【山王美術館】「山王美術館コレクションでつづる 印象派展」

アイティーエル株式会社では、一人でも多くの方が美術館や博物館を訪れるきっかけとなるべく、2020年7月より【ミュージアム・レポート】を開始いたしました。

困難な状況下においても美術館・博物館ではさまざまな企画や対策をおこなっていることから、全てのアートシーンに対してこれからも変わらず応援していくべく、アイティーエルも継続して情報を発信していきたいと思います。

今回は、山王美術館にて開催中の開館15周年記念「山王美術館コレクションでつづる 印象派展」をご紹介します。

600点ものコレクションを所有する山王美術館

大阪・京橋にある山王美術館は、ホテルモントレ株式会社の創立者が50数年にわたり収集したコレクションを公開・展示する美術館として、2009年8月27日に開館しました。

開館から10年余りを経て、ホテルモントレグラスミア大阪22階から、大阪城公園の北に位置する大阪を代表するビジネス街・大阪ビジネスパークへと移転し、新たに独立館として2022年9月2日にオープン。

同館では、日本の洋画界にも大きな影響をあたえた、コロー、ミレー、モネ、ルノワール、ヴラマンクなどのフランス絵画をはじめ、藤田嗣治、佐伯祐三らの洋画家、また横山大観、上村松園らの日本画家、さらに板谷波山、河井寬次郎らの陶芸家と、明治から昭和にかけて活躍した近代日本美術界を代表する名匠の作品を幅広く所蔵しています。

600点におよぶコレクションは、近代の西洋絵画・日本洋画・日本画・陶磁器・彫刻と多岐にわたり、そのいずれもが「ここでしか会うことのできない芸術作品」をテーマに、春と秋の年2回、コレクションのみで構成される展覧会が開催されています。

印象派の歴史を紐解く

第1回印象派展から150周年を迎える2024年は、日本各地で数多くの印象派展が開催され、山王美術館にて開催中の開館15周年記念「山王美術館コレクションでつづる 印象派展」もそのうちの一つです。

絵画界において伝統的な技法を保持しようとするアカデミズム絵画が主流であり、サロンの入選が唯一の作品発表の機会でしたが、こうした時代に意義を唱えたのが、のちに「印象派」と称される画家グループです。

モネやルノワールを中心とする画家たちは、クールベやマネによる自然のあるがままの姿を捉えた風景画や人物画などの写実主義を継承しながら、アカデミックな価値観に囚われない絵画表現を目指しました。

展示風景_ルノワール作品群

光のもとで制作することを重視した彼らは、「筆触分割」という新たな技法を生み出し、西洋絵画における色彩の観念を根底を覆し、革新的な絵画作品を次々と発表していったのです。

会場では、印象派の先駆者ともいえるコロー、ミレー、クールベから、印象派における中心的な存在として活躍したモネ、ルノワール、ドガ、シスレー、そして印象派以降のゴーガン、ルドンの作品を展示しています。

印象派を中心に「フランス絵画の革新者たち」による絵画で構成

展示風景

【第1章|印象派の先駆者たち】では、コレクションの中から、印象派の先駆者ともいえるバルビゾン派のコロー、ミレー、そしてレアリスムを代表するクールベの作品が並びます。

現実を理想化して表現するそれまでの絵画を否定し、市井に生きる人々や風景を、自分がみて感じるままに、目の前の世界をあるがままに描いた作品は、ロマン主義のような理想化がありません。

現代に生きる私たちからすれば当たり前の感覚ですが、当時の保守的な人びとにとっては、それはとても革新的なことだったでしょう。

展示風景_ドガ作品群

【第2章|印象派の画家たち】では、印象派の中心的存在として活躍していたシスレー、モネ、ルノワール、ドガの作品をご覧になることができます。

作品には日本の浮世絵を思わせるような大胆な構図のほかに、鮮やかな色彩やリズミカルな筆触を用いた技法「筆触分割」を用いて、自分の目の前にある豊かな自然の様相を捉えています。

人物画をあまり描かないクロード・モネが、1892年に再婚した妻アリス・オシュデの4人の子供たちをパステル画で描いた「オシュデ家の4人の子どもたち(ジャック、シュザンヌ、ブランシュ、ジェルメーヌ)」(1880年代初頭)の貴重な作品も展示!

