変わらず応援していくべく、アイティーエルも継続して情報を発信していきたいと思います。

今回は、京都国立近代美術館(MoMAK)にて開催中の特別展『LOVEファッション―私を着がえるとき』展(会期:9月13日(金)から11月24日(日))をご紹介します。

『LOVEファッション―私を着がえるとき』について

展示風景

京都国立近代美術館(MoMAK)と京都服飾文化研究財団(KCI)は、「美術館における衣装展」という分野を日本でいち早く普及・発展させ、これまで8度にわたる共同での展覧会を開催しています。

社会、文化、アートの諸問題とも結びつくテーマを取り上げ、衣服だけにとどまらない、現象としてのファッションの展示を目指す試みは、これまで海外でも評価され、多数の巡回展を実現してきました。

服を着ることは人間の普遍的な営みのひとつ。お気に入りの服を着てみたい、あの人のようになりたい、ありのままでいたい、我を忘れたい…など、着る人のさまざまな情熱や願望、葛藤や矛盾=「LOVE」を受け止める存在としてのファッション。そこには万華鏡のようにカラフルな世界が広がっています。

本展では、KCIが所蔵する18世紀から現代までの衣装コレクションを中心に、人間の根源的な欲望を照射するアートとともに、ファッションとの関わりにみられるさまざまな「LOVE」のかたちについて考えます。

見どころ①|「着ること」の面白さや奥深さを再認識する展覧会

展示風景

私たちは長い歴史の中で着ることを通じてさまざまな情熱を傾けてきたといえるでしょう。

冒頭の【1.自然にかえりたい】では、女性の華やかで美しいドレスだけでなく男性のウエストコートにも花柄があしらわれた18世紀の貴族が着用していた宮廷服、豊かさや権力の象徴とされる毛皮と動物保護や環境保全の観点から生まれたフェイクファーの衣服など、歴史の各時代にあらわれた植物柄や動物素材のファッションスタイルを展示しています。

展示風景

人類最初の衣服は自然界からもたらされ、その記憶を引き継いでいるのか、私たちは毛皮の肌触りと温もりに酔いしれ、美しい鳥の羽根で着飾り、色とりどりの花々に身を包みます。文明や技術が高度に発達した今日においては、 自然に対する憧れや敬愛、身にまといたいという願望、そして相反する価値観から多種多様なスタイルが生み出されました。

会場にて展示されているKCI が厳選した18 世紀から現代までの衣服作品を通じて、「着ること」をめぐる人々の多様な願望である「LOVE」とそのありようについても見つめ直すことができます。

『LOVEファッション』見どころ②|着る人や創作する人の「LOVE」に溢れた作品を多数展示

展示風景

つづく【2.きれいになりたい】では、顔より大きく膨らんだ袖、締め上げられたウエスト、 歩けないほどに広がるスカートには、歴史を振り返れば過剰や奇抜と思える装いにこそ、「きれいになりたい」という当時の人々の美意識が凝縮され、衣服のかたちに現れた多様な「美しさ」が展示されおり、ときに偏執的ともいえる造形への欲望を伴ない衣服の流行をつくりあげてきたスタイルがご覧になれます。

その一方で【3.ありのままでいたい】では、社会の中で様々な役割を担いつつ生きる私たちの「ありのままでいたい」という願望から、1990年代以降にデザインを極限までそぎ落としてミニマルな装いの記号へと還元するヘルムート・ ラングらが牽引した、自然体の体を主役にするミニマルなデザインの服や、ミニマル・ファッ ションの究極系とも表現できる「下着ファッション」が紹介されています。

展示風景

つづく【4.自由になりたい】では、現代のデザイナーも新たな形や意味を服に込め、私たちの日々の気分を切り替えるだけでなく、別の何かへと変身できるような感覚を与え、ヴァージニア・ウルフの『オーランドー』 に触発され、時代や性別を超えた衣装で私たちの固定概念を揺さぶる川久保玲(コム・デ・ギャルソン)などの作品から、異なる時代に制作された文学と衣服に通底する、アイデンティティの物語への普遍的な問いかけを探っていきます。

最後の【5.我を忘れたい】では、こんな服が着てみたいという願望、あの服を着たらどんな気持ちだろうという期待、はたまた欲しかった服に袖を通したときの高揚感を表現した、さまざまなスタイルが展示されています。服を着ることの一瞬のときめきや楽しさを伝えてくれるトモ・コイズミによるMISIAが東京オリンピックで着用したラッフルいっぱいのドレスのような愛らしい作品や、ロエベによるまるで唇に私の身体が乗っ取られてしまったかのような作品たちがご覧になれます。

会場では、着る側と作る側それぞれの熱い「LOVE」から生み出された装いの数々が登場します。

展示風景:オペラ「オルランド」とコム・デ・ギャルソンの2020年春夏コレクション

『LOVEファッション』見どころ③|服を着る「私」の存在とその認識を広げる現代アートを紹介

展示風景:AKI INOMATA《やどかりに「やど」をわたしてみる ‒Border‒ 2009(進行中)

着るという行為は「私」という存在の輪郭にも働きかけます。本展では、さまざまな願望や葛藤を抱えな がら現代を生きる多様な「私」のありようを、現在活躍する作家たちの作品を通して紹介しています。

身近な友人との日常を切り取り、ありのままに生きることを肯定するヴォルフガング・ティルマンスの写真、同世代の女性たちのインタビューを題材にその日常と内面を描き出す松川朋奈の絵画、背負う貝殻を変えるヤドカリの姿に人のアイデンティティを重ね合わせる AKI INOMATA の作品から「私」を めぐる問いの現在形を探っていきます。

また本展には、朝吹真理子著『TIMELESS』、村田沙耶香著「素敵な素材」、岡崎京子作『へルタースケルター』など、「装う私」に渦巻く欲望の淀みが描かれた文学や漫画作品が挿話されています。それらを通して、行間に挟み込まれた「私の物語」と出会うこと。それは、衣服を着る私たちが自己を問い直すための「よりどころ」となるでしょう。

最後に

会場風景(京都会場限定展示の東京オリンピックMISIAが着用していた衣装とデザイナーの小泉智貴氏)

近年、ハイブランドのファッション展が人気を博していますが、本展覧会はファッションの歴史を俯瞰し、社会、文化、流行を反映し、生み出されたスタイルそのものを見つめるものです。

私たちの欲望が潜み、憧れや熱狂、葛藤や矛盾を伴って表れ、さまざまな情熱や願望を受け止めてくれる存在のファッション。

きっと、本展覧会を通して私たち人間が服を着ることの意味について、再び考えるきっかけとなることでしょう。

【展覧会情報】
『LOVEファッション―私を着がえるとき』
会期 2024 年 9 月 13 日(金)~ 11 月 24 日(日)
会場 京都国立近代美術館(岡崎公園内)
  〒606-8344 京都市左京区岡崎円勝寺町
開館時間 午前 10 時~午後 6 時(金曜日は午後 8 時まで)
     ※入館は閉館の 30 分前まで
休館日 月曜日
   ※ただし 10 月 14 日(月・祝)、11 月 4 日(月・休)は開館。
   翌日火曜日は休館。
公式ホームページ:https://www.kci.or.jp/love/