2020年、猛威を振るった新型コロナウイルス感染症により、美術館、博物館、ギャラリーなどの文化施設に、なかなか訪れられない日々が続きました。
しかし、新しい生活様式のもと事前予約をはじめ、検温や消毒など徹底した感染症対策を行い、運営に努める施設関係者の思いに応えられるように、一人でも多くの方が美術館を訪れるきっかけとなるべく、展覧会の模様を伝える【ミュージアム・レポート】をスタートしました。
そのような経緯から国立新美術館にて開催される「イヴ・サンローラン展 時を越えるスタイル」をご紹介したいと思います。
イヴ・サンローラン
1936年、アルジェリアの港町オランで生まれ、裕福な家庭で育ったイヴ・サンローラン。
17歳でパリオートクチュール組合経営の学校に入学し、国際羊毛事務局(IWS)主催のデザインコンクールに参加し、ドレス部門で1位と3位を獲得しました。
そのコンクールの審査員だった『ヴォーグ・パリ』のディレクターが、イヴのファッションスケッチを見て、友人であるクリスチャン・ディオールのものに似ていることに驚き、彼に紹介しました。
55年、サンローランはクリスチャン・ディオールのアシスタントとして迎え入れられます。57年、亡くなったディオールの遺志により21歳で後継デザイナーに就任し、ディオールで6つのコレクションを手掛けましたが、60年、アルジェリア戦争に徴兵されたことでディオールを去ってしまいます。
61年、PR系で実績のあるピエール・ベルジェとともに、自身のオートクチュールメゾンを設立します。
それ以後、世界のファッションシーンをリードし、サファリ・ルック、パンツスーツ、ピーコート、トレンチコートといったアイテムを定着させるなど、女性たちのワードローブに変革をもたらしました。
彼が生み出すエレガントで革新的なデザインは、創業当初から世間の脚光を浴び、ニューモードなスタイルは好評を呼び、20世紀のフランスのファッション業界をリードしました。
2002年の引退まで半世紀にわたり活躍し、「モードの帝王」と呼ばれました。
本展覧会について
今回開催される展覧会は、なんとイヴ・サンローランの没後、日本では初めての大回顧展です。
会場では、サンローラン独自のスタイルを確率するまでの40年にわたる歴史を、オートクチュールのルック110体のほか、日本初公開のドレス、アクセサリー、ドローイング、映像や写真を含む262点が公開され、12章構成で余すところなくご紹介。
彼のデザインの美しさや革新性、独創性を存分に堪能することができます。
本展は、ファッション好きのかたやデザインに興味のあるかたにとって、彼のデザイナーとしての人生と創造に迫りながら、そのデザインの哲学やスタイルの進化を探れる機会となります。
現代にまで続く普遍的なスタイル
サンローランは、1960年代において男性のものという認識がまだ根強かったパンツスタイルを積極的に取り入れるなど、衣服が持つジェンダーのイメージを超越してデザインすることで、時代が求める新しい女性らしさやエレガンスを生み出しました。
1966年にはプレタポルテ(既製品)へ参入したこともあり、サンローランが提案したスタイルは急激に広がり、ピーコート、パンツスーツ、トレンチコート、タキシードなど、先駆的に紳士服を女性向けに改良したスタイルが注目されるようになりました。
会場では、現在では女性のワードローブとして既に定着している普遍的なスタイルが展示されています。
文化、歴史、芸術作品から着想を得たデザイン
サンローランは、鮮やかな色彩や独特な形によって表された異国情緒溢れる幻想的なデザインや、ヨーロッパの歴史からなる特徴的な装いを取り込んだデザイン、芸術作品とファッションを組み合わせたデザインを生み出しました。
彼は、文化、歴史、芸術作品などに敬意を払いながら、それらから受けた素晴らしいインスピレーションをもとに、ファッションとの融合を提案することで、伝統的なオートクチュールモードの世界に新風を吹き込んでいきました。
会場では、「Chapter4:想像上の旅」、「Chapter5:服装の歴史」、「Chapter9:アーティストへのオマージュ」にて、展示されているさまざまなスタイルから、それらを感じ取ることができるでしょう。
最後に
20世紀後半における偉大な才能であるイヴ・サンローランから生み出される、唯一無二でありながら豪華絢爛な美の世界を間近で堪能できる大変貴重な本展。
ファッションと芸術の融合が楽しめるので、この機会にぜひイヴ・サンローラン展に足を運んでみてはいかがでしょうか。
取材・撮影・文:新麻記子
©︎ Musée Yves Saint Laurent Paris
【情報】
イヴ・サンローラン展 時を超えるスタイル
会期:2023年9月20日(水)~12月11日(月)
開館時間:10:00~18:00
※毎週金・土曜日は20:00まで ※入場は閉館の30分前まで
会場:国立新美術館 企画展示室1E 〒106-8558 東京都港区六本木7-22-2
休館:毎週火曜日休館
HP:https://ysl2023.jp/