【国立新美術館】荒川ナッシュ医 ペインティングス・アー・ポップスターズ

アイティーエル株式会社では、一人でも多くの方が美術館や博物館を訪れるきっかけとなるべく、2020年7月より【ミュージアム・レポート】を開始いたしました。

困難な状況下においても美術館・博物館ではさまざまな企画や対策をおこなっていることから、全てのアートシーンに対してこれからも変わらず応援していくべく、アイティーエルも継続して情報を発信していきたいと思います。

今回は、国立新美術館にて開催中の「荒川ナッシュ医 ペインティングス・アー・ポップスターズ」展(会期:2024年10月30日(水)から12月16日(月))をご紹介します。

荒川ナッシュ医(あらかわなっしゅ・えい)とは?

荒川ナッシュ医(あらかわなっしゅ・えい)は、1977年福島県いわき市生まれ。1998年からニューヨーク、2019年よりロサンゼルスに居住する米国籍のクィア・パフォーマンス・アーティストです。

彼のパフォーマンスは現代アーティストをはじめ、美術史家、音楽家、哲学者、声優など、多彩な人々との共同作業を行うとともに、観客を即興的にパフォーマンスに巻き込むことによって、受動的な鑑賞から積極的な鑑賞へと行為の主体に転化し、演者と観客との間の境界をなくすことで、「私」という主体を再定義しながら、アートの不確かさをグループ・パフォーマンスとして表現しています。

本展覧会について

本展覧会は、2000年代から国際展や美術館でパフォーマンス・アートを発表してきた米国在住のアーティスト、荒川ナッシュ医のアジア地域においては初めての美術館での個展です。

荒川ナッシュはコラボレーションをアート活動の基本とし、一作家の個展でありながら彼に協力する多数の画家による絵画が2000㎡の会場内の9つのセクションに分かれて登場します。

誰でも美術館の床に絵が描ける作品など、入場無料でどなたでも楽しめる本展は、絵画とパフォーマンスの近しい関係を探る新しい試みとなるでしょう。

会場では、ユーミン、寺尾紗穂、ハトリ・ミホ、キム・ゴードンなど、目覚ましい活躍を見せているミュージシャンが本展のために書き下ろした新曲で参加するほか、哲学者・千葉雅也の初戯曲に基づいたLEDインスタレーションに声優・村瀬歩がカメレオンボイスで熱演するなど、本展ではさまざまなコラボレーションが実現しています。

21世紀のパフォーマンス・アートの現在形に迫る!

本展覧会は国立新美術館では2007年の開館以来初となるパフォーマンス・アーティストの個展です。

会場は、「絵画と公園」「絵画と子育て」「絵画とLGBTQIA+」「絵画といわき」「絵画と音楽」「絵画と教育」「絵画とパスポート」「絵画と即興」「絵画とバレエ」という9つのセクションで構成。

可動壁により展示プランを自在に変えられるという黒川紀章建築の特徴を最大限に利用し、順路に従うことなく縦横無尽に行き来できる風通しのいい会場設計を実現しています。

会期中のパフォーマンスは、絵画を用いてダンスでコミュニケーションする《マッド・ガーランド(怒りの花綱飾り)》、絵画の中に吸い込まれる《ネメシス・ペインティング(宿敵の絵画)》などが予定されているので、カレンダーを確認して足を運んでみてください。

鑑賞者でありながら参加者となり、パフォーマーとして作品の一部になるのも、パフォーマンスアートを深く理解できるきっかけとなることでしょう。

本展覧会の見どころポイント

会期中毎週開催されるペインティングス・アー・ポップスターズ・ツアー

本展覧会ではアーティストによる即興的な展覧会ツアーを会期中毎週ご用意しています。荒川ナッシュいわく、この約30分のツアーは「乗り降り自由。好きな時に参加して、好きなタイミングで離脱OK」。
英語によるツアーは、荒川ナッシュ医のパートナーである荒川ナッシュ・フォレストが行うそうです。

誰もが自由に美術館の床に絵を描ける《メガどうぞご自由にお描きください》

会場では、2021年にテート・モダンのタービン・ホールで発表された、具体美術協会の吉原治良へのオマージュ作品《メガどうぞご自由にお描きください》が展示されます。
会期中毎週日曜日に開催予定のこの参加型インスタレーションでは、誰もが自由に美術館の床に絵を描けます。2025年にはミュンヘンの現代美術館ハウス・デア・クンストに巡回予定のこの巨大プロジェクトをいち早くご堪能ください。

日本初公開となる歴史的絵画や新作絵画にも注目!

河原温が新生児や同性愛に言及した1964年の日本未公開ドローイング。日系アメリカ人の抽象画家として近年評価されつつあるミヨコ・イトウの絵画。ニコール・アイゼンマンの世界初展示となる画家の2人の子供の肖像画。八重樫ゆいがベビーカーに直接描いた絵画。ケルスティン・ブレチュによる「凧絵画」。オスカー・ムリーリョの新作。南川史門の6mを超える絵画など、多様な作家たちの絵画作品を紹介します。

クィアパパになり、作家と子育ての両立も。

クィアである荒川ナッシュは、同性パートナーである夫・フォレストと、アメリカのカリフォルニア州で卵子提供と代理出産を経て、2024年12月30日に双子の赤ちゃんを迎える予定です。
セクション2の「絵画と子育て」では、出産予定日をお知らせするカウントダウン映像が設置されて、作家と子育ての両立をテーマに、実際に育児をしながら制作に励む作品や、子育てを主題にした作品を紹介し、改めてフェミニズムの観点について考えるきっかけを与えてくれます。

生きた芸術を体感しよう!

取材時、荒川ナッシュは「準備期間中、ステージをつくるような感覚で展覧会をつくってきました。これから45日間、ツアーをしたりパフォーマンスをしたりします。それをこの頻度で国立美術館でやるのは大変なこと。学芸員のみなさまにも頑張っていただき、パッケージされた展覧会とは違った、生きた芸術をお届けしようと思っています」と語っていました。

12月16日(日)までの会期中は何度足も運んでも入場無料で、荒川ナッシュによるツアーが行なわれるほか、絵画作品を使って踊ったり、荒川ナッシュがカルフォルニア最新の代理母出産の情報について共有したり、アメリカでの大学院への留学について説明したりなど、パフォーマンスからトーク(レクチャー)イベントまでさまざまな催しが予定されています。

ぜひ、受動的な鑑賞から積極的な鑑賞になるであろうアートの本質に触れられる本展覧会に行ってみては?

【情報】
『ペインティングス・アー・ポップスターズ』
2024年10月30日(水) ~2024年12月16日(月)
会場:国立新美術館
開館時間:10:00~18:00、金・土曜は20:00まで
休館日:火曜
観覧料:無料
ホームページ:https://www.nact.jp/exhibition_special/2024/eiarakawanash/