【弥生美術館】「大正の夢 秘密の銘仙ものがたり」展

2020年、猛威を振るった新型コロナウイルス感染症により、美術館、博物館、ギャラリーなどの文化施設に、なかなか訪れられない日々が続きました。

しかし、新しい生活様式のもと事前予約をはじめ、検温や消毒など徹底した感染症対策を行い、運営に努める施設関係者の思いに応えられるように、一人でも多くの方が美術館を訪れるきっかけとなるべく、展覧会の模様を伝える【ミュージアム・レポート】をスタートしました。

そのような経緯から弥生美術館にて開催中の「大正の夢 秘密の銘仙ものがたり展」をご紹介したいと思います。

弥生美術館について

弥生美術館は、昭和59年(1984)6月1日に、弁護士・鹿野琢見によって創設されました。

昭和4年、9歳の鹿野少年は当時一世を風靡していた挿絵画家・高畠華宵が描いた一枚の絵「さらば故郷!」と出会い、36年後に幼い日の感動を綴った手紙を送ったのがきっかけで二人の親交がスタート。

高畠華宵は「華宵の会」の発足、上野松坂屋での展覧会など、再び脚光を浴びましたが、翌年78歳でこの世を去りました。その後、華宵の死から18年後、華宵の著作権を得た鹿野琢見は、華宵のコレクションを公開すべく、念願の弥生美術館創設を果たしました。

現在、弥生美術館では年4回3ヵ月ごとに企画展を行っています。(1~3月/4~6月/7~9月/10~12月)

弥生美術館の1・2階の展示室では、明治末から戦後にかけて活躍した挿絵画家をはじめ、挿絵・雑誌・漫画・付録などの出版美術をテーマに企画展を開催しています。3階展示室は高畠華宵の常設展示室で、3ヶ月ごとにテーマを変えながら、常時約50点の華宵作品を公開しています。

本展について ー銘仙でみるgirl’s Historyー

アンティーク着物ブームの牽引役として登場した〈銘仙〉(めいせん)。大正から昭和初期に女学生を中心に大流行した着物ですが、現代の着物にはない斬新な色柄が多く、胸ときめきわくわくさせられます。

本展では、銘仙蒐集家・研究家である桐生正子氏の約600点のコレクションから選び抜いた約60点の銘仙を紹介します。また、着物スタイリストの大野らふ氏による当時を再現したコーディネートも必見です。

100年前の女学生文化は新しいことの連続、ささやかな闘いの歴史です。伝統的な日本の価値観に西洋の文化や考え方が流入してきた時代。そんな過渡期に生まれた若い女性たちのカルチャーを、銘仙を通して紐解いていきます。

大流行した着物 “​​銘仙(めいせん)”とは?

銘仙とは、大正から昭和初期に大流行した絹の着物地の一つであり、鮮やかな色合いと大胆な柄が特徴の普段着の着物です。

当時、絹製品としては安価だったことから親しまれ、女学生の通学着や若い女性のオシャレ着として、そのお洒落な装いから人気を博しました。

大正末期から昭和初期、各百貨店が新作銘仙を販売することで売り上げを伸ばし、デパートが富裕層のものから、中産階級まで間口を広げる起爆剤ともなりました。

1925年(大正14年)の[考現学]調査では、銀座を歩く女性の約半数が銘仙だったと報告されています。しかし、昭和30年代には洋装が広く定着したことから、ほぼ​​銘仙の生産は中止となってしまいました。

しかし、2000年頃のアンティーク着物ブームで再注目され、その魅力が広く知られるようになりました。

1920年代〜1930年代に花開いた日本のモダンデザイ ンのひとつとして、海外では評価が高まり、英国、豪州、オランダなどの国立美術館などにも所蔵されています。

本展の見どころ

本展は、2022年8月伊勢丹新宿店を皮切りに、2022年9〜11月岡山・新見美術館にて好評を博した、「大正の夢 秘密の銘 仙ものがたり展」がパワーアップし、再構成されたものです。

会場では、銘仙は鮮やかな色合いだけでなく、斬新なデザインの装いが展示されており、その柄の傾向から「Neo Classic」「Girlish」 「Geometric」「kitsch」の4つのカテゴリーに分けて紹介しています。

また、銘仙蒐集家である桐生正子氏の素晴らしいコレクションから、中間展示替えを行い、多数の作品が展示されます。着物だけでなく、大正末〜昭和初期の帯・小物を使ったコーディネートも注目です。

その他、竹久夢二の描く美人画にちなんだ弥生美術館展のためのコーディネートが紹介されています。

最後に

正統派、カジュアル、和洋mixなどの着物女子をSNSで数多く見かけますが、その多くは着物を元気に、楽しく着ている姿が印象的です。

そのルーツはアンティーク着物の旗振り役だった銘仙にあるといってもいいでしょう。ポップな色や斬新な柄は昭和初期の若い女性を虜にしました。

女性が社会に進出するなか、日常生活において活動もしやすく、カジュアルにお洒落であり、自由な空気をまとった銘仙は、当時の女性たちの「戦闘服」の役割を果たしました。

そんな数々の銘仙の着物を眺めているだけでも楽しく、そんな当時の空気感を楽しめる本展に、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか?

取材・撮影・文:新麻記子

【情報】
アンティーク着物の魅力再発見! 大正の夢 秘密の銘仙ものがたり展
会期:2023年9月30日(土)~12月24日(日)
会場 弥生美術館 1階~2階
   〒113-0032 文京区弥生 2-4-3
休館日:毎週月曜、11月14日(火)
    *ただし、10月9日(月祝)開館、翌10日(火)休館
    *11月14日(火)は中間展示替えのため臨時休館
開館時間:10:00~17:00(入館は 16:30 まで)
★全館写真撮影 OK!
★同時開催 弥生美術館3階会場 高畠華宵展
                  竹久夢二美術館 明治・大正・昭和 レコードの時代と夢二の時代展
ホームページ:https://www.yayoi-yumeji-museum.jp/