10連作のM式「海の幸」シリーズは圧巻!森村作品から未来を予想してみよう
まだまだ新型コロナウイルス感染症により、美術館、博物館、ギャラリーなどの文化施設に、気軽に訪れられない日々が続いています。
しかし、そんな状況下に負けじとオンラインチケットで密を防ぎ、検温や消毒など徹底した感染症対策を行いながら、運営に努める施設関係者の思いに応えられるように、一人でも多くの方が美術館を訪れるきっかけとなるべく、展覧会の模様を伝える【ミュージアム・レポート】をスタートしました。
そのような経緯から、アーティゾン美術館にて開催中の『ジャム・セッション 石橋財団コレクション×森村泰昌 M式「海の幸」ー森村泰昌 ワタシガタリの神話』をご紹介します。
「ジャム・セッション」とは、石橋財団コレクションと現代美術家の共演です。
今回、ジャム・セッションに選ばれた現代美術作家の森村泰昌は、1985年にゴッホの自画像に扮するセルフポートレイト写真を制作して以降、今日に至るまで古今東西の絵画や写真に表された人物に変装し、独自の解釈を加えて再現する「自画像的作品」をテーマに制作しつづけているアーティスト。
森村氏は、以前から石橋財団が所蔵する青木繁《自画像》(1903年)、《海の幸》(1904年)にインスピレーションを得た作品を制作するなど、青木作品へ密かな想いを寄せていました。
本展覧会では、改めて《海の幸》と本格的に向き合い、当作品が制作された明治期以降の日本の文化、政治、思想などの変遷史を“森村式”、略して“M式”「海の幸」として形象化し、青木氏への熱い想いを新たなる作品シリーズへと昇華させています。
会場では財団のコレクションより青木作品約10点と、青木繁の人物や作品に扮した森村作品約60点を展示。そのうち50点以上は本展覧会のために制作された森村氏による新作です。
『芸術表現におけるアレクサンダー大帝になりたい』と言葉を遺すほど自信に満ち溢れていたものの、28歳の若さで亡くなってしまった青木繁との対話から生み出された森村氏による作品からは、青木繁への尊敬と作品再現への情熱が伝わってきます。
《海の幸》についての作品解釈をテキスト化しているランゲージアートをはじめ、その作品を再現するために研究を重ねたジオラマ、制作へのプロセスがわかる数冊のノート、何度も実験的に描画・彩色を施した習作。
そして、森村氏自身が作中に着用したオリジナル衣装のほかに、メイク、スタイリング、撮影などをスタジオでたったひとりで試み、85名の登場人物を演じ分けている姿を垣間見ることができる映像作品がご覧になれます。
中でも、円環状の展示空間に展示されている10連作のM式「海の幸」シリーズは、青木繁が活躍していた明治から、大正、昭和、平成、そして未来へと続く日本の文化や歴史を舞台に、青木作品《海の幸》への分析と研究を重ねた自身の身体を介して表現した森村氏渾身の作品です。
シリーズでは日清戦争・日露戦争や学生運動などの影を落とす出来事もあれば、東京オリンピックや大阪万博など復活を象徴する明るい出来事もあり、これまでの日本の大きな歴史的瞬間を象徴する場面をご覧になることができます。
そして、マスクとガスマスクをつけている森村氏の姿からコロナ禍の現在が象徴され、遮光式土偶の面をつけて棒状のものを持っている森村氏の姿からは未来を想起されるとともに、入室して最初に鑑賞することができる「海の幸」へと戻るように促されていることから、繰り返される歴史の本質に触れているかのような感覚になることでしょう。
それを象徴するかのように、青木繁に扮する森村氏が白いカンヴァスに向かって青木繁に向かって語りかける映像作品では、どうして《海の幸》が名画と言われるのか、我々はどこから来たのか 我々は何者か という問に対する答えを、森村氏なりに独自解釈し、展開していました。
本展覧会を通して何より驚いたのは森村氏の作家への尊敬と作品へのリサーチ、そして自身の作品シリーズへと昇華・展開していくための絶え間ない努力と情熱です。
だからこそ、森村氏が思い描いた想像のビジョンは、M式「海の幸」シリーズや映像作品のように、未来を感じ取ってひとつの答えを見つけられるのかもしれません。
ぜひ、森村作品からあなたも想像を膨らませて未来に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。
取材・撮影・文:新麻記子
【情報】
ジャム・セッション
石橋財団コレクション×森村泰昌 M式「海の幸」ー森村泰昌 ワタシガタリの神話
会期:2021年10月2日〜2022年1月10日
会場:アーティゾン美術館
住所:東京都中央区京橋1-7-2
開館時間:10:00〜18:00(金〜20:00) ※入館は閉館の30分前まで
休館日:月(1月10日は開館)、12月28日〜1月3日
料金:ウェブ予約チケット 1200円(当日チケット[窓口販売]1500円) / 学生無料(要予約)
公式ウェブサイト:https://www.artizon.museum/exhibition/detail/64