
展示風景
アイティーエル株式会社では、一人でも多くの方が美術館や博物館を訪れるきっかけとなるべく、2020年7月より【ミュージアム・レポート】を開始いたしました。
困難な状況下においても美術館・博物館ではさまざまな企画や対策をおこなっていることから、全てのアートシーンに対してこれからも変わらず応援していくべく、アイティーエルも継続して情報を発信していきたいと思います。
今回は、国立西洋美術館にて開催中の「西洋絵画、どこから見るか?―ルネサンスから印象派までサンディエゴ美術館 vs 国立西洋美術館」(会期:3月11日(火) 〜 6月8日(日))をご紹介します。
本展について

本展は、米国のサンディエゴ美術館との共同企画により、同館と国立西洋美術館の所蔵する作品計88点を組み合わせ、それらの対話を通じてルネサンスから19世紀に至る幅広い西洋美術の魅力とその流れを紹介する展覧会です。
サンディエゴ美術館は、主に1930年代を通じ、当時のアメリカ合衆国西部では随一の質と規模を誇るヨーロッパ古典絵画のコレクションを築きました。サンディエゴという土地の歴史・文化性や、篤志家たちの趣味を色濃く反映したユニークな内容を誇り、初期ルネサンス絵画やスペイン17世紀絵画などに多くの傑作を有しています。
一方、国立西洋美術館は、松方幸次郎の収集した印象派を中心とするコレクションに基づいて1959年に設立され、1960年代末から古典絵画の体系的な収集を開始しました。以降、歴代の館長や研究員の調査研究に基づいて、西洋美術史の主要な流派やジャンルを網羅にカバーする総合的なコレクションの形成を目指して収集活動を続けています。
本展は、両館の所蔵する作品をペアや小グループからなる36の小テーマに分けて展示、比較に基づく作品の対話を通じ、ルネサンスから印象派に至る西洋美術史の魅力を分かりやすく紹介することを目指します。
また両館は非ヨーロッパ圏においてヨーロッパ美術を収集した点においても共通します。その点に着目し、両館の持つ傑作を比較対照させながら、それぞれ西洋絵画がどのような目的や理想に基づいて収集されていったのかについても、紹介する予定です。
本展の見どころ

展示風景
西洋絵画の歴史は、長い時間をかけて発展し、多くの流派や様式が誕生してきました。特にルネサンスから印象派までの期間は、絵画の表現や技法が劇的に変化した時期として、芸術史の中でも重要な位置を占めています。
今回は、サンディエゴ美術館と国立西洋美術館の西洋絵画のコレクションに焦点を当てて、それぞれの美術館がどのように西洋絵画の発展を反映し、展示しているのかを比較しながら、ルネサンスから印象派までの絵画の流れを探求します。
ルネサンスからバロック

展示風景
西洋近代美術の礎は、14〜16世紀にかけて、イタリアとネーデルランド(現在のベルギー、オランダ)で起こった革新運動によって築かれ、ヨーロッパ各地へ伝播しました。ジョットからボス(工房)まで、両地域のルネサンス絵画の展開を探ります。
こちらのルネサンスのコーナーでは、イタリアの画家たちを中心に、多くの代表作が並んでいます。
例えば、サンディエゴ美術館所蔵のカルロ・クリヴェッリによる《聖母子》と、国立西洋美術館のアンドレア・デル・サルトによる《聖母子》では、キリスト教美術の主題のひとつであり、聖母マリアと幼児イエスを描いていますが、それぞれの表現に違いがあるので見比べてみると面白いでしょう。
ヴェネツィアで絵を学んだクリヴェッリは、イコン画に由来する天の女王としてのマリアを厳粛で威厳に満ちた存在として描き出し、一方フィレンツェの盛期ルネサンスを代表するデル・サルトは、愛情豊かな母としてのマリアの姿をより身近な存在として表現しました。

