【横浜・そごう美術館】『111年目の中原淳一展』

展示風景

 

アイティーエル株式会社では、一人でも多くの方が美術館や博物館を訪れるきっかけとなるべく、2020年7月より【ミュージアム・レポート】を開始いたしました。

困難な状況下においても美術館・博物館ではさまざまな企画や対策をおこなっていることから、全てのアートシーンに対してこれからも変わらず応援していくべく、アイティーエルも継続して情報を発信していきたいと思います。

今回は、横浜・そごう美術館にて開催中の『111年目の中原淳一展』をご紹介します。

中原淳一とは?

中原淳一(1913‐1983)は、戦前から戦後にかけて「ほんとうの美しさ、豊かさ」を追求し、ファッションデザイン、インテリアデザイン、雑誌編集、イラストレーションなど、幅広い領域で活躍したマルチクリエーターです。

昭和初期、少女雑誌「少女の友」の人気画家として一世を風靡し、 戦後1年目の1946年には独自の女性誌「それいゆ」を創刊、続いて「ひまわり」「ジュニアそれいゆ」などを発刊しました。

当時、戦前・戦中と人々は夢も希望も忘れ、未来や幸福について考えるより、生きることに必死な時代において、女性たちにファッションも、暮らしも、心も、「美しくあれ」と幸せに生きる希望の光を灯し、女性たちから圧倒的に指示されただけでなく、後世のアーテイストにも大きな影響を与えました。

本展覧会について

展示風景(『それいゆ』の表紙、時代に合わせて描き方が変わっていている)

中原淳一の生誕111周年を記念する本展では、『それいゆ』、『ひまわり』、『ジュニアそれいゆ』、『女の部屋』などの雑誌での仕事のほか、アーティストとして生み出した絵画や人形などの作品を通じて、彼の多彩なクリエイションの全貌を紹介します。

“『いつまでも古くならないもの』それこそがむしろ、もっとも『新しい』ものだとはいえないでしょうか。”という中原淳一氏の言葉にもあるとおり、今尚輝き続ける普遍的な感性に驚かされます。

中原氏が生み出した色褪せないファッションデザイン、インテリアデザイン、イラストレーションの作品はもちろん、上記のような中原氏の言葉も合わせて展示されており、美の本質を追い求めつづけた彼の人となりにも寄り添うことができるでしょう。

また、会場では一部のエリアでは撮影可能となっており、彼のデザインを実物で展示した洋装・和装のほか、細かくコメントが入ったイラスト原画、その素晴らしいアイディアも写真に収めることができます。

本展覧会の見どころ

「新しい」少女のために

展示風景

戦前に発行されていた雑誌『少女の友』で中原の挿絵画家としての活躍がスタートしました。

大きな瞳や細長い手足をもった西洋的な中原の「新しい少女」像は、その可愛さから現代のアイドルのように熱狂的に支持され、そのエッセンスは後の少女漫画に大きな影響を与えていきます。

会場では、川端康成や吉屋信子の小説や白雪姫や人魚姫の童話などの挿絵に起用された、とても可愛らしい作品がご覧になれます。

「美しい暮らし」のために

展示風景(着物のコーナーより)

ファッション、インテリア、美容、手芸、文学、音楽、美術に至るまで、美の本質を追い求めた中原の思いを雑誌『それいゆ』での仕事を中心に紹介します。表紙画やスタイル画の美しさはもちろん、斬新なページレイアウトや鋭い視点のメッセージが、今また新鮮に目を奪います。

特に筆者が面白いと感じたのは、中原氏が衣服や生地を再利用したリメイクやアップリケをを多用し、洋装・和装分け隔てなく布を、「自ら工夫して」「美しく」組み合わせる実例を示し、服に「自分らしさ」のエッセンスを工夫して加えていく楽しさを提案をした作品です。

困難な時代のなかで “美しく” “愉しく” というのは、知性を高めて工夫する精神を持ち合わせ、美しさをキャッチする審美眼を鍛えることで得られるものだったということが伺えます。

平和の時代の少女のために

展示風景

戦争によって少女時代を奪われた女性たちのため、中原は1947年に雑誌『ひまわり』を創刊します。

「よき女性の人生は、よき少女時代を送った人に与えられるのではないか」と情熱をもって作られた雑誌が、新しい時代の少女たちに夢を与えていきました。

着こなしやヘアスタイル、小物選びなど、ファッションに関する事柄を絵と文章で丁寧に解説されているだけでなく、なかには中原氏自身がデザインした服の仕立て方とその型紙もありました。

中原淳一の原点と人形制作

展示風景(中原淳一氏が手がけた油彩画)

中原は少年時代、絵と読書、そして人形作りに強い関心をもっていました。

10代のころにつくられた詩画集や油絵、デビューのきっかけとなった人形作品など、アーティスト・中原淳一の創作も紹介していきます。

特に筆者が驚いたのは中原氏による油彩画でした。作中のモデルは姉を描いているのですが、その姉が着用している洋服は、中原氏自らがデザインして作ったものだそうで、後の彼の功績への片鱗が伺えました。

最後に

文化的コンテンツが制限された戦時下での暮らし、そして混乱を極めた激動の敗戦後の生活において、心にゆとりを持って衣食住をコントロールして、通常の毎日を送ることは容易くなかったでしょう。

1946年、中原氏が新しく世に送り出した『ソレイユ』は花に例えられ、私たちは「花を飾る様な心」を持つ「人間」なのだ!という想いから、この雑誌を手に取ることで人間であることの “尊さ” を思い出してほしいという願いが込められています。

昨今、ウクライナやパレスチナ情勢など世界各地で悲しいニュースが飛び交っている日々において、暗く沈んだ時代にも美しく生きるための道筋を示した彼の考え方を胸に留めておきたいと感じました。

彼の心に刺さる熱いメッセージ、ほんとうの美しさや豊かさを求めた人生、そして今尚輝き続ける普遍的な感性の作品をご覧になりに、本展覧会に足を運んでみてはいかがでしょうか。

取材・撮影・文:新麻記子

【情報】
『111年目の中原淳一展』
会期:2023年11月18日(土)~2024年1月10()
会場:横浜・そごう美術館
時間:10:00~20:00
※入館は閉館の30分前まで
※12月31日(日)、2024年1月1日(月・祝)は18:00閉館。
※そごう横浜店の営業時間に準じ、変更になる場合があります
休館日:会期中無休
ホームページ:https://nakahara111.exhibit.jp/