アイティーエル株式会社では、一人でも多くの方が美術館や博物館を訪れるきっかけとなるべく、2020年7月より【ミュージアム・レポート】を開始いたしました。
困難な状況下においても美術館・博物館ではさまざまな企画や対策をおこなっていることから、全てのアートシーンに対してこれからも変わらず応援していくべく、アイティーエルも継続して情報を発信していきたいと思います。
今回は、大阪中之島美術館にて開催中の初期から晩年の優品が一堂に介す『没後50年 福田平八郎』をご紹介します。
福田平八郎とは?
福田 平八郎(ふくだ・へいはちろう)は、大正時代から昭和時代にかけて京都で活躍した日本画家です。
色、形、構成、視点に工夫を凝らし、色鮮やかで洗練された作品を手がけ、日本画の装飾性と自然観察に基づく写実を生んだ画像として知られています。
鋭い観察眼から対象がもつ雰囲気や、美しさを抽出した表現が特徴とされ、波風に揺れる水面を簡潔な構成で描いた《漣》(重要文化財) などが有名です。
福田平八郎は「凡人」の姿勢を大事にしていました。大好きだった魚釣りは自分を凡人にしてくれる趣味だったとか。画業のうちの多くは雅号を使わず本名で通したところに、飾らない人柄が表れているようです。
本展覧会について
企画展「没後50年 福田平八郎」は、関西では17年ぶり、大阪の美術館では初となる平八郎の回顧展です。
《漣》(重要文化財、大阪中之島美術館)、《竹》(京都国立近代美術館)、《雨》(東京国立近代美術館)などの代表作を筆頭に、初公開となる《雲》(大分県立美術館)など、初期から晩年にいたる優品約120件以上を一堂に集め、平八郎の画業を紹介し、その魅力に迫ります。
また「写生狂」を自称した画家の瑞々しい感動や、ユニークな目線を伝えるスケッチ類も紹介し、名作誕生の背景を探ります。
きっと、色や形、視点や構成に工夫を凝らした独自の芸術を確立した作品の数々は、現代の私たちにも新鮮な驚きと感動を与えてくれるでしょう。
手探りの時代と写実への探求
1910年(明治43年)に上洛した平八郎は翌年京都市立美術工芸学校に入学、1915年(大正4年)からは京都市立絵画専門学校(絵専)で学びました。
卒業後や初期の作品では、高い描写力や独特の構成により技術力の高さが見られる一方、熱心な研究の結果や他画家らの描き方の影響が見られ、創作に向けた熱心な研究の成果がご覧になれることでしょう。
京都市立絵画専門学校の先生である中井宗太郎の助言に従い、自然をよく観察して描くという客観的な見方の追求を始め、手探りの時代を脱する兆しがみられるようになりました。
卒業後の1919年(大正8年)、第1回帝展に《雪》が初入選し、翌年の第2回展に《安石榴》が入選、大正10年の第3回展では《鯉》が特選となり宮内省買い上げとなるなど、入念な観察に基づく写生を重視した新しい表現が評価されていきます。
鮮やかな転換と新たな造形表現への挑戦、そして自由で豊かな美の世界へ
1928年(昭和3年)、写実を極めた平八郎は、中国旅行で「自然の大花鳥」に接したことで、細部を超越して全体の雰囲気や、自然の生き生きとした生命感を表現することの重要性に気づき、直感的に自然と向き合うようになりました。
平八郎は人々が日常目にしているものを、誰もが見たことのない視点から捉え、自由な発想で表現をつづけていきます。
中期の作品に着目してみると、だんだん形態を単純化していき、鮮烈な色彩、大胆な構図、斬新な切り取りなどを特徴とした、独自の装飾的な表現へと展開していき、鑑賞者を驚かせます。
その後、日常への温かいまなざしと、自然を捉える斬新な視点によって、人々を魅了する作品を描いていきます。
晩年期の作品はトリミングやクローズアップだけでなく、濃淡や陰影を敢えて抑えるなど、これまでの写生に基づき、要素を極限まで削ぎ落とした表現を目にすることができます。
水の表現に着目した展示
風に波を立てる水面をプラチナ箔、金箔の上に群青をのせて表現し、近代日本画の新境地を拓いたとされる《漣》。
会場では、《漣》のスケッチとフレームなどの資料も併せて展示されており、スケッチに描かれている波のどの部分を自身の作品に描いたのかがわかります。
また、代表作の《漣》以外にも水の表現に着目した作品展示なども行っており、特に筆者が気になったのは一見ギョッとしてしまうサイケデリックさが際立っている《水》です。
平八郎は《水》の作品に対して、「私はずいぶん昔から何とかして水を描きたいと思っていた。…30年前から描きたいと思っていたものが今年ようやく出来たのだ」という言葉が残っているほど、流動的な液体の表現を探求したと言えるでしょう。
最後に
色、形、構成、視点に趣向を凝らした作品を制作し、「写実に基づく装飾画」という新しい時代の芸術を確立した、福田 平八郎の初期から晩年までの作品を巡りながらその画業を紹介する本展覧会。
会場内で言及はされていないものの…印象派(後期印象派)が日本に伝わり、きっと平八郎の目にも触れていたことから、光を捉える眼差しや鮮やかな色使い、そして浮世絵からヒントを得たとされる構図など、その印象派の特徴が平八郎による日本画でも同じように表現されているように感じました。
大阪中之島美術館で同時開催中の『モネ 連作の情景』から、岩絵具の日本画と油絵具の洋画、日本とヨーロッパ、時代や距離を越えて、表現媒体も異なっていても、どこか繋がっているように感じてしまう不思議さも味わってほしいと思います。
取材・撮影・文:新麻記子
【情報】
「没後50年 福田平八郎」
会期:2024年3月9日(土)〜5月6日(月・休) 会期中に展示替えあり
会場:大阪中之島美術館 4階展示室
住所:大阪府大阪市北区中之島4-3-1
開場時間:10:00〜18:00(入場は17:30まで)
休館日:月曜日(4月1日(月)・15日(月)・22日(月)・29日(月・祝)、5月6日(月・休)は開館)
観覧料:一般 1,800円(1,600円)、高・大学生 1,000円(800円)、中学生以下 無料
※障がい者手帳などの所持者および介護者1名は、当日料金の半額(要証明)
※()は20名以上の団体料金
ホームページ:https://nakka-art.jp/exhibition-post/fukudaheihachiro-2023/
■巡回情報
・大分県立美術館
会期:2024年5月18日(土)〜7月15日(月・祝)
住所:大分県大分市寿町2-1