バロック時代の絵画作品は、劇的な光と影のコントラストを駆使し、感情的な表現やドラマチックな構図が特徴であり、視覚的にも力強いインパクトを与えます。
バロックのコーナーでは、サンディエゴ美術館の充実したバロック絵画コレクションを基に、国立西洋美術館所蔵の優品を組み合わせながら、17世紀美術の展開をスペイン、イタリア及びフランス、フランドル及びオランダと、地域別に紹介します。
スペイン静物画(ボデゴン)の最高峰である厳格なフアン・サンチェス・コターンから華やかなフアン・バン・デル・アメンの世代交代のほか、エル・グレコ、スルバラン、ムリーリョ、ソローリャなど、他にもスペイン絵画の名品が勢ぞろいします。
18世紀:ロココから新古典主義

18世紀、この時代の美術をリードしたイタリア絵画とフランス絵画の展開に焦点を当て、両館のコレクションから風景画、肖像画、風俗画それぞれのジャンルにおける地域ごとの特徴を見ていきます。
この時代の潮流であるロココは、軽やかな美が特徴でエレガントな表現を大切にし、当時の貴族社会の優美さを映し出しています。その後の新古典主義は、理性と秩序を重視し、革命的な精神を表現しました。
また、18世紀末から19世紀初頭にかけてフランスでは数多くの女性芸術家が活躍しました。
例えば、ロココ時代の作品であるサンディエゴ美術館のマリー=ギユミーヌ・ブノワ《婦人の肖像》と西洋美術館のマリー=ガブリエル・カペ《自画像》は、優雅で華やかでありながら、軽やかな美しさが印象的で、陶器のような肌に高揚した頬など、見る者を虜にすることでしょう。
カペの自画像では、ヴォリュームを強調した巻き髪や淡いブルーのリボンとドレスがロココ特有の雅なファッションを伝えるのに対し、ブノワの女性像は、ギリシャ彫刻を思わせる薄手の白いシュミーズドレスの上にショールをまとい、簡潔な新古典主義の時代の到来を伝えています。
19世紀:印象派

19世紀絵画といえば、光の変化や瞬間的な印象を捉え、従来の絵画の枠組みを打破した、自然の美を捉えた作風で知られる印象派ですが、本章では印象派とは一味異なる、19世紀絵画の多彩な魅力を探ります。
この時代、古典絵画の伝統と新しい時代の要請する近代性を、それぞれの手法で融合することを目指した多くの画家が活躍しました。
サンディエゴ美術館のスペイン人画家・ホアキン・ソローリャによる《ラ・グランハのマリア》、国立西洋美術館のフランス人画家・ウィリアム=アドルフ・ブーグローによる《小川のほとり》は、それぞれ生前にアメリカで極めて高い人気を誇りました。
卑近なモデルの何気ない仕草や表情を捉え、ベラスケスやゴヤを介して受け継がれたスペイン絵画の写実伝統に基づくソローリャと、精緻な筆致で現実には存在しない理想郷の女性を描き続けた、フランスのアカデミックな伝統に基づくブーグロー。
最後に

サンディエゴ美術館と国立西洋美術館は、いずれも西洋絵画の重要な作品を所蔵していますが、そのコレクションには微妙な違いがあります。サンディエゴ美術館は、バロックやロココ時代の作品に重点を置き、華やかな表現が目立つ一方で、国立西洋美術館は、印象派や近代美術に強い焦点を当て、特に印象派の作品が豊富です。
本展開催中には、サンディエゴ美術館所蔵作品よりさらに5点の絵画を西洋美術館常設展で展示し、さらなるコレクションの対話を試みます。これらを含むサンディエゴ美術館からの出品作49点は、すべて日本初公開となりますのでお見逃しなく!
西洋絵画の歴史は、ルネサンスから印象派に至るまで、常に革新と変化を繰り返してきました。サンディエゴ美術館と国立西洋美術館は、それぞれの地理的、文化的背景を反映しながらも、西洋絵画の重要な作品群を展示し、私たちに絵画の進化を学ぶ機会を提供しているので、ぜひ足をお運びください。
【情報】
西洋絵画、どこから見るか?―ルネサンスから印象派まで
サンディエゴ美術館 vs 国立西洋美術館
会期:2025年3月11日(火)-6月8日(日)
会場:国立西洋美術館
開館時間:9:30~17:30(金・土曜日は20:00まで)*入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日、5月7日(水)(ただし、3月24日(月)、5月5日(月・祝)、5月6日(火・休)は開館)展覧会公式サイト:https://art.nikkei.com/dokomiru/