【皇居三の丸尚蔵館】百花ひらく-花々をめぐる美-

アイティーエル株式会社では、一人でも多くの方が美術館や博物館を訪れるきっかけとなるべく、2020年7月より【ミュージアム・レポート】を開始いたしました。

困難な状況下においても美術館・博物館ではさまざまな企画や対策をおこなっていることから、全てのアートシーンに対してこれからも変わらず応援していくべく、アイティーエルも継続して情報を発信していきたいと思います。

今回は、皇居三の丸尚蔵館で開催される「百花ひらく-花々をめぐる美-」展(会期:3月11日〜5月6日)をご紹介します。

本展覧会について

《七宝四季花鳥図花瓶》並河靖之 明治32年(1899)

日本では、四季折々に咲く花々はその姿や色から人の心を和ませ、古くから芸術の主要なモチーフとして親しまれており、​特に春は花の季節として多くの作品が生み出されてます。​

本展覧会では、花という自然の美しさがどのように日本の美術や工芸に取り入れられてきたかを深く掘り下げ、11世紀から現代に至るまで約1000年にわたる日本の芸術史を、花のモチーフを通して紹介します。

会場では、絵画、書跡、工芸品などさまざまな花を題材とした名品約45点から、日本文化や日本美術において、花がどのような意味を持ち、どのように表現されてきたのか、時代ごとの美意識がどのように反映されたかを作品を通してその変遷を一望できることでしょう。

本展覧会の見どころ

前期の展示:江戸時代の花とその精緻な表現

伊藤若冲《動植綵絵》江戸時代(18世紀):《桃花小禽図》《牡丹小禽図》

前期の展示では、主に江戸時代の名品が紹介されています。

本展覧会の目玉でもある伊藤若冲の《動植綵絵》シリーズは、特に注目される作品であり、その精緻な描写と色彩感覚で知られ、特に花を題材にした作品は、花の形態を驚異的な精度で表現しています。

このシリーズの中から、前期では《桃花小禽図》と《牡丹小禽図》(後期では《梅花小禽図》と《薔薇小禽図》)が展示され、来場者は若冲が描く花々の生き生きとした表現に圧倒されることでしょう。

花とともに小鳥や虫が描かれ、自然界の細部に至るまで、観察された結果として生まれた精緻な日本画。

花がただの装飾や背景ではなく、動植物の一部として活き活きと描かれており、生命のダイナミズムを表現する手法が印象的なこの作品シリーズは、若冲が単に美しさを求めるだけでなく、自然界の全体性や調和を表現しようとする姿勢が強く感じられます。

また、江戸時代の花の描写に影響を与えた他の絵師たちの作品も鑑賞することができます。

江戸時代後期の絵師である池上秀畝の《花鳥図》は、花と鳥が一体となって描かれ、華やかな色彩と優雅な線描が特徴で、自然界の調和を象徴し、江戸時代の花の美的感覚を反映しています。

彼の作品における花々は、観賞用の植物としてだけでなく、その生き生きとした生命力を感じさせる存在として描かれており、観る者に花の持つ力強さや生命感を強く印象づけます。

後期の展示|近代の花と抽象的な表現

《菊花図額》1910年頃

一方、後期では明治時代以降の作品が中心となり、花の表現がより抽象的かつ多様化した様子が伺えます。

特に近代工芸には、花の持つ象徴的な意味を深く掘り下げた作品が多く見られ、時代の変遷に伴う美的感覚の変化が如実に表れていると言えるでしょう。

日本の七宝焼き技術を大いに発展させた並河靖之は、明治時代の技術力と美的センスを駆使し、細やかな技術と美しい色彩が特徴です。

花を通して四季の移り変わりを感じさせるとともに、日本の工芸技術の高さを実感できる《七宝四季花鳥図花瓶》は、七宝焼きによる花鳥図が施され、花の描写が色鮮やかで生命感が溢れていると同時に、静謐さを保ち静けさや内面の美も感じさせます。

また、近代から現代にかけての作品にもスポットが当たり、特に現代のアーティストたちによる花の表現は、従来の具象的な描写を超えて、花を抽象的に捉えた作品が多く展示されています。これらの作品では、花の象徴性や精神的な意味が強調され、従来の写実的な描写から脱却しています。

現代アートにおける花の表現は、花が持つ美しさだけでなく、その儚さや変化する性質がテーマとして取り上げられることが多く、抽象的な形態や色彩を通して、花の象徴的な意味合いが表現されています。

最後に

前期は江戸時代の精緻な花の描写を中心に、自然と人間の調和や生命力を重視した作品が多く、花がどのように日本の伝統的な美意識の中で表現されてきたかを示しています。

一方、後期では近代から現代に至るまで、花を通して抽象的・象徴的な表現が多く見られ、花の精神的・哲学的な側面を強調する作品が多く展示されています。

前期と後期を通じて、花というテーマがどのように時代ごとに変化し、またその背後にある美意識や思想がどのように進化していったのかを観客は感じ取ることができるだけでなく、花が持つ普遍的な美しさと、時代ごとに異なる解釈を通じて、深い芸術的な意味を学ぶ貴重な機会となっています。

会期中は、関連イベントも充実しており、展示室での作品解説や、特別鑑賞会などが予定されており、より深く展覧会を理解することができる機会も提供されています。

本展で一時休館となってしまうので春の訪れとともに足を運んでみてはいかがでしょうか。

【情報】

百花ひらく-花々をめぐる美-
会期:​2025年3月11日(火)~5月6日(火・休)
会場:​皇居三の丸尚蔵館(東京都千代田区千代田1-8 皇居東御苑内)
時間:​午前9時30分~午後5時(入館は午後4時30分まで)
休館日:​月曜日。ただし5月5日(月・祝)は開館、3月31日(月)は臨時開館。
ホームページ:​https://pr-shozokan.nich.go.jp/2025flowers/