【渋谷区立松濤美術館】須田悦弘展

須田悦弘《ドクダミ》2024年 木に彩色 作家蔵

アイティーエル株式会社では、一人でも多くの方が美術館や博物館を訪れるきっかけとなるべく、2020年7月より【ミュージアム・レポート】を開始いたしました。

困難な状況下においても美術館・博物館ではさまざまな企画や対策をおこなっていることから、全てのアートシーンに対してこれからも変わらず応援していくべく、アイティーエルも継続して情報を発信していきたいと思います。

今回は、渋谷区立松濤美術館にて開催中の「須田悦弘」展(会期:開催中〜2025年2月2日(日))をご紹介します。

須田悦弘(すだ よしひろ)とは?

須田悦弘《チューリップ》2024年 木に彩色 作家蔵

須田悦弘は、日本の美術家であり、特に繊細でリアルな植物彫刻で知られています。

多摩美術大学のグラフィックデザイン科で学んでいましたが、授業でスルメを彫ったことをきっかけに独学で木彫の技術を磨き、今では朴の木でさまざまな植物の彫刻を制作しています。

自然への深い洞察と日本の伝統的な美意識を反映し、須田によって生み出された精密な植物は全て実物大で、一見すると本物の植物と見間違うほどの細かさとリアリティを持っています。

それらを思いがけない場所に配することで、空間と作品が一体となり、独自の世界をつくりあげています。その空間は鑑賞者に自然への尊敬と驚きを呼び起こし、日常で見落としがちなものに再び目を向けさせてくれる存在のようです。

彼の作品は、自然と人間の関係や現代社会における自然の在り方を問い直すきっかけを与え、その繊細な手仕事は現代の大量生産文化に対するアンチテーゼとも捉えられるかもしれません。

本展覧会について

須田悦弘《スルメ》1988年 木に彩色 作家蔵

本展は、東京都内の美術館では25年ぶりとなる須田悦弘の個展です。

今回、須田の初期作品やドローイング、近年取り組んでいる古美術品の欠損部分を木彫で補う補作の作品等を展示するとともに、本展のための新作も公開しています。

須田作品は展示される空間も含めて作品です。作品を探すことも楽しみの一つで、ひっそりと置かれた植物を発見した時には、まわりの景色がそれまでと違って感じられるかもしれません。 ぜひご来館いただき、須田氏の生み出す空間をお楽しみください。

本展覧会の見どころ

《随身坐像》須田悦弘補作 手、弓:平安時代 手、弓:木に彩色 個人蔵

本展では、在学中に授業で彫った《スルメ》と初めて彫った植物《チューリップ》を展示。また今回、大学の卒業制作を再現しています。本作を公開するのは卒業後初めてのこと。当時、卒業制作展でしか見られなかった作品をお見逃しなく! この他、学生時代に制作した小さな木彫や絵画作品も出品しています。

さらに近年取り組んでいる古美術品の欠損部分を木彫で補う「補作」も展示。須田氏の最初の補作作品は、杉本博司氏に依頼されて補った鎌倉時代の神鹿像です。 実際に手に取り、観察し、研究した上で補われた作品は、一見、どこを補作したのかわからないものもあり、須田氏の驚異的な観察力とわざを堪能することができます。

また、会場となる渋谷区立松濤美術館の建築は、「哲学の建築家」 とも評される白井晟一によるものです。独自の世界を建築に表す白井建築を舞台にした須田悦弘のインスタレーション作品としても楽しめます。

最後に

須田悦弘《草》2024年 木に彩色 作家蔵

取材時、会場マップを片手にきょろきょろしながら須田作品を探し、見つけてはスマホをかざしてカメラにおさめている、多くの老若男女の鑑賞者の姿が印象的でした。

須田作品の魅力は、一見目立たない場所に設置された植物たちとの予想外の出会いが驚きと発見を与え、観客に本物の植物と錯覚するという体験をもたらし、日常の中で見過ごしがちな美しさを再発見させてくれるところだと思います。

壁の隅、床の端、柱の影など、観客が気づきにくい場所の作品から、日常を新たな視点で楽しませてくれる須田作品を探しに訪れてみてはいかがでしょうか。

【情報】
須田悦弘
会 期:2024年11月30日(土)-2025年2月2日(日)
会 場:渋谷区立松濤美術館 
   〒150-0046 東京都渋谷区松濤2-14-14
開館時間:午前10時~午後6時 (毎週金曜日は午後8時まで)
     *入館は閉館時間の30分前まで
休館日:月曜日(1月13日は開館)
    12月29日(日)ー1月3日(金)
    1月14日(火)
電話: 03-3465-9421
HP: https://shoto-museum.jp