
アイティーエル株式会社では、一人でも多くの方が美術館や博物館を訪れるきっかけとなるべく、2020年7月より【ミュージアム・レポート】を開始いたしました。
今回は、東京都美術館にて開催中のファン・ゴッホ家が受け継いできたファミリー・コレクションに焦点を当てる「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」をご紹介します。
本展覧会について

本展では、は、単にゴッホの絵画作品を並べるだけではなく、「家族」がどのようにして彼の芸術と遺産を守り、今日の評価へとつなげてきたのか、ゴッホ家の物語を軸にしたものです。
会場では、ファン・ゴッホ美術館の作品を中心に、ファン・ゴッホの作品30点以上に加え、日本初公開となるファン・ゴッホの貴重な手紙4通なども展示します。
見どころ①|ファン・ゴッホ家が受け継いできたファミリー・コレクション

会場風景
フィンセント・ファン・ゴッホ(Vincent van Gogh, 1853-1890)は、生前にはほとんど評価されず、作品販売もごくわずかであったにもかかわらず、没後に世界中で高く評価される画家となりました。ゴッホの鮮やかな色彩や激しい筆致、精神的な葛藤を映し出す生涯の物語は、多くの人々を惹きつけてきました。
フィンセントの画業を支え、その大部分の作品を保管していた弟テオは、兄の死の半年後に生涯を閉じて、テオの妻ヨーが膨大なコレクションを管理することとなります。
妻ヨーは義兄の作品を世に出すことに人生を捧げ、作品を展覧会に貸し出し、販売し、膨大な手紙を整理して出版するなど、画家として正しく評価されるよう奔走しました。

会場風景
テオとヨーの息子であるフィンセント・ウィレムも、コレクションを散逸させないために、フィンセント・ファン・ゴッホ財団を設立し、美術館の開館に尽力します。
弟テオ、テオの妻ヨー、そしてその子どもたち、そしてフィンセント・ファン・ゴッホ財団と美術館へと続く流れが、ゴッホの作品や手紙、コレクションを通して可視化されています。
加えて日本初公開の手紙など、研究・史料的価値の高い展示も含まれることから、鑑賞することでゴッホ像をより立体的に、家族の支援や伝承という観点からも理解できる良い機会となっています。

見どころ②|ファン・ゴッホ作品で初期から晩年までの画業をたどる

会場では、オランダをはじめ、フランスのパリ、南仏アルル、サン=レミ、パリ近郊のオーヴェール=シュル=オワーズまで、ゴッホの居住地・制作地をたどりつつ、その画風・主題・色彩・筆致などの変化を作品でたどります。
ゴッホの30点以上の絵画が出品されており、素描なども含まれているため、ゴッホがどこからどこへ向かおうとしていたのか、画家としての成長過程が読み取ることができるでしょう。

絵画作品では、初期の暗めの色調の作品から、パリでの影響を受けた明るさ、浮世絵的な構図、アルル・サン=レミでの強い色彩、オーヴェール=シュル=オワーズでの成熟まで、画業のさまざまな段階の変化が見て取れます。
また、素描やスケッチでは、絵画ほど派手ではないですが、アイデアの萌芽・研究・習作などが見られ、ゴッホの観察眼・構成感覚がどのように育まれたかを知る手がかりとなります。
中には、ゴッホが尊敬していた19世紀のフランスのバルビゾン派で農民画で知られるジャン=フランソワ・ミレーに倣った《種まく人》をはじめ、数々の作品に出会えるでしょう。
最後に

人びとの心を癒す絵画に憧れ、100年後の人びとにも自らの絵が見られることを期待したゴッホの夢も、数々の作品とともにこうして今日まで引き継がれてきました。
しばしば美術展では「作品=作家」のみを中心とする語りがなされますが、本展は「作品を守り、伝える者」の存在が不可欠であることを改めて示してくれます。
テオやヨー、その後の世代という「裏方」的要素を可視化することで、芸術の継承とは何か、どのような人・運・社会的背景があってこそ今日のゴッホ人気があるのかを考えさせられます。
ゴッホの苦悩、テオの献身、ヨーの高邁な努力、そして財団・美術館を立ち上げた息子フィンセント・ウィレムの思い…これらが、単なる歴史の事実としてではなく、人間ドラマとして迫ってくることで、鑑賞中に胸が詰まるような思いになることが何度もありました。
絵が語るもの、言葉が語るもの、そして家族の絆が語るもの、それらが折り重なり、展覧会を出た後もしばらく心に残る体験となることでしょう。
【情報】
「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」
会期:2025年9月12日(金)~12月21日(日)
※土日祝及び、12月16日(火)以降は日時指定予約制
会場:東京都美術館 企画展示室
時間:9:30~17:30、金曜日は20:00まで(入室は閉室の30分前まで)
休室日:月曜日、10月14日(火)、11月4日(火)、11月25日(火)
※ただし9月22日(月)、10月13日(月・祝)、11月3日(月・祝)、11月24日(月・休)は開室
ハローダイヤル:050-5541-8600
ホームページ:https://gogh2025-26.jp