
アイティーエル株式会社では、一人でも多くの方が美術館や博物館を訪れるきっかけとなるべく、2020年7月より【ミュージアム・レポート】を開始いたしました。
今回は、世界屈指の文化都市である京都市内に点在する特別な空間で開催されている「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2026」をご紹介します。
KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭とは?

『KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭』とは、世界屈指の文化都市・京都を舞台に開催される、日本でも数少ない国際的な写真祭です。
各国からアーティストが参加し、京都らしい寺社・町家、通常非公開の場所、名建築やギャラリーなどの特別な文化空間で展覧会が開催され、京都市内に点在する会場を街歩きをしながら、観覧することができる体験型のフェスティバルです。
国内外の建築家や職人との協働によって生み出される、従来の展示空間に縛られない斬新な会場構成は、従来のフォーマットを刷新し、芸術と空間の関係性を新たに切り拓いていきます。
期間中は展示だけにとどまらず、アーティストと直接出会えるトークイベントをはじめ、次世代の才能を支えるポートフォリオレビュー、参加アーティストが直接指導するマスタークラス、子ども向けの教育プログラムなど、多様なアクティビティを楽しむことができます。
今年のテーマは「EDGE」

今年で第14回を迎えるテーマは、捉えどころがなく常に変化をつづける「EDGE(エッジ)」は、“境界・際・あわい”を意味し、物理的・社会的・心理的などのあらゆる「境目」を指し示す言葉です。
写真は、そもそも『記録と表現』『真実と虚構』『現実とイメージ』の間に揺れつづけ、その本質的な「不安定さ=エッジ」を前面に押し出し、現代社会の分断や揺らぎと呼応する構成となっています。
単なる美しい写真展示ではなく、「世界の裂け目」をどう見るか—その問いが全体を貫いています。
今年は日本、南アフリカ、フランス、ウルグアイ、パレスチナ、ケニアなど 8ヶ国13組が参加し、各地域が抱える社会・歴史・身体性から、“エッジ”というテーマを異なる角度で表現しています。
来場者は各会場を巡ることで、「EDGE」というテーマのもと、写真の本質と社会の現在と繋がり、「写真と現実」「個人と社会」「過去と未来」と、知らず知らずのうちに“境界を横断する体験”をしています。
見どころ①|京都という都市そのものが“展示空間”になる体験

80歳を超えてもなお現役として活躍する日本を代表する森山大道をはじめ、50年にわたり各国の著名人を撮影してきたアントン・コービン、初期の写真機材で撮影した写真にAIを組み合わせたイヴ・マルシャン&ロマ・メェッフェル、南アフリカのアーティストなど8の国と地域から14組のアーティストが出展。
京都市京セラ美術館本館をはじめ、京都文化博物館別館、東本願寺大玄関、重信会館、有斐斎弘道館などの歴史建築や文化施設を舞台に、京都市内に点在する12会場で多様な作品に出合うことができます。
通常のホワイトキューブとは異なる空間で展開され、鑑賞体験は“作品を見る”から“都市を歩きながら体験する”へと変化し、同時に都市・歴史・宗教・記憶・時間を横断する没入型の総合芸術となっています。
見どころ②|世界8ヶ国13組の“エッジ”を多層的に描くアーティスト
森山大道

本年の最大の注目は、京都市京セラ美術館で開催されている森山大道の大規模回顧展。
森山氏の写真は、荒い粒子、手ブレ、ピント外れを特徴とする「アレ・ブレ・ボケ」と称される独自のモノクローム・スタイルで、既存の美しい写真という概念を覆し、都市の猥雑さや欲望を、新宿などの街頭スナップで生々しく切り取る作風が国内外で高く評価されています。
約60年にわたる活動を俯瞰する本展では、単なる代表作の展示にとどまらず、雑誌・写真集・フォトエッセイといった出版文化に焦点が当てられており、今回の展示では写真を「見るもの」から「読むもの」へと拡張し、写真・言語・イメージとの関係を再考させる構成でした。
ダンディウェ・ムリウ

ケニアの女性写真家・ダンディウェ・ムリウは、鮮烈な色彩とパターンで女性像を再構築する作家です。
作品では、モデルたちが背景と同じアフリカンプリント布を身にまとい、背景へ溶け込むように配置されており、人物は一瞬見失いそうになるほど背景と同化するが、それでも強烈な存在感を放っています。
京都・室町にある老舗帯匠「こんだや源兵衛」の竹院の間の会場では、伝統的な京町家空間の中にアフリカンテキスタイルの極彩色が現れ、その場は単なる展示空間ではなく“文化が交差する場所”へと変貌。
中でも、日本の伝統文化でもある着物の要素も取り入れた「一如(Ichinyo)」では、彼女が京都で日本の染織文化に強く共鳴し、日本は遠く離れた文化圏でありながらも、アフリカと同じく布に精神性や共同体の記憶を託している共通点から、日本とアフリカの視覚文化を交差させた作品となっています。
イヴ・マルシャン & ロマ・メッフル

