圧倒的な立体感を持って命が吹き込まれた“深堀金魚”
新型コロナウイルス感染症の状況が落ち着きつつあり、なかなか気軽にとまではいきませんが、美術館、博物館、ギャラリーなどの文化施設に、訪れることができるようになりました。
現在、新しい生活様式のもとオンラインチケットで密を防ぎ、検温や消毒など徹底した感染症対策を行いながら、運営に努める施設関係者の思いに応えられるように、一人でも多くの方が美術館を訪れるきっかけとなるべ く、展覧会の模様を伝える【ミュージアム・レポート】をスタートしました。
そのような経緯から、上野の森美術館にて開催中の深堀隆介展「金魚鉢、地球鉢。」をご紹介します。
今にも動き出しそうな美しい金魚たち…金魚の持つ神秘性に魅了され、作品創作を続けている深堀隆介は、透明樹脂にアクリル絵具で金魚を描くという、独自の斬新な手法で注目を集める現代美術家です。
彼は、アーティストとしての活動を悩んでいた時期、放置していた水槽で生き続ける金魚の存在に気づき、その美しさに心打たれて、金魚をモチーフに制作をはじめました。
現在では、国内はもとより今や世界的にも高い評価を受け、近年ではライブペインティングやインスタレーションにも力を入れ、表現と活動の幅を広げています。
東京の美術館では初めて本格的に発表する本展覧会では、初期作品から最新作品まで約300点もの作品を展示し、絵画でありながら立体的な躍動感にあふれ、不思議な美しさを湛えた“深堀金魚”をお楽しみいただます。
極めて独創的な深堀の技法は、器の中に樹脂を流し込み、その表面にアクリル絵具で金魚を少しずつ部分的に描いていき、さらにその上から樹脂を重ねるというものです。
そうした作業を繰り返すことにより絵が重なり合い、まるで生きているかのような金魚が表現され、圧倒的な立体感をもって観るものに迫ります。
その生き生きとしたリアリティは、平面である絵画作品と立体作品の境界に揺さぶりをかける革命的絵画―2.5D Painting-(積層絵画)と言えるでしょう。
今回、深堀は自身の作品の代名詞とも言えるべき ―2.5D Painting-(積層絵画)を「20年かけてレベルアップさせてきた」と語っています。
最初の展示作品である年代順に並べられた『金魚酒』に注目してみると、試行錯誤しながら描かれていることがわかることでしょう。
初期作品では金魚をパーツ毎に分けて描き、筆跡さえも残っている状態ですが、年代を重ねていくにつれて、金魚の鰭の透け感や鱗の立体感などが際立ち、どこから描いたのかさえ見当がつきません。
どのように重ねて描いて表現しているかなど、作品の構造を想像しながら鑑賞してみてください。
本展覧会タイトル「金魚鉢、地球鉢。」は、たくさんの金魚を飼っている深堀が金魚鉢を掃除しながら、「地球は金魚鉢と一緒」という思いがもととなっているそうです。
金魚鉢の濁った水を地球の空気になぞらえたメッセージから、私たちは何を汲み取り何を感じ取ればいいのでしょうか。
ぜひ圧倒的な立体感を持って命が吹き込まれた“深堀金魚”を鑑賞しながら思いを馳せてみてください。
取材・撮影・文:新麻記子
【情報】
深堀隆介展「金魚鉢、地球鉢。」
会期:12月2日 (木) 〜 2022年1月31日 (月)
会場:上野の森美術館
開館時間:10:00~17:00(入館は16:30まで)
※休館日:12月31日(金)、1月1日(土)
特設ホームページ:https://www.kingyobachi-tokyo.jp/index.html