東西を越えて共鳴する女流画家の視線に注目!
2020年、猛威を振るった新型コロナウイルス感染症により、美術館、博物館、ギャラリーなどの文化施設に、なかなか訪れられない日々が続きました。
しかし、新しい生活様式のもと事前予約をはじめ、検温や消毒など徹底した感染症対策を行い、運営に努める施設関係者の思いに応えられるように、一人でも多くの方が美術館を訪れるきっかけとなるべく、展覧会の模様を伝える【ミュージアム・レポート】をスタートしました。
そのような経緯から松岡美術館にて開催中の「美しい人びと 松園からローランサンまで」をご紹介したいと思います。
松岡美術館は、実業家の松岡清次郎が蒐集した美術品を公開するため、1975(昭和50)年に設立された私立美術館です。
1917(大正6)年、貿易商から身を起こした清次郎は、若いころから書画骨董を愛し、約半世紀をかけて一大コレクションを築きました。彼の理想は自らの眼にかなった “美しいもの” を追い求め、蒐めていくこと…清次郎は国内外の美術展に足しげく通い、また精力的に海外へ赴いて、自分の審美眼を信じて生涯蒐集を続けました。
松岡美術館では、今回取材させていただいた企画展「美しい人びと 松園からローランサンまで」以外にも、その他企画展「古代オリエント 創造の源」や「憧憬のペルシア」、ガンダーラ仏教美術などの仏教彫刻など、古代から近代、西洋から東洋、多岐にわたる優れたコレクションが展示されています。
企画展「美しい人びと 松園からローランサンまで」では、上村松園の格調高い美人画をはじめ、鏑木清方、下村観山、伊東深水、さらにフランスのローランサン、ヴァン・ドンゲンらの女性像や男性像など、年齢や性別にとらわれない美しい人びとを描いた作品をお楽しみいただきます。
「美人画」という言葉が一般的になったのは明治期以降ですが、日本では古来より美しい女性の姿が描かれてきました。一方、物語の登場人物として人気の高い在原業平や光源氏など魅力的な男性の姿も絵画や工芸などにあらわされてきました。
今展では、上村松園、伊藤小坡、鏑木清方、伊東深水ら人気の高い「美人画家」たちの作品とともに、下村観山、吉川霊華らによる男性像や、ローランサン、ドニ、ヴァン・ドンゲン、ペルジーニなどの西洋絵画も紹介します。性別・年齢にとらわれない東西の美しい人びとをご覧になれます。
特に筆者が興味を持ったのは、日本の上村松園が描いた美人画と、フランスのマリー・ローランサンが手がけた絵画です。
両作品とも女性が描く女性(同性)だからこそ、心が奪われるほど美しく描かれながらも、エロティシズムの方向に表現するのではなく、心の奥に秘めた芯の強さが感じられることでしょう。日本とフランスという東西を越えて共鳴する視点に大変驚かされました。
また、男性作家と女性作家それぞれの視点で描かれた女性の持つ雰囲気の違いはもちろん、東西での共通点や相違点を見つけながら、会場に展示されているさまざまな作品をご覧になってみることで、新たな発見とともにアート鑑賞がより面白く感じられるでしょう。
その他にも、時代を超えて表現される「横たわる裸婦像」にも注目してみてください。
ルネッサンス期に古代ローマ神話のヴィーナス像として多くの画家たちが描いた「横たわる裸婦像」は、近代になると女神から人間の女性へと主題を転じ、物議を醸しながらも魅力的な画題として名作の数々が生み出されてました。
企画展「古代オリエント 創造の源」より紀元前5600年頃の《横たわる女人像》にはじまり、常設展示より西洋近代彫刻のヘンリー・ムア《横たわる女、肘》、そして企画展「美しい人びと 松園からローランサンまで」ではエンネル、ドニ、寺島龍一による変奏をご覧になってみてください。
古代から近代、西洋から東洋、多岐にわたる優れたコレクションが展示されている松岡美術館。
今回取材した企画展「美しい人びと 松園からローランサンまで」だけでなく、その他企画展「古代オリエント 創造の源」や「憧憬のペルシア」、そして常設展示もお楽しみください。
取材・撮影・文:新麻記子
【情報】
美しい人びと 松園からローランサンまで
会期 2023年2月21日(火)〜6月4日(日)
会場:松岡美術館
観覧料金 当日一般1,200円、25歳以下500円
高校生以下、障害者手帳をお持ちの方は無料
休館日 月曜日
お問い合わせ 03-5449-0251
HP:https://www.matsuoka-museum.jp/contents/7542/