イヴ・マルシャン & ロマ・メッフルは、長年にわたり世界各地の“廃墟”を撮影しつづけてきたフランス人デュオ写真家として知られています。
崩れゆく学校、デトロイトの荒廃した劇場、忘れ去られたソ連圏建築など、そこには文明・経済・時間・人間の欲望が積み重なった痕跡が刻まれており、“誰もいない”のに人間の気配が満ちています。
都市が“繁栄と崩壊のあいだ”で見せる緊張を静かに捉え、無人の建築に残された時間の痕跡や、崩れゆく構造物の質感を丁寧に写し取る彼らの視線は、都市が抱える境界の揺らぎを鋭く可視化します。
彼らの独特な静けさが満ちた写真は、廃墟は“未来”を映す鏡として、廃墟を単なる“終わった場所”としてではなく、未来へ向けた“警告と記憶”として、来場者に文明の死を写して静かな衝撃を与えます。
柴田早理

柴田早理の作品は、自然と身体の間に立ち上がる微細な気配を追い、環境と人間の境界が揺れる瞬間をとらえ、見る者の記憶や感情を静かに刺激して観客を引き込みます。
本作はフランス・ランスの世界最古のシャンパーニュ・メゾンであるルイナールでのアーティストレジデンス滞在中に制作されたもので、登場する女性はすべて柴田のセルフポートレートで、自らの身体を器として故郷の富山県南砺の女性たちの一生をランスで引き受けました。
葡萄畑の剪定と収穫、発酵と熟成ー日々、自然と向き合い、時間に委ねる営みは、南砺で育まれた身体感覚と響き合い、南砺にもランスにも降り注ぐ同じ光が2つの土地を重ね合わせ、この世界に生きる誰のもとにもめぐる日々の意義を静かに照らし出しています。
フランス・シャンパーニュ地方での撮影を経て、土地の光や空気に反応する身体のあり方を見つめ、意図的にドラマチックな演出をするのではなく、存在をそっと包み込むような感覚を可視化します。
レボハン・ハンイェ

東本願寺大玄関で展開されているレボハン・ハンイェの個展「記憶のリハーサル」は、もっとも深く“記憶”というテーマに切り込み、今年のテーマを最も象徴する展示のひとつと言えるでしょう。
本展では、写真・シルエット・ジオラマ・テキスタイルといった多様なメディアが融合し、植民地主義・アパルトヘイトなどの南アフリカの歴史とともに、家族史・喪失・継承といった個人的記憶が幾層にも折り重なり、「写真とは何を記録できるのか」という根源的な問いが存在していた。
特に印象的なのは、「国家の歴史」と「個人の記憶」が切り離せないものとして提示されており、観客は作品を通して、 “誰の記憶が残り、誰の記憶が消えるのか”という問いに直面します。
宗教空間である東本願寺との組み合わせは、記憶と祈りを結びつけ、展示にさらなる深度を与えています。
見どころ③|京都に広がるもうひとつの写真展『KG+』

『KG+』は、これから活躍が期待される写真家やキュレーターの発掘と支援を目的に、京都から新たな才能を世界に送り出すことを目指し、意欲ある参加者を広く募集して展覧会を開催しています。
また、『KYOTOGRAPHIE』と並行して開催されるサテライトフェスティバルで、新進作家を発掘する国際公募プログラムとして2013年にはじまり、“もうひとつの写真祭”として定着しています。
今年は、京都市内141会場で164の展覧会が行われ、21カ国から442名が参加し、市内各所で展開される多様な表現が地域と訪れる人々をつなげ、新たな発見や交流が生まれています。
最後に

『KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2026』は「写真とは何か?」という根源的な問いに対して、“境界に立ちつづけること”こそがその本質であると示しています。
京都という都市を歩きながら、私たちは単に作品を鑑賞するのではなく、世界の「際(きわ)」を体感し、それこそがこの写真祭の最大の価値だと思います。
【情報】
KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2026
会期:2026年4月18日〜5月17日
会場:京都市内各所 ※インフォメーション町家:八竹庵(旧川崎家住宅
開館時間:会場ごとに異なる
パスポート料金:一般 6000円(オンライン:5800円) / 学生 3000円 / エクスプレスパスポート 15000円 その他、各会場の単館チケット、無料会場、各種割引もあり
ホームページ:https://www.kyotographie.jp/programs/2026/