クロード・モネ≪オシュデ家の四人の子どもたち(ジャック、シュザンヌ、ブランシュ、ジェルメーヌ)≫1880年代初頭、山王美術館蔵

【第3章|印象派を越えて】では、印象派以降の絵画の潮流を形成した象徴主義のルドン、ポスト印象派 / ナビ派のゴーガンの作品が展示されています。

中でも、近年所蔵した中から本展覧会で初展示となる、ゴーガンが27歳の時に描いた《カイユ工場とグルネル河岸》(1875年)に注目してみましょう。

作品には、ゴーガンの自宅から10分ほどのイエナ橋から臨む蒸気ボイラーなどを製造していたセーヌ河岸の工場の様子が描かれ、近代を象徴する題材への彼の関心を見ることができます。

ゴーガンはピサロを介して印象派に憧れ、その画風を学ぶのは1877年以降となるため、本作は画家として専念する以前の、ゴーガン初期の画風を知ることができる希少な作例だと教えていただきました。

展示風景

5階と3階の常設展も見逃さないで!

展示風景

本展と連動して5階の常設展では日本画、そして3階の常設展では洋画作品、それぞれ印象派の画家たちに影響を与え、そして西洋絵画から影響をうけた日本美術に触れられる展示を展開しています。

日本絵画に見られる平面性や装飾性、そして鮮明な色彩による大胆な配色、非対称な構図やクローズアップを用いた画面構成、空間の広がりを想像させるトリミングなど、それは当時の西洋絵画とは異なるもので、彼らは浮世絵から見出した日本美術の特徴を自身の表現へと取り入れていきました。一方、明治以降では西洋絵画の流入により、西洋に見られる絵画技法などをうけ、日本美術も変容していきます。

展示風景_上村松園作品群

5階の日本画の会場では、日本の自然観照に根ざした風景画・花鳥画を描いた幸野楳嶺・川合玉堂・上村松篁・上村淳之、伝統をふまえながらも独自の美人画へ至った上村松園・伊東深水、新たな潮流のなか古典絵画の精神を研究した小林古径・前田青邨らとともに、印象派の技法を思わせる堂本印象・杉山寧・東山魁夷らの日本画を展覧しています。

また3階の日本洋画の会場では、外光派の黒田清輝、藤島武二、戸外制作を重視した金山平三、向井潤吉、荻須高徳、ドガに私淑した小磯良平、印象主義的な技法の影響がうかがえる佐伯祐三、安井曾太郎、さらに点描様式にいたった岡鹿之助らの日本絵画を中心に展示しています。

展示風景

最後に…

会場入口_ピエール・オーギュスト・ルノワール《勝利の大ヴィーナス》1915-1916年

上記の【第3章|印象派を越えて】で紹介させていただいたゴーガンによる作品以外にも、ミレー1点、クールべ1点、シスレー3点、ドガ3点、ルドン1点、新コレクションの10点が初展示されます。

第1回印象派展から150周年を迎え、各地で印象派展が開催されるからこそ、豊富なコレクションのみで構成され、「ここでしか会えない芸術作品」に出会える本展覧会を抑えておきたいところ!

ぜひ大阪に足を運んだら山王美術館に足を運んでみてはいかがでしょうか?

取材・撮影・文:新麻記子

【情報】
開館15周年記念「山王美術館コレクションでつづる 印象派展」
会期:2024年3月1日(金)~ 7月29日(月)
会場:山王美術館(4階展示室)
開館時間:10:00〜17:00(入館は16:30まで)
休館日:火・水曜日(祝日は開館)
ホームページ:https://www.hotelmonterey.co.jp/sannomuseum/exhibition/202403.html