世の中に深く影響を与えた約150点のプロダクト
2020年、猛威を振るった新型コロナウイルス感染症により、美術館、博物館、ギャラリーなどの文化施設に、なかなか訪れられない日々が続きました。
しかし、新しい生活様式のもと事前予約をはじめ、検温や消毒など徹底した感染症対策を行い、運営に努める施設関係者の思いに応えられるように、一人でも多くの方が美術館を訪れるきっかけとなるべく、展覧会の模様を伝える【ミュージアム・レポート】をスタートしました。
そのような経緯から21_21 DESIGN SIGHTにて開催中の企画展「The Original」をご紹介したいと思います。
企画展「The Original」では、世の中に深く影響を与えるデザインを「The Original」と定義し、紹介しています。
本展覧会ディレクターの土田貴宏氏、企画原案の深澤直人氏、企画協力の田代かおる氏が参加したプレス記者会見では、「「The Original」は必ずしもものづくりの歴史における「始まり」という意味ではありません。多くのデザイナーを触発するような、根源的な魅力と影響力をそなえ、そのエッセンスが後にまでつながれていくものだと」と語っていました。
生活の中にある多様なデザインは、その歴史のなかで影響し合い、時代に求められるかたちへと展開しつづけています。しかし、生活様式が目まぐるしく変化する現代社会では、そのデザインのエッセンスを見失いがちであるだけではなく、あふれる情報の中で、それに出会おうとする意欲すらも薄れているかもしれません。
世界の流行や潮流(トレンド)に適応することではなく、目の前にあるデザインの参照点であり、すべての端緒となる「The Original」をたどること。そしてあらためて見つめ直すことは、デザインの時間を超えた文脈と、それらを生み出したデザイナーたちとのつながりをもたらすでしょう。
会場では、デザインの第一線で活躍する3名—本展ディレクターの土田貴宏、企画原案の深澤直人と企画協力の田代かおるによって選ばれた約150点のプロダクトを展示。
家具、食器からテキスタイルや玩具などの「The Original」が並び、あわせてその魅力を伝える写真やテキスト、選考過程や関係性を説明する資料などを通して、「The Original」の背景にある考え方をあますところなく紹介しています。
私たちの暮らしを取り囲んでいる、多様なデザインを紹介する本展から、特に筆者が注目したのは、ル・コルビュジェを嫉妬させたことでも有名なアイリーン・グレイによる作品です。
前衛的なモダンデザイン家具を生み出し、今やモダニズムの代表と言われる、アイルランド出身の女性建築家、インテリア・プロダクトデザイナーのアイリーン・グレイは、その確かな独創性と根源的な魅力、そして純粋さ、大胆さ、力強さをそなえた作品を生み出しました。
会場では、1920年代に南仏のコートダジュールに設計した住宅「E1027」のために作られ、11段階で高さ調節ができるアジャスタブルテーブルや、世界中のデザインミュージアムのコレクションとなっている名作照明のチューブライトがご覧になれます。
私たちの日常にあるデザインを見ていくと、創造の原点となったものは、個人と社会のヴィジョンの交差によって生まれてきたとも言えます。
揺れ動く時代においてなお、「The Original」として再び目を向けることが、未来のデザインを生み出し、思考や行動の可能性を広げることにつながることでしょう。
取材・撮影・文:新麻記子
【情報】
企画展「The Original」
会期:2023年3月3日(金) – 6月25日(日)
会場:21_21 DESIGN SIGHT ギャラリー1&2
休館:火曜日(3月21日は開館)
開館時間:10:00 – 19:00 (入場は18:30まで)
入場料:一般1,400円、大学生800円、高校生500円、中学生以下無料
HP:https://www.2121designsight.jp/program/original/index.html